安倍首相は、憲法に自衛隊を明記しても何も変わらないと説明します。

では、本当に、憲法9条1項、2項を残したまま9条の2に自衛隊を明記しても「何も変わらない」のでしょうか。

話を分かりやすくするために、「猫好きの会」と「犬好きの会」を例に用いて説明します。

…………

とある大学では、猫好きの学生が集まって、「猫好きの会」というサークルを作ることにしました。活動内容は、猫の動画を見たり、猫の肉球を触ったりとかそんな感じです。

ある日、「猫好きの会」の在り方を問う、重大な会議が開かれました。


タマ子「今日みんなに集まってもらったのは、《例の件》について議論するためよ」

トラ也「はあ、《例の件》ね。。気が重いなあ。。」

ブチ美「ん?《例の件》って何だったっけ?」

タマ子「あれよ。あれ。ポチ太の件」

ブチ美「あー、あれか。私、その件についてはよく分からないのよね。。」

トラ也「頭の痛いテーマだよな。。」

タマ子「そうね。でも、ちゃんと白黒付けなきゃ。ミケ乃がどうしてもポチ太をこの『猫好きの会』に入れたがったんだから」

ブチ美「ミケ乃とポチ太が付き合ってるからって、何も一緒のサークルに入る必要はなくない?イチャイチャするなら余所にして欲しいんだけど」

トラ也「同感。激しく同意するね」

タマ子「2人とも恋人がいないからって、嫉妬するのは醜いわよ。問題はそこじゃないの。2人もよく知ってると思うけど、ポチ太は猫がちっとも好きじゃないの。彼は犬好きなの」

ブチ美「たしかにそれは大問題よね。だって、ここは『猫好きの会』よ。犬好きを入れるのには違和感があるわ」

トラ也「別に妬いてるわけじゃないけど、俺も同感だな。犬好きとは分かり合えない」

タマ子「2人の言ってることも分かるけど、私は同じサークルのメンバーとして、ミケ乃の気持ちも尊重したいの」

トラ也「うーん。悩ましい。。」

ブチ美「…あ、そうだ!こういうときは規約を見ればいいんじゃない!?」

タマ子「なるほど!それは名案ね!」

トラ也「規約?」

タマ子「トラ也、忘れたの?2年前にこのサークルを立ち上げたときに、『猫好きの会規約』を作ったじゃない。将来の紛争に備えて」

トラ也「あー!思い出した!まさに今使わないでいつ使うんだ、って感じだな!タマ子、手元に規約はあるか?」

タマ子「たしか、この机の引き出しにしまったはず……あった!見つけたわ」

ブチ美「ナイスタマ子!犬好きの入会資格について何か規定はあるかしら?」

タマ子「ちょっと待って。今調べる。。」


タマ子が規約を隅々まで探したところ、入会資格について書かれた規定は、以下の1つだけでした。


猫好きの会規約
第9条(入会資格)
「このサークルには猫好き以外は入れない」


タマ子「どうやらこの9条の規定しかないみたいね。『猫好き以外は入れない』だって」

ブチ美「犬好きについては何か書かれてないの?」

タマ子「犬好きの『い』の字もないわ」

トラ也「っていうか、『猫好き以外は入れない』んだろ。普通に考えて犬好きはアウトなんじゃないか」

タマ子「そうだけど、でも、それだとミケ乃が納得しないわ。怒ってサークル辞めちゃうかも」

ブチ美「それは困るわ。ミケ乃は私達の大事な仲間よ。それに、芸術学科の彼女にサークルのチラシ類の作成は全部任せてたわけだから、辞められたら大損失よ」

トラ也「それもそうだな。とはいえ、規約は猫好き以外認めていないように見える。何か良い方法はないのか?」

タマ子「うーん、やや苦しいけど、解釈で犬好きの入会も認めることはできないかしら」

ブチ美「解釈?」

タマ子「そう。『猫好き』には『犬好き』も含むって解釈できないかしら」

ブチ美「かなり苦しい解釈ね」

タマ子「でも、そうするしかないでしょ。猫も犬も同じ哺乳類だし、4つ足歩行だし…」

トラ也「おいおい。そんなこと言ったら何でもありだぜ。ゾウとかカバとかもOKじゃん。。」

タマ子「それは何か違う気がするわね。もう少し猫に寄せないと…」

ブチ美「猫の特徴って何かしら?」

トラ也「可愛くて可愛くて可愛いことかな?」

ブチ美「溺愛ね?」

トラ也「あと小さいところかな?」

ブチ美「その特徴は犬も共有してる?」

トラ也「猫には到底及ばないけど、多分、大体は…」

タマ子「それは犬に寄りけりじゃない?たとえば、チワワとかの小型犬だったら可愛いし小さいけど、ブルドッグとかドーベルマンとかの大型犬はだいぶ違うわ。猫とは全くのベツモノ」

ブチ美「じゃあ、こうやって解釈しましょう!『猫』には、猫のように小さくて可愛い小型犬も含む、って解釈するの。そうすれば、ポチ太も規約に反しないで入会できるはずだわ!」

トラ也「ポチ太の飼い犬がセントバーナードじゃないことを祈るよ」


………

ストーリーが長くなってしまい恐縮です。

こうして「猫好きの会」では、規約9条の「このサークルには猫好き以外は入れない」の「猫」には、猫のように小さくて可愛い小型犬も含む、という解釈をし、犬好きの一部の入会を認めることにしました。


ここで、仮に、タマ子が規約を見たところ、9条の2に「9条の規定は、犬好きの入会を妨げない」と書いてあったら、ストーリーはどうなっていたでしょうか。

おそらく、

タマ子「9条の2によれば、犬好きの入会は妨げないそうよ」

ブチ美「あ、そうなんだ。じゃあ、犬好きも問題なく入れるわね」

トラ也「明記されてるもんな」

という展開になり、規約9条の「このサークルには猫好き以外は入れない」の「猫」には、猫のように小さくて可愛い小型犬も含む、などという解釈をする必要がなくなります。
たとえ、トラ也の懸念するとおり、ポチ太がセントバーナード好きだったとしても、猫好きの会への入会が認められることになります。


それでは、本題の自衛隊の話に戻ります。

9条には「戦力を保持しない」と書いてあります。そのため、政府は一見すると認められていないように見える自衛隊を認めるために、ガラス細工とも揶揄されるような解釈を展開します。
「必要最小限度の実力組織は『戦力』に当たらない」
という解釈です。そして、自衛隊は「専守防衛」「攻撃的空母を持たない」「集団的自衛権を行使しない」と決めることによって、自衛隊は「必要最小限度の実力組織である」との解釈を保ち続けてきたのです。

ここで、仮にそもそも最初から憲法9条の2に自衛隊が明記されていたとすれば、どうなっていたでしょうか。自衛隊が明記されている以上、わざわざ自衛隊について一言も書いていない9条を解釈でこねくり回す必要はなく、9条の2を参照し、「うん。自衛隊が明記されてるから、自衛隊OKだね」と一瞬で結論が出されたのではないでしょうか。

換言すると、今まで自衛隊を制限していた9条の解釈やそれに伴う「専守防衛」などの決まりごとは、自衛隊が明記された途端に役割を終え、不要になるのです。犬好きについての規定があれば、何も猫に寄せて「猫のように小さくて可愛い小型犬」という解釈を生み出す必要がないのと同じです。

仮に、明記しても何も変わらない、つまり、今までの解釈を踏襲するのであれば、今までの解釈を一緒に明記すればいいのです。「犬好きは妨げない」ではなく、「猫のように小さくて可愛い小型犬好きは妨げない」とそのまま書けばいいのです。そうはしないで、「犬好きは妨げない」と書く以上、やはり規約はセントバーナードをも認める方向に変わっているのです。


自衛隊明記によって何も変わるはずがない、という言説はまやかしだと言わざるをえません。