結論からいいますと課税庁側(杉並税務署長)が負けた判例です。


ホステスさんへの報酬は給与ではないので通常の給与所得の源泉

徴収とは計算方法が違います。


計算式は

(支払う報酬-5千円×支払金額の計算期間の日数)×10%

となります。


具体的には

3月の一ヶ月の出勤日20日で計算金額が100万円だった場合

(100万円-5千円×31日)×10%=84,500円

となるわけですが、税務署側は計算期間の日数は出勤日で計算

するとして

(100万円-5千円×20日)×10%=90,000円

で納付すべきであるとした訳です。


今回の判決では納税者側の計算方法が法律に則っているという

結論になったわけで、何事も安易な妥協はいけないという事例で

すし、税務署の言われるままに処理をしていく事の危うさを示した

ものだと思います。


さすが鳥飼先生!!


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下記は長いですが判決の全文です。


主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人鳥飼重和,同橋本浩史,上告補佐人佐野幸雄の上告受理申立て理由
(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,パブクラブを経営する上告人らが,ホステスに対して半月ごとに支
払う報酬に係る源泉所得税を納付するに際し,当該報酬の額から,所得税法(以下
「法」という。)205条2号,所得税法施行令(以下「施行令」という。)32
2条所定の控除額として,5000円に上記半月間の全日数を乗じて計算した金額
を控除するなどして,源泉所得税額を計算していたところ,被上告人らから,上記
控除額は5000円にホステスの実際の出勤日数を乗じて計算した金額にとどまる
として,これを基に計算される源泉所得税額と上告人らの納付額との差額について
納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を受けたことから,これらの取消しを求め
る事案である。
2 パブクラブを経営する者がホステスに報酬(以下「ホステス報酬」とい
う。)を支払う場合,その支払金額から「政令で定める金額」を控除した残額に1
00分の10の税率を乗じて計算した金額が納付すべき源泉所得税の額となるとこ
ろ(法204条1項,205条2号),施行令322条は,上記の「政令で定める
金額」を,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支
払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」とする旨規定している。
3 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
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(1) 上告人らは,それぞれ経営するパブクラブにおいて,顧客に対し,接待を
して遊興又は飲食をさせており,その接待をさせるホステスを使用している。
上告人らは,年末年始を除き,年中無休でパブクラブを開けて営業している。
(2) 上告人らは,各ホステスが採用時に提出した応募申込書に記載された出勤
可能な曜日及び時間を目安に,各営業日の開店前までに,各ホステスに対して当日
の出勤の可否を電話等で確認するなどして,ホステスの必要人数を確保しており,
各ホステスの実際の出勤の有無についても,各人別に各日ごとに管理している。
(3)ア上告人らは,毎月1日から15日まで(ただし,毎年1月は3日から1
5日まで)及び毎月16日から月末まで(ただし,毎年12月は16日から30日
まで)をそれぞれ1期間と定め(以下,各々の期間を「本件各集計期間」とい
う。),本件各集計期間ごとに各ホステスの報酬の額を計算し,毎月1日から15
日までの報酬を原則としてその月の25日に,16日から月末までの報酬を原則と
して翌月の10日に,各ホステスに対してそれぞれ支払っている。
イ上告人らは,各ホステスに対して支払う報酬の額について,「1時間当たり
の報酬額」(本件各集計期間における指名回数等に応じて各ホステスごとに定まる
額)に「勤務した時間数」(本件各集計期間における勤務時間数の合計)を乗じて
計算した額に,「手当」(本件各集計期間における同伴出勤の回数に応じて支給さ
れる同伴手当等)の額を加算して算出している。
ウ上告人らは,それぞれ,上記イのとおり算出した各ホステスの報酬の額か
ら,5000円に本件各集計期間の全日数を乗じて計算した金額及び「ペナルテ
ィ」(各ホステスが欠勤,遅刻等をした場合に「罰金」として報酬の額から差し引
かれるもの)の額を控除した残額に100分の10の税率を乗じて各月分の源泉所
- 3 -
得税額を算出し,その金額に近似する額を各法定納期限までに納付していた。
(4) 被上告人らは,各ホステスの本件各集計期間中の実際の出勤日数が施行令
322条の「当該支払金額の計算期間の日数」に該当するとして,① 被上告人杉
並税務署長において,平成15年7月8日付けで上告人X1に対し,同12年2月
分から同14年12月分までの各月分の源泉所得税について,納税の告知及び不納
付加算税の賦課決定を行い,② 被上告人武蔵野税務署長において,同15年6月
30日付けで上告人X2に対し,同12年4月分から同14年12月分までの各月
分の源泉所得税について,納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を行った。
なお,被上告人らは,本件訴訟において,上記の点に加え,ペナルティの額を各
ホステスの報酬の額から控除することはできない旨の主張をしている。
4 原審は,上記事実関係の下において,各ホステスの報酬に係る源泉所得税額
を計算するに当たりペナルティの額を各ホステスの報酬の額から控除することはで
きないとした上で,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきも
のとした。
ホステス等の個人事業者の場合,その所得の金額は,その年中の事業所得に係る
総収入金額から必要経費を控除した金額(法27条2項)であるから,源泉徴収に
おいても,「同一人に対し1回に支払われる金額」から可能な限り実際の必要経費
に近似する額を控除することが,ホステス報酬に係る源泉徴収制度における基礎控
除方式の趣旨に合致する。本件のように,報酬の算定要素となるのが実際の出勤日
における勤務時間である場合には,当該出勤日についてのみ稼働に伴う必要経費が
発生するととらえることが自然であって,これによるのが,非出勤日をも含めた本
件各集計期間の全日について必要経費が発生すると仮定した場合よりも,実際の必
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要経費の額に近似することになる。
施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「同一人に対し1回
に支払われる金額」の計算要素となった期間の日数を指すものというべきである。
そして,本件における契約関係を前提とした場合,各ホステスに係る施行令322
条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,本件各集計期間の日数ではなく,実
際の出勤日数であるということができる。
5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 一般に,「期間」とは,ある時点から他の時点までの時間的隔たりといっ
た,時的連続性を持った概念であると解されているから,施行令322条にいう
「当該支払金額の計算期間」も,当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日か
ら末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然であり,これと
異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない。
原審は,上記4のとおり判示するが,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解
釈すべきものではなく,原審のような解釈を採ることは,上記のとおり,文言上困
難であるのみならず,ホステス報酬に係る源泉徴収制度において基礎控除方式が採
られた趣旨は,できる限り源泉所得税額に係る還付の手数を省くことにあったこと
が,立法担当者の説明等からうかがわれるところであり,この点からみても,原審
のような解釈は採用し難い。
そうすると,ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場
合においては,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホス
テスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指すものと解
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するのが相当である。
(2) 前記事実関係によれば,上告人らは,本件各集計期間ごとに,各ホステス
に対して1回に支払う報酬の額を計算してこれを支払っているというのであるか
ら,本件においては,上記の「当該支払金額の計算期間の日数」は,本件各集計期
間の全日数となるものというべきである。
6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,法205条2
号,施行令322条所定の控除額を,5000円に本件各集計期間の全日数を乗じ
て計算した金額とした上で,上告人らが納付すべき源泉所得税額及び不納付加算税
額を算定させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官
近藤崇晴)