今回も、オウムの話です。興味のない方はスルーをお願いします。

まさかの売り切れ続出!?高橋克也容疑者が愛読した「呪術本」の内容とは

先週あたりから問い合わせが相次いでいます。有名なシリーズなので常備している店舗が多いのですが、高橋容疑者が読んでいた2冊を始め、一部商品には品切れになるものも出ています

“呪術本”著者>>カルロス・カスタネダ
ブラジル生まれの人類学者で、1968年に刊行された『呪術/ドン・ファンの教え』が、彼がいたアメリカだけではなく、世界的にヒットし、とくに当時勢いをもっていたカウンター・カルチャーの運動に多大な影響を与えた


松岡正剛の千夜千冊『呪術師と私』カルロス・カスタネダ


カスタネダの本がベストセラーになったのには、いろいろ理由がある。ひとつは初めてメキシコのネイティブ・インディアンの思索と行動を通して、その宇宙観や世界観が紹介されたことである。それは「知恵」ともいうべきものだった。この「知恵」が物質文明や技術文明に毒されている者にとってたいそう斬新だったのである。驚くべき知恵だといってよかった。


『呪術/ドン・ファンの教え』。ずいぶんと懐かしいタイトルが出てきたなというのが、第一の感想でした。

この呪術本が出版された68年はのちにパラダイムシフトと言われる特異な年でした。日米欧での学生運動、労働者のストライキ、のちのサブカルチャーの原点となる精神世界ブームのピークを迎える年でした。

これらの68年運動やブームは、警察力によりデモやドラッグは鎮圧され、ストライキや集会は法的に禁止強化が進み、反体制活動家やヒッピーたちは次第に大衆の支持を失い、社会も経済も低迷する70年代へ移ります。

当時支持された『呪術/ドン・ファンの教え』という本は、オウム的な”超能力本”ではなくて、新しい価値観を文明社会の外から紹介した”メッセージ本”なんですね。だから、精神世界やヒッピーたちだけではなく、左翼や反体制支持者にも読まれて話題になったんです。

高橋容疑者は、当然68年当時の人ではなく、80年代後半の第2次精神世界ブーム時にこの本を知ったと思われます。高橋容疑者は、1987年7月にオウム真理教に出家しています。ちなみに、オウム真理教は、1987年東京都渋谷区で、従前の「オウム神仙の会」を改称し、宗教団体として設立。

80年代後半は、バブル経済が始まる頃でしてモノと情報が氾濫。左翼思想家の吉本隆明は、高度消費社会を賞賛し、「政治思想」が終わった年でもあります。

オウム麻原が当時文化人にもてはやされた理由のひとつに、チベット密教の体験的理解者として新しい価値観のメッセンジャーだと、「カスタネダ」の亜流と勘違いされたところにあるようです。しかし実際のところ、麻原は文化的な価値には関心はなくオウム的な”超能力”開発をチベット密教に求めていたのですから。

オウム教団の中で、この『呪術/ドン・ファンの教え』がどんな評価だったか知る由もないのですが、麻原の教えには劣るものだったのだろうな。

高橋容疑者は、逃走時に『呪術/ドン・ファンの教え』をオウム目線で超能力本として読んでいただろう。高橋容疑者の頭の中は、精神世界へと傾倒し出家をした駆け出しの頃のまま、なんら成熟せずに17年逃走生活をしていたのかと感じました。

もちろん彼の言葉は報道されませんから推測にすぎませんが、逃走とは言えシャバでの生活なのですから社会について関心をもっと持つはずなのに、社会に対して目を閉じて耳を塞いでいたのかと思います。東日本大震災が起こり、福島でメルトダウン事故となっても。

ここまでこのブログを書いていて、テレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の「笑い男マーク」で知ったサリンジャーの一文を思い出しました。
「I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes(僕は耳と目を閉じ口をつぐんだ人間になろうと考えた)」

彼は警察からの逃亡だけではなく、あるはずの無いユートピア世界(超能力が発動する世界!)を夢見て探し続けた逃走。

そんな未成熟な内面をなんとなしに、私は高橋容疑者に感じました。

笑い男


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