異世界戦記 GOD AND DEVIL1
【悪魔の瞳編①】
町外れに小さな教会がある。
歴史のある古びた教会は先の戦争にも壊れる事なくひっそりと佇んでいた。
幼い子供を連れた町の住人が教会を訪れた。まだ若い母親は悲壮感のある表情で祈りを捧げる。
「ああ、神様…、この世界は地獄です。どうか平和で人々が笑顔で暮らせる世の中になりますように…。」
教会には同じように悲壮感を漂わせた住人が何人も祈りを捧げていた。
とその時、教会の扉がバシンと音を立てて開かれ2人の男女が入って来た。
明らかに身なりの良い格好をしたは男女は物珍しそうに教会の内部を見回した。
「ここが邪神を祀(まつ)る教会ね。野蛮な原住民が祈りを捧げているわ。」
妻と思われる女性が汚いものを見るように顔をしかめる。
「神衛隊は何をしておるのだ。こんな教会など、さっさと燃やしてしまえば良いのだ。」
夫と思われるゴツい男は近くにある長椅子をバンと蹴り上げる。
「きゃあ!」
すると、祈りを捧げていた親子連れが長椅子から転げ落ちた。
「あなたがた!何を為される!乱暴はお止めなさい!」
教会の司祭が椅子を蹴った男を窘めようと近寄って来た。
「あん?野蛮な二等国民が一等国民に逆らうのか!」
男は右手で拳を作り司祭の顔面をガツンと殴りつける。
「きゃーー!」
「誰か!助けを!」
周りに居た住人が騒ぎ始めると、男は面倒くさそうに腰にある長剣を抜き出した。
「うるさい!騒ぐと叩き切るぞ!」
このラファール帝国では一等国民のみが帯刀を許されている。一等国民が二頭国民を斬り殺した場合は裁判に掛けられても無罪になる。国民は完全に2つの身分に分けられていた。
そこに教会に居た1人の男が立ち上がり乱暴を働いた男を睨み付ける。
「その辺にしておけ。度が過ぎると後悔するぞ。」
注意をした男性は薄汚いマントを羽織っておりまだ若く見える。その汚い衣服とは対象的に顔立ちは整っており美しくさえある。
「何だ貴様は?一等国民に逆らうのか!」
ゴツい男が手に持った長剣を振り上げた。
「キャーー!」
またしても教会内に悲鳴がこだまする。
若い男は冷静にポツリと何やら呟いた。
すると驚く事に振り上げられた長剣を持つ腕が一瞬で凍りつき男は身動きが出来なくなる。
「貴様!?魔導師か!」
若い男は言う。
「死にたくなければ立ち去るが良い。ここは、お前達が来る場所では無い。」
【悪魔の瞳編②】
鮮やかな月が夜空に輝くその晩。
教会から少し離れた民家で2人の男が言い争いをしていた。
「カイザー!どうするんだ!?奴らに喧嘩を売って、しかも魔法まで使ったら魔導師狩りの餌食だぞ!」
声を発する巨漢の男の名はデストロイ・ガイザック。カイザーとは学生時代からの知り合いである。
「仕方ないだろう。放っておいたら、司祭様もあの親子もどうなっていた事か…」
美しい顔立ちの男はカイザー・ヴァルフェルム。かつて魔導師団の副団長にまで上り詰めた腕利きの魔導師である。
彼等 魔導師は一般人には無い特殊な能力を持っている。それ故にラファール帝国の国家元首は彼等を恐れた。
魔導師狩りの部隊が結成され、大陸中に居る魔導師が部隊により狩り出され殺された。
教会での昼間の騒動を聞きつけた神衛隊がカイザーのいる家を訪れる。
神衛隊は魔導師に対しては容赦が無い。それは分かっていた。しかし、神衛隊の行動はカイザーの予想を上回った。
いきなり大砲をぶっ放しカイザーが隠れ住んでいた民家を爆破させた。
「そこに隠れているのは知っている!気味の悪い魔法使いが!死んで貰うぞ!」
民家を取り囲む神衛隊の人数は10人。
全員が銃と思われる武器を携帯している。
爆風が立ち込める中、カイザーとデストロイが姿を表した。カイザーは後悔する素振りも無く神衛隊に言い放つ。
「私も知っているよ。その銃はマスケット銃。この距離では威力も命中率も低い。私の魔法とどちらが上か教えてあげよう。」
カイザーは両手を前方で重なり合わせる。
すると手の平が薄っすらと光り氷の礫(つぶて)が現れる。
空中に浮いた氷の礫は無数に数を増やし辺り一面かわ氷の結晶に包まれる。
「ふん…、バカが…。」
「神衛隊!撃て!」
ズキューン!
ズキューン!
銃から放たれた2発の銃弾がカイザーの胸元に命中する。
「カイザー!!」
デストロイが叫ぶ。
マスケット銃の有効射程距離は100m前後と聞いている。それ以上の距離になると威力も命中率も劣るはず。神衛隊との距離は200mはある。それが2発とも命中するとは、何たる偶然か。
「1つ教えてやろう。」
神衛隊の隊長がニヤついた顔で言う。
「我々神衛隊の武器は旧式のマスケット銃では無い。ライフル銃だ。威力も飛距離もマスケット銃とは性能が違うのだよ!」
「死ね!魔導師!!」
ズキューン!
ズキューン!
銃声が鳴り響き、しかし銃弾はカイザーの遥か上空を飛んで行く。
驚いたのはカイザーとデストロイ。
10人居た神衛隊がバタバタと倒れて行く。
明らかな遠距離魔法による魔法攻撃。
この時代、これほどまとまった攻撃魔法を放てる軍隊が居るとは。
少なくとも10人が同時に魔法を放ったように見えた。
「誰だ!」
デストロイは魔法が放たれた方向を見て叫ぶ。するも10数人もの戦士が姿を現した。
「助けてあげたのに、誰だとは酷いなぁ…。」
「カイザーさんとデストロイさんですね?探しましたよ。」
「傷の手当をします。我々のアジトに来て下さい。」
突然現れた戦士達が口々に話し掛けて来た。
カイザーは銃弾を食らった傷口を押さえながらも戦士達に言う。
「アジト……だと?」
「ええ、我々のリーダーが待っています。」
【悪魔の瞳編③】
この世界に居る魔導師と言われる戦士は、様々な魔法を使いこなす。
炎・水・土・風・光・闇
魔法は主に6つの属性に分類される。
通常の魔導師は1つの魔法属性のみを操れるが、稀に2つの魔法を使える魔導師が存在する。魔法属性は組み合わせる数が多ければ多いほど威力が増す事が証明されている。
カイザー・ヴァルフェルムは水と風の魔法を高度に操れる稀有な魔導師。魔導師としては大陸でも上位の実力者と言える。
「我々は大陸中で仲間を探しています。カイザーさんの噂を聞いて駆け付けました。まさか神衛隊と交戦中とは思いませんでしたよ。」
2人を誘導する魔導師は気立ての良さそうな若い魔導師である。
「さぁ、着きました。こちらです。」
カイザーとデストロイは既に廃墟となった、旧アルゼリア王国の魔導師団が使用していた休養所に案内された。
カイザーはそのリーダーと呼ばれる戦士の名前を聞いて驚いた。
この世界には6つの魔法属性がある。
3つ以上の魔法属性を操れる魔導師は世界に6人しか居ない。
パラアテネ神聖国の4人の魔導師。
死神と恐れられたアヴェスター公国の魔女。
既に滅びた2つの魔導先進国が産み出した5人の魔導師は3つの魔法属性を操れたと言われている。
いずれも大陸中にその名を轟かせたた偉大な魔導師達だ。
そして6人のうちの最後の1人。
その存在が実在するのかすら怪しまれていた、もはや伝説上の魔導師。
彼の名は
アゼル・パンドーラ
またの名は
悪魔の瞳を持つ男。
アゼルの右眼には伝説上の生き物である悪魔の瞳が埋め込まれている。
【悪魔の瞳編①】
町外れに小さな教会がある。
歴史のある古びた教会は先の戦争にも壊れる事なくひっそりと佇んでいた。
幼い子供を連れた町の住人が教会を訪れた。まだ若い母親は悲壮感のある表情で祈りを捧げる。
「ああ、神様…、この世界は地獄です。どうか平和で人々が笑顔で暮らせる世の中になりますように…。」
教会には同じように悲壮感を漂わせた住人が何人も祈りを捧げていた。
とその時、教会の扉がバシンと音を立てて開かれ2人の男女が入って来た。
明らかに身なりの良い格好をしたは男女は物珍しそうに教会の内部を見回した。
「ここが邪神を祀(まつ)る教会ね。野蛮な原住民が祈りを捧げているわ。」
妻と思われる女性が汚いものを見るように顔をしかめる。
「神衛隊は何をしておるのだ。こんな教会など、さっさと燃やしてしまえば良いのだ。」
夫と思われるゴツい男は近くにある長椅子をバンと蹴り上げる。
「きゃあ!」
すると、祈りを捧げていた親子連れが長椅子から転げ落ちた。
「あなたがた!何を為される!乱暴はお止めなさい!」
教会の司祭が椅子を蹴った男を窘めようと近寄って来た。
「あん?野蛮な二等国民が一等国民に逆らうのか!」
男は右手で拳を作り司祭の顔面をガツンと殴りつける。
「きゃーー!」
「誰か!助けを!」
周りに居た住人が騒ぎ始めると、男は面倒くさそうに腰にある長剣を抜き出した。
「うるさい!騒ぐと叩き切るぞ!」
このラファール帝国では一等国民のみが帯刀を許されている。一等国民が二頭国民を斬り殺した場合は裁判に掛けられても無罪になる。国民は完全に2つの身分に分けられていた。
そこに教会に居た1人の男が立ち上がり乱暴を働いた男を睨み付ける。
「その辺にしておけ。度が過ぎると後悔するぞ。」
注意をした男性は薄汚いマントを羽織っておりまだ若く見える。その汚い衣服とは対象的に顔立ちは整っており美しくさえある。
「何だ貴様は?一等国民に逆らうのか!」
ゴツい男が手に持った長剣を振り上げた。
「キャーー!」
またしても教会内に悲鳴がこだまする。
若い男は冷静にポツリと何やら呟いた。
すると驚く事に振り上げられた長剣を持つ腕が一瞬で凍りつき男は身動きが出来なくなる。
「貴様!?魔導師か!」
若い男は言う。
「死にたくなければ立ち去るが良い。ここは、お前達が来る場所では無い。」
【悪魔の瞳編②】
鮮やかな月が夜空に輝くその晩。
教会から少し離れた民家で2人の男が言い争いをしていた。
「カイザー!どうするんだ!?奴らに喧嘩を売って、しかも魔法まで使ったら魔導師狩りの餌食だぞ!」
声を発する巨漢の男の名はデストロイ・ガイザック。カイザーとは学生時代からの知り合いである。
「仕方ないだろう。放っておいたら、司祭様もあの親子もどうなっていた事か…」
美しい顔立ちの男はカイザー・ヴァルフェルム。かつて魔導師団の副団長にまで上り詰めた腕利きの魔導師である。
彼等 魔導師は一般人には無い特殊な能力を持っている。それ故にラファール帝国の国家元首は彼等を恐れた。
魔導師狩りの部隊が結成され、大陸中に居る魔導師が部隊により狩り出され殺された。
教会での昼間の騒動を聞きつけた神衛隊がカイザーのいる家を訪れる。
神衛隊は魔導師に対しては容赦が無い。それは分かっていた。しかし、神衛隊の行動はカイザーの予想を上回った。
いきなり大砲をぶっ放しカイザーが隠れ住んでいた民家を爆破させた。
「そこに隠れているのは知っている!気味の悪い魔法使いが!死んで貰うぞ!」
民家を取り囲む神衛隊の人数は10人。
全員が銃と思われる武器を携帯している。
爆風が立ち込める中、カイザーとデストロイが姿を表した。カイザーは後悔する素振りも無く神衛隊に言い放つ。
「私も知っているよ。その銃はマスケット銃。この距離では威力も命中率も低い。私の魔法とどちらが上か教えてあげよう。」
カイザーは両手を前方で重なり合わせる。
すると手の平が薄っすらと光り氷の礫(つぶて)が現れる。
空中に浮いた氷の礫は無数に数を増やし辺り一面かわ氷の結晶に包まれる。
「ふん…、バカが…。」
「神衛隊!撃て!」
ズキューン!
ズキューン!
銃から放たれた2発の銃弾がカイザーの胸元に命中する。
「カイザー!!」
デストロイが叫ぶ。
マスケット銃の有効射程距離は100m前後と聞いている。それ以上の距離になると威力も命中率も劣るはず。神衛隊との距離は200mはある。それが2発とも命中するとは、何たる偶然か。
「1つ教えてやろう。」
神衛隊の隊長がニヤついた顔で言う。
「我々神衛隊の武器は旧式のマスケット銃では無い。ライフル銃だ。威力も飛距離もマスケット銃とは性能が違うのだよ!」
「死ね!魔導師!!」
ズキューン!
ズキューン!
銃声が鳴り響き、しかし銃弾はカイザーの遥か上空を飛んで行く。
驚いたのはカイザーとデストロイ。
10人居た神衛隊がバタバタと倒れて行く。
明らかな遠距離魔法による魔法攻撃。
この時代、これほどまとまった攻撃魔法を放てる軍隊が居るとは。
少なくとも10人が同時に魔法を放ったように見えた。
「誰だ!」
デストロイは魔法が放たれた方向を見て叫ぶ。するも10数人もの戦士が姿を現した。
「助けてあげたのに、誰だとは酷いなぁ…。」
「カイザーさんとデストロイさんですね?探しましたよ。」
「傷の手当をします。我々のアジトに来て下さい。」
突然現れた戦士達が口々に話し掛けて来た。
カイザーは銃弾を食らった傷口を押さえながらも戦士達に言う。
「アジト……だと?」
「ええ、我々のリーダーが待っています。」
【悪魔の瞳編③】
この世界に居る魔導師と言われる戦士は、様々な魔法を使いこなす。
炎・水・土・風・光・闇
魔法は主に6つの属性に分類される。
通常の魔導師は1つの魔法属性のみを操れるが、稀に2つの魔法を使える魔導師が存在する。魔法属性は組み合わせる数が多ければ多いほど威力が増す事が証明されている。
カイザー・ヴァルフェルムは水と風の魔法を高度に操れる稀有な魔導師。魔導師としては大陸でも上位の実力者と言える。
「我々は大陸中で仲間を探しています。カイザーさんの噂を聞いて駆け付けました。まさか神衛隊と交戦中とは思いませんでしたよ。」
2人を誘導する魔導師は気立ての良さそうな若い魔導師である。
「さぁ、着きました。こちらです。」
カイザーとデストロイは既に廃墟となった、旧アルゼリア王国の魔導師団が使用していた休養所に案内された。
カイザーはそのリーダーと呼ばれる戦士の名前を聞いて驚いた。
この世界には6つの魔法属性がある。
3つ以上の魔法属性を操れる魔導師は世界に6人しか居ない。
パラアテネ神聖国の4人の魔導師。
死神と恐れられたアヴェスター公国の魔女。
既に滅びた2つの魔導先進国が産み出した5人の魔導師は3つの魔法属性を操れたと言われている。
いずれも大陸中にその名を轟かせたた偉大な魔導師達だ。
そして6人のうちの最後の1人。
その存在が実在するのかすら怪しまれていた、もはや伝説上の魔導師。
彼の名は
アゼル・パンドーラ
またの名は
悪魔の瞳を持つ男。
アゼルの右眼には伝説上の生き物である悪魔の瞳が埋め込まれている。