第341回「誘拐」(ミステリー・アンソロジー) | 新稀少堂日記

第341回「誘拐」(ミステリー・アンソロジー)

新稀少堂日記
 第341回は、「誘拐」(ミステリー・アンソロジー)です。アンソロジー(複数作家の短編集)は、一人の作家による短編集(ほとんどの短篇集が該当しますが)に比べ、一編ごとに文体・作風が異なるため、通読しづらく感じます。再読する際も、お気にいりの作品しか、読まないことが多いかと思います。


 まして、テーマが誘拐となりますと、切り口が一層難しくなります。ところが、全八篇の短篇がうまく調和した形で編集されています。誘拐は、ハードボイルドとか、社会派ミステリー向きなのですが、本格推理小説になっています。当然、個々の作品の質には、バラツキがありますが、水準作です。


 作家と作品名を伏せて、トリックを書きますと、

(作品1) こどもが誘拐されますが、事業に失敗していますので、支払うべき身代金が調達できません。そこで、友人のこどもを誘拐し、犯人の指示を友人に伝え、自分のこどもの身代金に当てる・・・・。


(作品2) 誘拐とは言えませんが、絵が盗まれます。社会的な評価を受けていない画家の作品です。返して欲しければ、1,000円を払え・・・・。


(作品3) S.キングの「ミザリー」のように、作家が事故を起こし、ある女性に救出されますが、監禁されてしまいます。彼女は、作家の大のファンです、自分を主人公とした小説を書くように依頼しますが・・・。当然、誘拐がからんできます。


などなどです。文庫本で30ページ程度ですので、楽しんで読めます。優れたアンソロジーです。