生活保護基準引き下げ、ガマンするしかないの?~審査請求やってみよう! -2ページ目

生活保護基準引き下げ、ガマンするしかないの?~審査請求やってみよう!

2013年8月から始まる生活保護基準引き下げに対する審査請求手続きについてのブログです。
管理:生活保護基準引き下げにNO! 争訟ネット

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2013年10月11日

厚生労働大臣  田村 憲久 殿
社会保障審議会生活保護基準部会
 部会長 駒村 康平 殿

                      生活保護基準引き下げにNO!全国争訟ネット
                           共同代表 尾藤廣喜・竹下義樹
                      「STOP!生活保護基準引き下げ」アクション
                         呼びかけ人代表 宇都宮 健児
                      生活保護問題対策全国会議
                           代表幹事   尾 藤 廣 喜
                      全国生活と健康を守る会連合会
                           会  長   安 形 義 弘
                      中央社会保障推進協議会
                           事務局長   山 口 一 秀
                      生存権裁判を支援する全国連絡会
                            会  長   井 上 英 夫

「1万件審査請求」の達成を踏まえ,
生活保護基準引き下げの撤回と
生活保護基準部会における慎重な検討を求める要望書



第1 はじめに
 国は,総額670億円(平均6.5%,最大10%)という過去前例を見ない大規模な生活保護基準の引き下げを決め,本年8月に最初の引き下げが始まりました。私たちは,「前例のない攻撃に対しては前例のない反撃を」と,「1万件審査請求運動」に取り組んできましたが,合計1万191件の審査請求がすべての都道府県に提起され,遂に目標を達成しました。
 過去最多の年間審査請求件数1086件(2009年)の約10倍の審査請求が,本年7月26日の呼びかけから2か月余りの短期間で提起されたのです。生活保護に対する強いバッシングを乗り越えて,これだけ多くの当事者が立ち上がったことは,基準引き下げの手法に全く道理がなく,さらに厳しい状況に追い込まれたことに対する当事者の怒りの強さを示しています。
 国は,この当事者の声の重みを真摯に受け止めなければなりません。

第2 要望の趣旨
1 根拠のない生活保護基準の引き下げを直ちに撤回するとともに,インフレ(特に食費,光熱費等)を考慮して,むしろ引き上げてください。

2 再開された生活保護基準部会の運営にあたっては,

① 生活扶助引き下げの最大の根拠とされた「物価動向(デフレ)論」の妥当性,仮に「物価動向」を考慮するのであれば,どのように考慮すべきかについて十分に検討・検証してください。

② 技能習得費等の一時扶助,住宅扶助,加算の削減・廃止等新たな保護基準削減実現の場として悪用しないで(されないで)ください。

③ 部会委員に生活保護利用当事者や支援者・法律家を入れてください。少なくとも,当事者の意見を聴取する機会を設けてください。


第3 要望の理由
1 生活保護基準引き下げの撤回とインフレを考慮した引き上げ

 繰り返し主張してきたとおり,今回の生活扶助基準の大幅引き下げは,結論先にありきで正当な根拠が全くありません。引き下げに正義がないことは,1万世帯以上の当事者が審査請求に立ち上がったことからも明らかです。
 また,デフレを理由に基準は引き下げられましたが,アベノミクスは2%のインフレ目標を掲げ,現に8月の消費者物価指数は前年同月比で0.8%上昇し,電気代(前年同月比8.9%上昇),ガソリン代(同13.2%上昇)等のエネルギー価格の上昇には著しいものがあります。これらの物価上昇が生活保護を利用する低所得者の生活を直撃することは明らかであり,10月4日の基準部会において岩田正美委員が正当に指摘されたとおり,生活扶助基準を「当然に上げる」べきです。
 デフレだけは大幅に考慮しておきながら,インフレは全く考慮しないというのであれば,論理の一貫しない単なる「弱い者イジメ」というほかありません。

2 生活保護基準部会の運営について
(1)引き下げの最大の根拠とされた「デフレ論」の検証を

 総額670億円の引き下げの9割方を占める580億円は基準部会において全く議論されなかった「物価動向(デフレ)を勘案」したものでした。昭和59年以来採用されてきた「消費水準均衡方式」の変更が,専門部会である基準部会での検討を全く経ずに行われるという極めて乱暴な事態です。
 しかも,厚生労働省が大幅な基準引き下げの根拠とした「生活扶助相当CPI」なるものは,生活保護利用世帯ではない一般世帯のデータを使い,総務省が通常用いる統計処理の方式とは全く異なる「基準年」の設定を行った結果,生活保護利用世帯では購入頻度が低く,本来は殆ど影響を受けないはずの,物価下落幅の大きい電化製品の影響が増幅され,総合物価指数の2倍以上の下落幅(4.78%)を導くという極めて恣意的で「でっち上げ」とも言えるものです。
 こうした厚生労働省の横暴は,学識経験者の専門部会である生活保護基準部会の存在意義を無視し,冒涜するものです。再開された基準部会においては,まず,「物価動向を勘案すること」の是非と「勘案するのであれば,どのように勘案すべきか」が十分に検討・検証されるべきです。

(2)さらなる引き下げの口実をつくる場として悪用しないで(されないで)
 厚生労働省は,10月4日の基準部会において,「住宅扶助や加算制度について客観的データを用いた分析」を行うこと,技能習得費等の一時扶助について,「活用実態を踏まえながら,今日的な役割やより効果的な見直しができないか」の議論を提案しています。特に技能習得費については,アンケート作業を行っているということであり,就労収入に対する「特別控除」が昨年11月の基準部会で示されたアンケートを根拠に「活用の程度にばらつきがある」として廃止されたのと全く同様の手法によって技能習得費を廃止することが強く懸念されます。
 しかし,技能習得費(原則75,000円以内,特別基準124,000円以内)は,例えば運転免許の習得など就労自立を容易にするために非常に効果的な制度です。活用実態にばらつきがあるのなら,扶助できる金額が低すぎるなど活用しにくい点を改善するとともに,活用していない福祉事務所に対して十分な活用を促すことこそが求められています。今般の制度改革は一方で「就労自立の強化」を謳っています。技能習得費の削減・廃止は,有効な支援メニューを奪いながら,就労自立のみを強いることにつながり,「支援なき就労恫喝」の横行を招くことが必至です。
 基準部会が,こうした見え透いた誘導に乗せられ,さらなる引き下げの口実をつくる場として悪用されることのないよう,慎重な審議を望みます。

(3)当事者・支援者の声を聞いて
 制度改革にあたっては,最も影響を受ける当事者の声を十分に聞くことが当然に必要ですが,生活保護の分野においては,当事者の声は徹頭徹尾無視されてきました。基準部会における委員構成や審議の仕方も例外ではありません。
しかし,障がいの分野では,政府の障がい者制度改革推進本部に当事者が多数委員として参加するなど,「私たち抜きに私たちのことを決めるな」という考え方が定着しています。その他の政府の審議会においても,当事者からのヒアリング等を行うことは一般に行われています。
生活保護利用者は,社会的に強いスティグマ(偏見や恥の烙印)があり,最も声を上げにくい立場に置かれています。だからこそ,本来,意識的にその声をすくい上げることをしなければ制度改革の方向性を誤ることとなります。
生活保護基準部会の委員にも生活保護利用当事者や支援者を入れるべきであり,少なくとも意見聴取の機会は設けるべきです。

以 上

10月4日社会保障審議会生活保護基準部会資料「今後の議論の進め方について」
審査請求件数集約(2013.10.10)
 PDF版のダウンロードはこちらから click

審査請求件数集約(2013.10.10)



地域名/①全国争訟ネット集約分/②全生連集約分/各県小計
  ① 各県法律家団体、全国関係争訟ネットにて集約したもの
  ② 各県連・単位組織の他、全生連にて集約したもの

北海道 8/1,373/1,381
青森県 1/223/224
岩手県 1/24/25
宮城県 3/85/88
秋田県 0/244/244
山形県 22/3/25
福島県 0/103/103
茨城県 2/90/92
栃木県 2/1/3
群馬県 30/6/36
埼玉県 104/247/351
千葉県 17/174/191
東京都 173/550/723
神奈川県 36/146/182
新潟県 0/322/322
山梨県 2/15/17
長野県 26/39/65
富山県 0/4/4
福井県 1/18/19
石川県 77/0/77
静岡県 23/143/166
岐阜県 0/35/35
愛知県 78/134/212
三重県 7/68/75
滋賀県 1/30/31
京都府 56/479/535
大阪府 124/1,608/1,732
兵庫県 20/263/283
奈良県 4/50/54
和歌山県 16/0 16
鳥取県 0/45/45
島根県 1/0/1
岡山県 5/280/285
広島県 2/418/420
山口県 0/110/110
徳島県 2/56/58
香川県 13/15/28
愛媛県 196/13/209
高知県 34/0/34
福岡県 7/887/894
佐賀県 44/1/45
長崎県 0/12/12
熊本県 33/144/177
大分県 0/162/162
宮崎県 1/45/46
鹿児島県 0 320/320
沖縄県 13/12/25
地域不明 9/0/9
 合計 1194/8,997/10,191

 生活保護審査請求数の推移(2003年度~2011年度)
  2011年度/918件
  2010年度/936件
  2009年度/1,086件(過去最高件数)
  2008年度/744件
  2007年度/635件
  2006年度/1,054件
  2005年度/790件
  2004年度/1,029件
   (老齢加算減額処分取消請求が集団で出され、初めて1000件を超えた。)
  2003年度/370件
 出所:福祉行政報告例(厚生労働省統計)


現在、早期に審査請求を申し立てた生活保護利用当事者に対して、都道府県知事より、「これを棄却する」との裁決が出始めています。

 棄却裁決に対しては、

 ① 厚生労働大臣に対する「再審査請求」
     (裁決を知った日の翌日から30日以内)

 ② 処分取り消しを求める裁判(裁決を知った日の翌日から6ヶ月以内)

という、2つの手段があります。


 同じ都道府県内でも、棄却裁決の出た方と、まだ裁決の出ていない方もおられます。
 なるべく、裁判の時には足並みを揃えたいと思いますので棄却裁決が出た方は、ぜひ、①の厚労大臣に対する再審査請求手続きを取ってください。 
 以下から、「再審査請求書」のひな形と記入見本をダウンロードできるようにしていますので、ご利用下さい。
 ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

【書式ダウンロード】
 ・再審査請求書(ひな形)
    WORD版 PDF版
 ・記入説明付きひな形
    WORD版 PDF版 


同じものを3通作成して、それぞれ押印し(割り印もしましょう)、2通を厚生労働大臣宛に提出して下さい。1部は、手控えとして手元に置いておきましょう。

〈送り先〉〒100-0013 東京都千代田区霞が関1丁目2-2 厚生労働大臣宛

下記にも、記入説明付きのひな形を掲載します。


再審査請求書

2013(平成25)年
●●●●日 ※1
※1 提出する日を書いてください。

厚生労働大臣 田村憲久 殿

                        再審査請求人 
●● ※2  印 
                  ※2 あなたの名前を書いてください。押印も忘れずに。    

 生活保護法に基づく保護(減額・停止・廃止)※3 処分について不服があるので、次のとおり再審査請求を行う。※3 減額・停止・廃止などあてはまるものに○を付けてください。

1 再審査請求人の住所、氏名及び年齢
  住所 
 ●● ※4 あなたの住所、氏名、年齢、生年月日を書いてください。
  氏名  ●●  (満●●歳、昭和●●●●●●日生まれ) ※4

2 再審査請求にかかる処分
  ●●※5福祉事務所長が平成25年●●●●日付※5で審査請求人に対して行った生活保護(変更・停止・廃止)※6処分
※5 処分の日付と福祉事務所名を書いてください。(決定通知書や裁決書に書いてあります)
※6 減額・停止・廃止などあてはまるものに○を付けてください。


3 再審査請求にかかる処分があったことを知った年月日
   平成●●●●●●日頃※7 
  ※7 8月分の保護決定通知書を受け取った日を書いて下さい。

  なお、
●●●知事 ※8による棄却裁決があったことを知った日は、平成25年●●●●日 ※9である。
  ※8 裁決をした知事の都道府県名を書いて下さい。(知事の名前ではありません。)
  ※9 裁決書を受け取った日を書いてください。

4 再審査請求の趣旨
  上記「再審査請求にかかる処分」記載の処分を取り消す
  との裁決を求める。

5 再審査請求の理由
(1)憲法25条、法1条、3条違反
 審査請求人は、生活保護基準引き下げに伴う本件処分によって、健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条)を下回る生活を余儀なくされた。よって本件処分は憲法25条及び法1条、3条に違反する。

(2)法8条1項、2項違反
 生活保護法8条1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」とし、同条2項は、厚生労働大臣の定める生活保護基準について、「要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない。」と定めている。
 しかし今回の基準引き下げは、上記事情を考慮せず、かえって生活保護費全体の削減という至上命題のもと、以下のとおり「要保護者の需要」(法8条1項)及び「年齢別、性別、世帯構成別、所在地域その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要」(同条2項)とはかけ離れた統計データの恣意的抽出ないし分析を行ったものであり、失当である。
 すなわち、「国費ベース」での「財政効果」を見込んで定められた削減幅670億円のうち、まず、厚生労働省が「ゆがみ分」すなわち「生活保護基準部会における検証結果を踏まえ、年齢・世帯人員・地域差による影響を調整」した結果と標榜する90億円分については、生活保護の捕捉率が高々3割にも満たない中で最も低所得者の層であって漏給層を多く含む第1・十分位を生活扶助基準と対比する一般低所得世帯として設定した手法自体に問題があるうえ、同手法を採用した社会保障審議会生活保護基準部会報告書ですら「検証結果に関する留意事項」において「今回の手法についても専門的議論の結果得られた透明性の高い一つの妥当な手法である一方、これが唯一の手法でもない。今後、政府部内において具体的な基準の見直しを検討する際には、今回の検証結果を考慮しつつも、同時に検証方法について一定の限界があることに留意」すべしとの指摘をはじめ、数々の観点から安易な引き下げに釘を刺しているのであって、同報告書を大きく逸脱している。
 また、厚生労働省が「デフレ分」すなわち「前回見直し(平成20年)以降の物価の動向を勘案」したものであると述べる580億円については、そもそもデフレ論自体前記基準部会でも全く検討されず突然持ち出されたものであって専門家による吟味を一切経ていないうえ、基準年の設定の仕方も総務省統計局が行う通常の方式とは全く異なり、しかもそこで用いられる「生活扶助相当消費者物価指数(CPI)」についても、物価下落の主因となっている電気製品の値下がりが過大に影響するなど、生活保護利用世帯の需要(法8条1項、2項)ないし実態と大きく乖離している。
 以上要するに、厚生労働大臣の裁量を逸脱した基準引き下げ告示に基づく本件処分は、法8条1項2項に違反する。

(3)知事裁決の誤りについて
 平成25年●●●●日付※10 ●●●知事※11裁決の論理構造は要するに、本件処分は厚労省告示に基づき、法8条1項のとおり計算を正確に行っているから違法または不当な点は見当たらないというものである。
  ※10 裁決された日を書いてください。(裁決書の末尾に書いてます)
  ※11 裁決をした知事の都道府県名を書いて下さい。(知事の名前ではなく。)

 しかしそもそも、生活保護制度は憲法25条の要請を受け(法1条)、同制度により保障される生活水準は「健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」(法3条)とされ、しかも法1条、法3条はいずれも「この法律の基本原理であつて、この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない」(法5条)とされている。
 したがって、生活保護基準は、憲法25条に定める「健康で文化的な生活水準」を維持できるものでなればならない。
 しかも、「被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがない」とされている(法56条)。
 憲法及び生活保護法の上記構造からしてみれば、本件処分が合憲性を持ち、適法であるためには、単に各福祉事務所長が「厚労省告示どおりに変更決定を正確に行った」というだけでは到底足りない。厚労省告示そのものが憲法25条の要請する法1条、3条の趣旨に合致し、かつ、8条1項だけでなく同条2項にも違反していないことが処分庁によって証明されて初めて、法56条所定の「正当な理由」があると認められることになるのである。

 この点について正しく判断しなかった
●●●知事※12 裁決は誤っている。
  ※12 裁決をした知事の都道府県名を書いて下さい。(知事の名前ではなく。)

6 処分庁の教示の有無及びその内容
 再審査請求、裁決取消しの訴え及び処分取消しの訴えについて、それぞれの要件及び期限に関する教示があった。


当会は、9月17日の一斉審査請求にあわせて、以下のとおりの声明を4団体共同で出しました。
PDF版のダウンロードはこちらから click


2013年9月17日
各位

                   生活保護基準引き下げにNO!全国争訟ネット
                           代表     竹 下 義 樹
                   生活保護問題対策全国会議
                           代表幹事   尾 藤 廣 喜
                   全国生活と健康を守る会連合会
                           会  長   安 形 義 弘
                   中央社会保障推進協議会
                           事務局長   山 口 一 秀


生活保護基準引き下げに対する集団一斉審査請求について

 本年8月1日、生活保護基準の引き下げが行われ、今後も2014年4月及び2015年4月に2段階目、3段階目の引き下げが予定されています。この引き下げは国家予算670億円の削減を目して行われたもので、生活保護世帯の実に96%、200万人以上の生活保護利用者の受給額が減少するという、対象、金額のいずれにおいても過去に例をみない最大の引き下げです。
 しかしこの引き下げは憲法25条の趣旨を蔑ろにし、生活保護基準のいわゆるナショナルミニマム(国民的最低限)としての重要性を全く無視したもので、生活保護利用世帯はもとより、住民税の非課税基準や医療費自己負担限度額、就学援助基準、老齢基礎年金や最低賃金の水準など、市民生活のあらゆる場面に甚大な影響を及ぼします。
 今回の基準引き下げによって、健康で文化的な生活な生活を営めなくなったという悲鳴に似た声が、全国各地から殺到しています。8月6日、7日に全国各地で実施された「生活保護基準引き下げにNO!全国一斉ホットライン」には964件もの相談が殺到し、うち少なくとも626件の当事者が、審査請求の申立代理や申立支援を希望されました。各地での担当者・支援者による個別面談や学習会・審査請求書記入会などの場でも、「減額されると暮らしていけない」、「来年、再来年にも下げられるなんて」等の声が相次ぎました。
 私たちは、史上最大の基準引き下げに対しては史上最大の審査請求運動をもって対抗すべく、「1万人審査請求」を目指し、多くの保護利用者に参加を呼びかけてきました。その結果、現時点で把握し得ている限りで、全国各地で実に7,671世帯の方が審査請求を決意し、その数は今後さらに増えることが見込まれます。高齢者世帯、母子世帯、障害者・傷病者世帯及びその他世帯のあらゆる世帯類型、世帯人員の方々が、この一斉審査請求に参加しています。審査請求をした世帯に所属する生活保護利用者の正確な人数は把握できていませんが、既に優に1万人を超えているものと推測されます。
 過去最多であった2009年でさえ、年間の審査請求申立件数は1086件に過ぎませんでしたので※1、実に6倍以上です。かつてない生活保護に対するバッシングの嵐が吹き荒れる中、不服申立をすると福祉事務所から嫌がらせを受けるのではないかという不安や、不服申立をしても良いのだろうかというためらいを持っている方々も多々おられました。しかし、こうした方も次々と、様々な不安や障壁を乗り越えて立ち上がったのです。これまで物言えぬ立場に押し込められてきた生活保護利用当事者が、このように前例のない規模で不服の声をあげたことは、生活保護制度上画期的な出来事であり、それだけ今回の基準引き下げに正義がないことを示しています。また、年金支給開始年齢の引き上げ、軽度者の介護保険からの排除、医療費自己負担の増加等の次なる社会保障削減が予定されている中、最も声をあげにくい立場におかれた生活保護利用当事者が、これだけの規模で抵抗の意思を示したことは、社会保障制度全体を守る上でも極めて重要な意義を有しています。
 政府・厚生労働大臣は、これほど多くの人々が審査請求を申立てたことを重く受け止めるとともに、一人一人の悲痛な声に耳を傾け、ナショナルミニマムを維持するため、来年4月の引き下げを即刻撤回し、引き下げ前の基準に戻すべきです。
                                   以 上


※1 生活保護審査請求数の推移(2003年度~2011年度)
  2011年度/918件
  2010年度/936件
  2009年度/1,086件(過去最高件数)
  2008年度/744件
  2007年度/635件
  2006年度/1,054件
  2005年度/790件
  2004年度/1,029件
   (老齢加算減額処分取消請求が集団で出され、初めて1000件を超えた。)
  2003年度/370件
 出所:福祉行政報告例(厚生労働省統計)