きたがわ翔のブログ

きたがわ翔のブログ

漫画家です。
仕事や日常生活についてゆる〜く発信していこうと
思っています。

Amebaでブログを始めよう!

おっそろしく久しぶりのブログです。しかも漫画紹介に関するブログは下手したら2年ぶりくらいになるのかも.....?

 

それもこれも現在私がニコ生で友人漫画家山田玲司氏とやってる番組”れいとしょう”にて毎度毎度濃〜い漫画考察を繰り広げているお陰で漫画ブログを書く体力(気力?)が著しく失われてしまうという状態が続いているせい。あまりに久し振りなためお見苦しい文章になるかもしれませんがそこはどうかご了承のほどを....(いきなり自己弁護かよ!!)

 

でも今回は気合入れて書きますよ!!ええ書かせていただきますとも!!

 

ご存知の方も多いと思われますが私は70s漫画が大、大好きな漫画家であります。中でも24年組が活躍した少女漫画ルネサンス期をことのほか敬愛しておりますが、これから紹介する作品は73年に高校3年生で漫画家デビューをし、なおかつ美内すずえ、樹村みのり、山岸凉子その他諸々の先生方の臨時アシスタント(もとい修羅場)を経験された作者のこれまた大変×2に貴重な証言による、そして発売後僅かにして既に第4版を重ねているという現在大注目のエッセイ漫画であります!!

 

 

実は作者の笹生さんとは数年前ひょんな事から仲良くさせていただいていて、彼女が同人誌にて小出しに描かれていたアシスタントネタの大ファンだった私はエピソードのいくつかはすでに読了済み。それに大幅な加筆を加えた今回の作品に私が狂喜乱舞しないわけないじゃあ〜りませんかっ!!いやもう最高!!笹生さんマジ素晴らしいっ!!

 

 

閑話休題

 

 

以下多少ネタバレになるのでこれから読む方はお気をつけくださいませ。

 

 

冒頭は当時中学3年生だった笹生さんが締め切りに追われて缶詰状態の、当時1番憧れて毎月ファンレターを送っていた美内すずえ先生ことリンリンちゃん♡  とご対面するエピソードから始まります。

この美内すずえ先生、そしてその後出てくる他の先生もそれぞれが描かれる絵柄、主人公と同じ顔で登場します。これがなんとも秀逸なんですよ!!

 

例えばこちらは三原順先生(サーニン楓)

 

こちらは樹村みのり先生。

 

 

笹生さんはデビュー以前から当時競って漫画を描いていた親友の華麗な絵柄に比べ派手さのない自分の絵にコンプレックスを持っていたそうなのですが、実は非常に見やすくて基本に忠実な高い画力を持つ笹生さんの絵の長所がこの漫画では遺憾無く発揮されています。もし笹生さんの絵柄がまつげバチバチの自己主張の強すぎる絵柄だったら各先生方の絵柄を殺してしまい、ここまで完璧に読みやすい漫画にはならなかったと思うのです。

 

話を戻します。この時まだ若干20歳になったばかり(若い!!)でなおかつこの時すでに別マの看板作家だった(ひえええ!!)美内先生は笹生さんと5つ違い。(ま、マジか....)50もすぎると5つくらいの年の差ってそう気にもならなくなりますが、10代の頃憧れの先生とファンとの5歳差というのは感覚的には地球を数周するくらいの距離が....(おいおい)その時の先生がかけてくださったお言葉がこれ。

 

 

笹尾(旧姓)さんのくれる手紙いつも色付きの絵が描いてあって....

時間かけて描いてるんでしょ?嬉しいわ。

お手紙本当に楽しみにしてるの。編集部からファンレターをもらうと

真っ先に笹尾さんの手紙を探すのよ

 

 

ここを読むとつい泣きそうになってしまう。なぜなら私も過去に似たような経験があったから。

憧れの先生の何気なく、しかも優しく自己肯定してくれる言葉というものがその後ファンにとってどれほど大きな心の支えになるか。こういう言葉はその後何年経とうとも一句たりとも忘れません!絶対に!

 

実際ここに出てくる若き美内先生の漫画家、人間としての器の大きさにはほとほと唸るものがあります。

 

 

アシスタント達が待機している最中、ガラかめのネームを終えた美内先生が現れます。

 

 

ネームふた通りできちゃったの。どっちがいいかみんなの意見聞かせて。

担当さんはどっちでもいいっていうの。でもどっちの終わり方がより続きが気になるか!

ぜひ聞かせて欲しいの!

 

 

たとえ一ヶ月座りきりでも(げっ!)1日半絶食しても(ぐわあっ!)一切の妥協を許さないこの姿勢....

先生の読者を惹きつけてやまない作品の裏には実際これだけ多くの犠牲があったのです。

何よりも読者を楽しませること、そしてそれを誰よりも生きがいと感じていなければこんな事は決して出来るはずもなく....

ま、まさしくエンタメの神ですわ美内先生!!

 

 

そして、私が大好きなのが山岸凉子先生のこちらのエピソード。

 

アシスタントに入った笹生さん達の前で怪訝な顔をしつつ仕事を進める山岸先生。

 

 

今回は編集部に青春ものをと言われてしまったの。でもこれしか思い浮かばなくて。ああ描きたくない.....

 

 

 

 

ちょ....待っ....山岸先生.....

せ.....せ・い・し・ゅ・ん・モノ   で思いついたのがあの作品て.....

 

だって.....

 

きえーーーーーーーですよ!?きえーーーーーーーー!!

 

 

 

私は同業者の観点から笹生さんにこう言いました。

 

 

(私)よ、よくあのネーム編集者が通しましたよね....?

 

 

(笹生さん)いや、多分ネームは見せてない......

 

 

(私)............(;´∀`)

 

ネームチェックをせず、いきなりあの原稿をもらって一読した編集者はさぞかし腰を抜かしたことでしょう。

ともあれ、その作品は漫画史に燦然と輝く名作となったのでした。(どの作品かは本作をご覧あれ)

 

 

 

 

そして....

 

このエッセイ漫画を全てを読了し、私がなぜこの時代の漫画に惹かれるのか理由がまた1つ明確になったような気がしました。

そもそも私が子供の頃、漫画というものの一体どこに惹かれたのか.....

 

 

それは”線”でした。

それぞれの先生方の手で引かれた個性のある生々しい線に私は惹かれてこの道を進んだのでした。

 

デジタルで引かれた線を否定する気は無いし、そこには魂が籠っていないなどと言うつもりは毛頭ありません。

 

ただ漫画というものが未だ若かったあの時代、

20代のうら若き乙女達が自分の青春をかけて眠い目をこすりながら白い紙に引きまくったたくさんの線たち。

決して洗練されていなくとも、そこから発散される熱い何か。

 

それは時代を超えて、恐らくこの先もずっと人の心を打つものだと私は信じてやみません。