瀬口利幸(せぐちとしゆき)の思考日記A
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生まれる前の誕生日会

日曜日の昼過ぎ。
古木の携帯に、中学からの友人、河野から電話が掛かって来た。
「もしもし、河野だけど・・・」
「おう・・・久し振りだな」
「今日の午後六時から、子供の誕生日会やろうと思ってるんだけど、来れないか ?」
「えっ !? ・・・お前ん所、子供いたっけ ?」
「ん・・・ああ・・・」
「出来たんなら言えよ。水臭いな」
「ああ・・・」
「いつ生まれたんだよ ?」
「まあまあ・・・それは、な・・・」
「何だよ。歯切れ悪いな・・・それにしても急だな、今日の午後六時からなんて。普通、もっと前に連絡するだろ」
「ごめん。予定とかあるんならいいけど・・・」
「行くよ、もちろん。いろいろ聞きたいし」
「そうか。ありがとう」


午後六時前。
古木は、河野のマンションに着いた。
リビングに入ると、すでに誕生日会の飾り付けがされていて、テーブルには料理が並んでいた。
「急だったし、赤ちゃんへのプレゼントなんて、何買っていいか分からなかったから・・・」
そう言いながら、古木は、ご祝儀袋を河野に差し出した。
「ああ・・・悪いな、ありがとう」
「で・・・肝心の赤ちゃんは、どこだよ ?」
古木は、辺りを見回す。
「ここには・・・まだ居ない」
「まだ居ない !?」
「ああ」
「まだ居ないって、どういう事だよ」
「俺、考えたんだよ」
「何を ?」
「普通、子供の最初の誕生日会って一才の時だろ」
「まあな」
「生まれて一年も経って初めての誕生日会って、遅過ぎないか ?」
「まあ、でも、生まれた時はゴタゴタしてるからな。しょうがないだろ」
「いや、遅過ぎるって」
「そんな事ないだろ・・・じゃあ、まだ生まれたばっかりで、病院に居るっていう事か」
その時、ガチャッというドアを開ける音がして、
「ただいま」
河野の妻の里奈が、リビングに入って来た。
その腕には、赤ちゃんではなく、ケーキの箱が抱かれていた。
「ああ、古木君。いらっしゃい」
「こんばんは・・・あれっ ? 赤ちゃんは ?」
古木は、不思議そうな顔で聞いた。
「えっ、まだ話してないの ?」
里奈が、河野を見ると、
「実は、さっきの話には続きがあって・・・」
河野は、里奈の視線に促される様に、古木に向かって話し出した。
「何だよ ? 続きって」
「生まれて一年も経って初めての誕生日会って、遅過ぎるって言ったけど・・・よく考えたら、生まれたばっかりでも遅過ぎると思うんだよな」
「生まれたばっかりでも遅過ぎる ?」
「ああ」
「意味が分からないんだけど・・・」
「じゃあ、改めて聞くけど、本当の誕生日って、いつだと思う ?」
「本当の誕生日って、生まれた時に決まってるだろ」
「違う違う」
「違うって・・・じゃあ、いつだよ」
「受精した日だよ」
「受精した日 !?」
「ああ」
「・・・そりゃまあ、そうかもしれないけど・・・いつ受精したかなんて分からないだろ」
「分からないからって、何もしなくていいのか ?」
「しょうがないだろ・・・えっ !? ・・・という事は、もしかして・・・今日、受精したかもしれないから、その誕生日会をするっていう事か !?」
「ああ」
「いやいや。さすがに、それは頭おかしいだろ」
「何でだよ。じゃあ、将来、生まれてきた子供が、何で僕が受精した日に誕生日会してくれなかったの ? なんて言って、グレたらどうするんだよ」
「グレる訳ないだろ。受精した時の記憶なんて無いんだから」
「お前、三才位の子供が、お母さんのお腹の中に居る時の記憶を突然しゃべり出したっていう話、聞いた事ないか ?」
「あるけど・・・でも、それは、ある程度成長して、脳が出来てからの話だろ。受精したばっかりで脳も何も出来てない段階で、記憶なんかある訳ないって」
「それは分からないだろ。全ての事が、科学的に解明されてる訳じゃないんだから」
「それはそうだけど、さすがに、受精した時の記憶は無いって」
「ひょっとしたら、あるかもしれないだろ」
「いや、無いって・・・里奈ちゃんからも言ってやってよ」
困った古木は、里奈に助けを求めたが、
「ひょっとしたら、あるかもしれないから・・・一緒に祝ってあげて」
逆に、手を合わせてお願いされた。
「夫婦もろともか ! ・・・普通、どっちかは、まともなもんだけどな・・・じゃあ、せめて、夫婦だけでやれよ」
「そんなこと言うなよ。初めての子供の誕生日会なんだから、祝ってくれる人は、一人でも多い方がいいだろ」
「他の奴にも声かけたのか ?」
「ああ」
「返事は ?」
「断られたよ」
「そりゃそうだろうな・・・だから、俺に電話かけてきた時は、あんなにお茶を濁してたんだな」
「まあな・・・」
「お茶を濁し過ぎて、コーヒーになってたぞ」
ん ?
ちょっと待てよ。
古木は、ある事に気付いた。
「今日、受精した日の誕生日会をやるっていう事は・・・今日、子作りしたって事か !?」
「やだっ、古木君ったら・・・」
里奈は頬を赤らめ、両手で顔を隠した。
「お前、デリカシーのかけらも無いな」
河野が、呆れたように言った。
「いや、だって、そういう事だろ」
「そういう事は、思っても口にしないのが礼儀だろ・・・お前は、犬のウンコを踏んだ靴で、他人の心に土足で踏み込むような奴だな」
「他人の心に土足で踏み込むだけでも酷いのに、更に、犬のウンコを踏んだ靴でっていう事か ?」
「ああ」
「そんな言われ方するんなら、俺、帰る」
古木は、玄関に向かって歩き出した。
河野は、とっさに古木の右手首を掴み、
「まあまあ、そんなこと言わずに、飯だけでも食って行けよ。せっかく来たんだから」
と、引き留めた。
「離せよ」
それを振り払おうとする古木。
その時、
「動かないで !」
という大きな声がした。
二人が振り返ると、里奈が、ケーキの箱から取り出したロウソクを左手に持ち、火の付いたライターを近付けていた。
「一歩でも動いたら、これに火を付けるわよ !」
「・・・」
しばらくの沈黙の後、古木が口を開いた。
「いやいや。ダイナマイトみたいな扱いされても・・・それロウソクだし・・・元々、火を付けるもんだし」
「どっちにするの ? 今日、受精したかもしれない私達の子供の誕生日を祝うか、これに火を付けるか」
「結局、どっちにしても誕生日を祝う事になるじゃん」
「さあ、どっち ?」
「分かったよ。一緒に誕生日を祝うよ」
まともに相手をする事に疲れてきた古木は、抵抗する事を止めた。
「良かったー ! じゃあ、さっそく始めようか」
里奈は笑顔になり、箱から取り出したケーキに、持っていたロウソクを差し出した。
「じゃあ、これ」
そう言いながら、河野が、テーブルに裏返しに置いていた紙を古木に渡した。
紙を見ると、『寿』という字が一文字だけ書かれていた。
「何だよ、これ ?」
「ハッピーバースデイの楽譜だよ」
「・・・確かに、楽譜っぽく見えるけど ! ・・・寿だから祝い事にはぴったりだし・・・」
二人が、そんなやり取りをしている間に、里奈はロウソクを差し終え、部屋の明かりを消した。
「さん、はい !」
「ハッピバースデイ、トゥーユー・・・」
里奈が合図して、お腹を見つめて摩りながら歌い出した。
河野も、里奈のお腹に向かって歌い出す。
しょうがないので、古木も、それに続いた。
これからも、子作りをする度に、誕生日会をやるんだろうか。
次は、絶対に断らないとな。
そうだ、帰りに、ご祝儀取り返さないと。
古木は歌いながら、そんな事を考えていた。


 

海上保安庁

海で事件が起きた時は海上保安庁に電話するけど・・・
めちゃめちゃ湿度が高い日に陸上で事件が起きたら、海上保安庁と警察のどちらに電話すればいいんだろうか。
 

シーソー

二人の友人は、シーソーに乗った状態で交互にダイエットしあい、シーソーを上下させて遊ぶ。
 

ドーミーイン

今日、録画していたアメトークのドーミーイン芸人を見た。
ドーミーインというのはビジネスホテルで、プレミアムやエキスプレスなど色々なブランドがあって、ゼリーや夜鳴きそばやアイスなどが無料で食べれたりするらしい。
そこで僕は思った。
ドーミーイン野宿っていうブランドを創って、宿泊料も無料にして欲しい。
 

甲子園の土

近所にある高校野球の名門校は、甲子園に出場するたびに土をちょっとずつ持ち帰り、最近、地元に甲子園を移築する事に成功した。
 

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