■甘酸っぱい夏の思い出…【仙禽 かぶとむし】
このお酒のデータは…
●蔵元 せんきん(栃木県・さくら市・馬場)
●特定名称ほか 純米大吟醸 無濾過生原酒
●原料米 「ドメーヌ・さくら雄町」(精米歩合50%)
●酸度 非公開 ●アミノ酸度 非公開 ●酵母 ?
●日本酒度 非公開 ●アルコール度 13.0%
●酒造年度 H26BY
関東地方も7月下旬に「梅雨明け宣言」が出され、いよいよ今年も夏本番に突入しましたが、そんな猛暑の季節にも美味しく呑めそうな日本酒を発見しました。
それがコレ、 【仙禽 かぶとむし 無濾過生原酒】です。
これは、「前衛的な酒造り」で知られる栃木の「せんきん」の蔵元が、蔵の「仕込み水」と同じ水脈の田んぼに作付けした「ドメーヌさくら・雄町」を原料米とし、毎年夏場に向けてリリースしている純米大吟醸酒なのですが、「かぶとむし」というユニークなネーミングや、レインボーカラーの可愛らしいラベルとも相まって人気上昇中のお酒です。
また一般的に「原酒」と言うと、アルコール度数が18%程度と高めのものをイメージしますが、このお酒は「無濾過生原酒」というスペックでありながら、「割り水」(原酒を水で薄めて度数を下げる作業)をせずに、モロミの発酵や搾りのタイミングをコントロールすることによって、アルコール度数を「13%」とワイン並みの「低アルコール」に抑えているのが大きな特徴です。
香りのトーンは中程度で、「完熟すもも」を想わせる甘酸っぱい果実の香りや、「リンゴパイ」のようなフルーツデザートの香りがあり、「ほんのり華やかで、甘酸っぱさを伴ったフルーティーな香り」が感じられます。
口当りはスムーズで、自然でキレイな甘味に続いて、柑橘類を想わせる「酸っぱい酸」が口いっぱいに広がります。
後半からは脇役としての旨味も感じられ、後口の微かな苦みが余韻に絶妙なドライ感をもたらしています。
全体的には軽やかな飲み口でありながら、味わいの存在感はしっかりとあり、「清涼感のある岩清水のような飲み口と、甘酸っぱい味のエキスが不思議に両立した、夏の体を癒してくれるオアシスのような味わい」のお酒でした。
この「かぶとむし」はアルコール度数が13%と低いので、冷蔵庫で5℃位まで冷やしてお酒単体でゴクゴク呑むのもGOODなのですが、今回はこの「夏酒」に合わせて、「夏野菜を使った料理」を2品選んでみました。
まず1品目は【丸ごとトマトの和風ジュレ掛け】です。
これは湯剥きしたトマトを、昆布&カツオ出しと醤油ベースの「漬け地」に、丸ごと一晩漬けてじっくりと味を浸み込ませ、仕上げに和風のジュレを掛けたもので、見た目も涼しげな夏向けの冷菜です。
冷蔵庫でしっかりと冷やしておいて、「雪冷え」の「かぶとむし」と合わせてみると、トマトの爽やかな酸味とこのお酒の切れ味抜群の酸がすんなりと融合し、また出し汁の旨味を伴った冷たくジューシーなトマト果汁と、清涼感のある「かぶとむし」の味わいが口の中で見事に一体になってゆきます。
まさに「涼の極み」といった素敵なマリアージュで、「納涼ペア」と呼びたくなるような完璧な組合せでした。
続いて2品目は 【赤万願寺とうがらしの焼き浸し】です。
「万願寺とうがらし」は京都の伝統的な夏野菜で、果肉が大きくて厚みがあり種が少ないのが特徴です。
通常は「緑色」の状態で出荷されますが、収穫を遅らせて赤く色付いて出荷されたものは、「赤万願寺とうがらし」と呼ばれています。
両面を焦げないように炙り焼きにして、生姜醤油に短時間浸したものをお酒と合わせてみると、「赤万願寺」のほのかな甘味と独特の苦味と辛味を、「かぶとむし」の自然な甘味を伴った酸っぱい酸が優しく包み込み、生姜醤油の風味や削り節の旨味が名脇役となって、口の中でそれぞれの要素が絡まり合いながら全体が調和してゆきます。
お酒と料理が、互いの個性を尊重しながら出会いを重ねてゆくような印象の、とても相性の良い組合せでした。
話は全く変わりますが、このお酒のラベルには「あなたの少年時代はいつでしたか」というセリフが書かれていて、七色の「かぶとむし」の絵とそのセリフを一緒に眺めていると、「かぶとむし」→「少年時代」→「夏休み」という連想から、往年の井上陽水の名曲「少年時代」のメロディーが、頭の中に自然と流れてきてしまいます。(そんなことを言うと年齢がバレてしまいますが…)
ネット上からダウンロードした「少年時代」の曲をPCで聴きながら、夜中にこの「仙禽 かぶとむし」をグイグイと呑んでいると、子供の頃の夏休みの「甘酸っぱい思い出」がよみがえってきてしまいました…。
日本酒の魅力はその多様性にあると思います。
一粒のお米から、造り手の「想い」によって、多彩な香りや味わいのお酒が生み出され、
時には「古酒」というスタイルで、先代の思いが数十年後にまで伝えられます。
そして一つ一つのお酒は、様々な料理と組み合わせることによって、その愉しみ方は無限大に
広がってゆくのです…。