大ヒット映画

『君の名は。』に触発されて

入れ替わり系や

時間旅行系の小説が

読みたくなったので

少し古い小説ですがこちらを読了。

 

『タイム・リープ あしたはきのう』

(1995年)

高畑京一郎

 

 

 

 

タイムリープとは時間を跳躍すること。

つまりタイムトラベルと同義語。

 

Amazonレビューの

評価がめちゃくちゃ高くて

ハードルがかなり上がっていたのですが

その高いハードルを

さらに跳躍(リープ)してきました。

これは凄すぎます。

 

 

あらすじ

唇に柔らかな感触。

鹿島翔香(かしましょうか)が目を開くと

目の前に男の顔があった。

いきなりのことに驚いて

男の顔を平手打ちする。

「なにするのよ!いきなり!」

相手の男は同級生の

若松和彦(わかまつかずひこ)だ。

 

頭は良いが

女嫌いで有名な彼とは

これまであまり話したこともない。

なぜ私は彼とキスをしているのか?

そしてここはどこ?

和彦の部屋にいるらしいが

ここに来た記憶もないし

第一、家がどこに

あるかさえ知らないのに。

 

向こうも戸惑っていたようだが、

私の混乱を見て

腹を抱えて笑い転げている。

笑うのをやめて説明してよと言うと

「今はまだ、教えられない」と言葉を濁す。

 

とにかく帰ろうと部屋を出た翔香は

呼びとめた和彦の言葉で振り返った瞬間、

足を滑らせて階段を落ちてしまった-----。

 

気がつくと

ベッドから転げ落ちていた翔香。

階段を転げ落ちたはずが

いつのまにか自分の部屋にいる。

「なんだ……夢だったのか」

下から母の声がする。

学校に遅れそう!

あわてて東高に走り出した。

 

翔香は東高の2年生。

授業には間に合ったが

一時間目が地学で驚いた。

翔香はいつも前日に

教科書をそろえておく習慣があり

一時間目は英文読解のはず……

そこで友人の

水森優子(みずもりゆうこ)から

今日は火曜日だと知らされる。

 

まさか!今日は月曜日のはず。

だって昨日は日曜日だったし。

……と思って鞄を開けてさらに驚く。

ちゃんと地学の教科書がある。

前の日に自分が用意していたの!?

 

おかしい……

誰に聞いても

今日は火曜日だと返ってくる。

もしかして

昨日丸一日寝過ごした?

と思って皆に聞いてみたが

ちゃんと来ていたし、

いつも通りだったと言われてしまう。

そうして翔香は、

月曜日の記憶が

抜けていることに気付いた。

 

若松和彦は東高トップの秀才で、

背も高く顔も整っているが、

人を寄せ付けない雰囲気がある。

夢の中のこともあって

つい和彦に注目してしまう翔香。

あのクールな和彦が腹を抱えて

大笑いするはずがないし、

やはり夢だったのだろう。

 

違和感を覚えながら一日を終えて

寝ようと思った時、

日記をつけていたことを思い出す。

昨日何があったのか知りたい。

そう思って日記を開くと

月曜日のページには

自分の筆跡でこう書かれていた。

 

「あなたは今、混乱している。

あなたの身になにが起こったのか、

これからなにが起こるのか、

それはまだ教えられない。

あなたが相談していいのは、

若松くんだけよ。

最初は冷たい人だと

思うかもしれないけど、

彼は頼りになる人だから」

翔香は何度も何度も

その文章を読み返した。

 

水曜日の翔香は、

昼休みに

図書館へ向かう和彦を追いかけた。

さっそく日記の通り和彦に

月曜日の記憶が無い事を相談するのだが、

全く話が通じない。

なにを相談したいのか

わからないんじゃ

話にならんと断られた。

 

あんな男を頼れとは

月曜の私はどうかしていると

怒りながら中庭を歩く翔香。

さすがに気になったのか

和彦が追いかけて来た。

「危ない!」

その時、

翔香の頭上に黒い影が落下して----

 

 

気がついたら自分の部屋にいた翔香。

体はどこも怪我をしていない。

新聞を見て今日が木曜日だと知る。

水曜日に気絶して

そのまま家に運ばれたの?

しかし母に聞くと昨日の私は

5時頃普通に家に帰って来たという。

もう一人の……私がいるのだろうか?

 

とにかくあの現場にいた和彦に

私がどうなったのか聞きたい。

遅れて学校に来た翔香に

和彦の方から話しかけてきた。

「やあ鹿島、いつから来た?」

「二時間目の途中からよ」

と答えると苦笑される。

聞きたいことは山ほどあるのに、

五時間目まで待てと彼は言う。

 

五時間目は数学で

この間のテストが返却される。

この間っていつ?

月曜日にやった

抜き打ちテストらしいが、

私は受けた覚えが無い。

 

和彦はさすがの97点だった。

しかし今回は

それを越えた人がいます。

そう言って翔香の名前が呼ばれる。

なんと100点満点!?

どよめくクラスメイトたち。

今まで数学で50点取れたら

良い方だった私がいきなり!?

自分でも信じられない。

もう一人の私のせいだ。

 

授業が終わって

和彦が話しかけてくる。

「君の勝ちだな」

どういうことか尋ねたが

今の私に話すのは

時間の無駄だと言われた。

 

その日の掃除中、

ごみ箱を運ぶ翔香は

またしても階段で

足を滑らせて落ちてしまう-----

 

 

と思ったら、

学校の中庭にいた!?

「大丈夫か?」と和彦。

どうやら鉢植えが落下して

当たるところだったらしい。

この光景に見覚えが……

和彦に曜日を尋ねると

水曜日だと返ってきた。

その瞬間、

翔香には自分の身に

なにが起きているのかわかった。

 

自分はタイムリープしている。

映画などでは面白いが

実際に自分が体験すると恐怖しかない。

震える翔香は

和彦にこの不思議な現象を話す。

 

にわかには信じられない和彦。

明日を見て来たなら

予言をしてみろと言われた翔香は

数学のテストで和彦が97点を取ったと話す。

それはいつものことだと冷静に返され、

翔香が満点だったと話すと笑われる。

 

数学の先生にテストの点数の

漏えいがないと確認した和彦。

まだ採点してないテストの点数を

知るはずがないことから賭けは成立。

テストの点数が満点だったら

信じてやると約束してくれた。

 

「明日、俺が会う君は、

どっちの君なんだろうな?」

「分からないわ」

翔香は自分でも

明日どこにいるか

わからないのだ。

「これからは君に会ったら

いつから来たか訊ねることにするよ」

そうか、それであの時……

翔香の中で

パズルの一片が嵌った気がした。

 

 

こうして

不思議なタイムリープの物語が始まる。

どうして翔香はタイムリープするのか?

その法則性は?

いつになったら終わるのか?

 

落ちて来た植木鉢。

翔香を轢き殺そうとする謎の車。

翔香が命を狙われる理由は?

翔香を護ると約束した

和彦の作戦とは?

 

すべてのパズルの

ピースが嵌った時、

物語は完結する------

 

解説

高校2年生の翔香はある日、

昨日の記憶が

抜け落ちていることに気付く。

その日の日記に

自分の筆跡で若松和彦に

相談しなさいと書かれていた。

やがて自分が

タイムリープしていることを知り、

学校トップの秀才・和彦の

力を得て謎を解明していく。

タイムトラベルSF青春ミステリー。

 

第1回電撃ゲーム小説大賞を

『クリス・クロス』で金賞を受賞した

高畑京一郎の第2作目。

文庫版は上下で分冊になっている。

 

帯に

「精巧に組み上げられた

時間(タイム)パズル」とあるように、

時間の繋がり方を

利用した仕掛けが満載で

パズルの断片が嵌るたびに

読者を唸らせる。

 

この作品のタイムリープは、

身体はそのまま移動せず、

意識だけが時間を移動する。

そのため、

移動で持って行けるのが

自分の記憶と経験だけになる。

 

物語の中で

月曜日のテストで

100点満点を取らないといけなくなり、

カンニングペーパーなどが

持ち込めないため

必死に勉強する(させられる)

ヒロインの姿が見られる。

 

タイムリープの謎を追ううちに

翔香の命が

狙われていることがわかり、

犯人探しのミステリ要素も加わる。

時間移動の幅が一週間で、

そこを行ったり来たりするのも

上手くまとまっている。

 

そして

縦横無尽に張り巡らせた

伏線回収が凄まじい。

あれもこれも伏線として

物語が繋がっていくのが爽快。

 

1997年には映画化もされており、

タイムトラベルものSF作品として

外すことのできない不朽の名作。

 

欠点は?

  • 誤字が気になる。「君い聞いた話」(上 P.81)→「君に聞いた話」、「話し合っていたのもこと事」(下 P.140)→「話し合っていたのもこの事」
  • 下巻の口絵に思いっきり犯人のイラストがある。ネタバレしすぎぃ!下巻のカラー口絵は見ないように(無理
  • それが原因じゃなくてもだいたいの人が犯人アイツだろーなとわかってしまう。
  • あとがきが蛇足だった。『クリス・クロス』と関係あるらしいがこの作品に付けなくても……

 

感想

参りました。

「この伏線回収がすごい!」があれば

トップ5に入るくらい

伏線回収が凄いです。

 

確かにタイムトラベルものは

あの時の行動であそこが変わるとか

伏線が醍醐味ではありますが、

これは本当によくできていますね。

 

そして何と言っても

若松和彦がカッコイイ。

頭のいいことを示すエピソードとして

球技大会で誰がどの球技に出るか

もめていた時に

「時間の無駄だ」と言って

黒板に球技ごとに名前を書いていく。

それが皆が好き勝手に口にした意見を

誰が何を言ったか全て把握していて

誰も文句が言えない

完璧な振り分けをした……

という話がまず凄い。

お前は聖徳太子か?

 

和彦はタイムトラベルものを

たくさん読んだと言って

『時をかける少女』や

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

『夏への扉』などを

引き合いに出す。

翔香が最初に

タイムリープの話をしたときには

「いったい、君は、

どこでラベンダーの匂いを

嗅いだんだ?」と茶化すなど

洒落が効いている。

 

この手の物語では

タイムパラドックスが問題だが

それを防ぐために

できるだけ

予備知識を得ないようにして

過去を変えないようにする。

それなのに

出した覚えのない

四通目の手紙が

出て来た時はゾクッとした。

 

そして

和彦の妹の名前が出て、

若松みゆき……まさか!と思い、

翔香の苗字が鹿島だと思い出して

再びゾクッとした。

それで鹿島が若松に平手打ちを。

村木も香坂も。

そういう趣向か(笑)

 

ライトノベルだけど

ミステリファンにも

おすすめできます。

素晴らしいので是非。

 

★★☆☆☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★★★ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

<ストーリー>

笑える度 △

ホラー度 -

エッチ度 △

泣ける度 -

 

総合評価(10点満点)

 9.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

未読の方はお帰りください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

(レイプ未遂)

鹿島翔香 ---●中田輝雄 ---性欲

(殺人未遂)

若松和彦 ---●中田輝雄 ---口封じ【刺殺未遂:ナイフ】

 

<結末>

翔香の命を狙っていたのは

英文読解の教師・中田だった。

彼は連続婦女暴行犯でもあり、

日曜日の帰宅中の翔香を

レイプしようとして

逃げられたため

殺す機会を狙っていた。

 

その時の恐怖で

6日後の土曜日までリープした翔香は

そこから4日前の

火曜日へリープして

少しずつ空白の時間を埋めていった。

 

土曜日の八幡神社で田中を捕まえて

和彦の部屋でキスした翔香は

ここから始まった旅の後で

再びここへ戻って来る。

「おかえり、鹿島」

「……ただいま」

 

これで全ての時間が埋まり

タイムリープは終了。

翔香の時間は元に戻った。

 

タイムリープの法則性

この作品のタイムリープは

身体は移動せず、

意識だけが移動する。

そして、

同じ時間を何度も

やり直すことはできない。

 

時間移動のトリガーは、

翔香が「怖い」と

感じた時に発動する。

その時点で

安全と思える時間に跳躍し、

その瞬間が安全だと確認されたら

戻ってくることができる。

 

ようするに

階段から落ちて危ないと思ったら

翌日にリープ。

あの時、

実は助かったとわかったら

やり直すためにそこに戻れる。

安全が確認できないうちは

その時間に戻ることはできない。

 

この複雑な時間移動は

図をもって説明しないとわかりにくい。

つまりこういうことです。

 

いや複雑すぎ!!

 

ということで

順を追って説明しましょう。

 

まず物語は

土曜日の和彦の部屋で

キスをする場面から始まる。

階段を落ちてタイムリープ

 ↓

 

登校した翔香は違和感を感じた。

月曜日のはずが火曜日だと知り、

昨日の私はどうしたのか不安になる。

 

その夜、

日記に「若松くんに相談しなさい」と

自分の筆跡で書いた文章を見る。

 

水曜日の昼休みに

和彦に相談するが断られ、

その帰りに中庭で

植木鉢が落ちてきて

タイムリープ

 

気付いたら木曜日の朝。

和彦に昨日なにがあったか聞くが

答えてくれない。

数学のテストが返ってきて

翔香は満点を取っていた。

月曜日に行ったテストだという。

 

掃除中にまたも階段から落ちて

タイムリープ

 ↓

 

階段から落ちたはずが

中庭にいる。

和彦に曜日を確認して

いま水曜日だとわかった。

翔香は自分が

タイムリープしていることに脅える。

 

和彦に味方になってもらうため、

テストで満点を取る賭けをする。

その夜

タイムリープ

 

翌朝目覚めたら

1日飛ばして

金曜日だった。

 

昨日の夜に

和彦が家に来たらしい。

家の外で和彦が出迎え登校。

階段落ちは

和彦が受け止めてくれたと知る。

 

学校の授業は受けず、

テストで満点を取るために

猛勉強することに。

 

護ると言いながら

一人で帰らされる翔香。

帰宅途中、

誰かに尾行されていると感じた翔香は、

走り出すが、

車にひかれそうになって

タイムリープ

 

木曜日の階段落ちを

和彦が受け止める。

その後、

翔香の家に和彦がやってきて

話を整理する。

 

タイムリープの法則が

「怖い事」を経験した時に

発生することを分析する和彦。

そして過去に戻ってもできるだけ

過去を変えないように約束。

 

和彦に言われるまま、

不安定な態勢で座っていた

椅子が倒れて

タイムリープ

 ↓

 

ついに月曜日に来た。

なぜか頭がすごく痛む。

 

翔香は数学のテストを受け、

階段落ちで

タイムリープ

 

椅子が倒れた木曜の夜に戻った。

タイムリープの原因が

日曜日の夜にあることを突き止める。

 

和彦は今日寝て、

金曜日に来てくれと言う。

そしてタイムリープ

 

金曜日

車に轢かれそうな翔香を

約束通り和彦が護る。

 

ここで翔香の命が狙われている、と

和彦が教える。

そして水曜日に

植木鉢を落とした人物を特定すべく、

見張りを頼むために

まだ空白の月曜日午後へ

階段落ちでタイムリープ

 ↓

 

月曜日の体育後、

指示通りに

優子たちに見張りを頼んだ。

 

火曜日の自分のために

日記に「若松くんに頼れ」と書き残す。

寝てタイムリープ

 

金曜日の階段落ちへ。

関鷹志から

手紙を3通受け取る。

さらに4通目の手紙が出てくる。

和彦が急に鷹志に

翔香に護身術を教えてやってくれと頼む。

 

土曜日は鷹志に護身術を教わった。

そして今から犯人と対決すると

八幡神社に連れていかれ、

犯人が中田だと教えられた。

 

ついに犯人と対峙したが、

和彦は腹を刺されて倒れる。

あまりのことに悲鳴を上げた翔香は

タイムリープ

 ↓

 

気がつくと八幡神社。

しかし日曜日の夜で

中田に押さえつけられた状態。

レイプ寸前で翔香は

教わった護身術で脱出する。

 

痛む後頭部を手当てして眠りに就く。

タイムリープ

 

今度は土曜日

和彦が刺された場面に戻った。

鷹志の護衛で中田は気絶。

和彦はあらかじめ腹に対策をして

刺されていなかった。

 

その後、

和彦の部屋で

護ってくれたお礼にキスを……

という感じで

最初に戻るわけです。

 ↓

 

でもこれじゃ

また同じことを繰り返すのかと

考えてしまうでしょうが、

この作品では

同じ時間はやり直せないので

全ての時間が埋まった後は

先に進むことができたようです。

めでたし、めでたし。

 

伏線解説

とにかく伏線が

これでもかと張ってあります。

 

※(上)は上巻、(下)は下巻です。

 

①冒頭で和彦が

「腹が痛い」と

脇腹を押さえて笑っていた(上 P.17)​のは

打撲の腹が本当に痛かったから。

  • 腹を抱えて笑うという表現が上手い。ちなみにこの時、和彦が笑った理由は自分から誘っておいて「キスが怖くなって」タイムリープしたから。

 

和彦の部屋のテーブルにあった

缶詰のフルーツ盛り合わせ。(上 P.16)

  • 中田のナイフから身を守るために缶詰を開けたため、早く食べなきゃいけなくなった。

 

③火曜日の夜、

引き出しにあるはずの

レターセットが見当たらない。(上 P.45)

  • レターセットは、鞄の内ポケットにしまってある。この時、「六セットくらいは残っていた筈だ」とあり後に五セット出てきて、数の違和感でヒントを与えている。

 

月曜の授業内容に

数学があるのにノートをとっていない。(上 P.43)

  • 授業以外のなにかがあったから。抜き打ちテストです。

 

優子たちが

水曜日の昼に

早く食べ終わって席を立つ。(上 P.52)

  • 後に自分が見張りを頼んだことだとわかります。この「おまじない」が原因で和彦との仲をイジられているが翔香は全く気付いていない。

 

英文読解の教師・中田が

月・火曜と学校を休んでいる。

  • レイプがバレたと思い警戒していた様子。

 

⑦翔香が廊下で中田と会った時、

洟のかみ過ぎで

鼻頭が赤くなっている。(上 P.55)

  • 日曜日のレイプ未遂で鼻に肘を入れられたため。

 

⑧木曜日の新聞に

「高速道路で七台玉突き」

「政界再々編成」に混じって

「連続婦女暴行事件」の記事がある。(上 P.66)

  • これが中田の犯行。さらっと書いてあるし、和彦に予言を言う場面でも「政界再々編成」と「高速道路」しか取り上げなかった。この後、もう一人の自分がいると震える翔香を見て、父は取り乱し「まさか暴行されたなんてことはないだろうな」と声を荒げたが、そのまさかだった。

 

⑨和彦の言う

「やあ、鹿島。いつから来た?」(上 P.73)

  • いつ(何曜日)から来たかの意味。

 

⑩木曜日の掃除中に

階段から落ちて水曜日に来たと言うと、

階段から落ちたのは一昨日だと和彦が言う。

“「階段から落ちて、あっと思ったら、中庭に……今日に……戻ってたの」

「ちょっと待てよ、鹿島。階段から落ちたのは一昨日だろ?

和彦が口を挟んだ。

「え?」翔香は、少し考えて、首を振った。「違うわよ。昨日というか、明日というか……要するに木曜日のことだもの」”(上 P.101)

  • 和彦から見て、一昨日は月曜日。翔香の記憶にない月曜日にも階段から落ちる事件があった。(これから落ちることになる)

 

⑪和彦はタイムトラベル系の作品を

たくさん見て来たと言い、

「車に乗る奴」

(バック・トゥ・ザ・フューチャー)を出す。

  • 確か防弾チョッキを用意して死んだフリがあったように思う。

 

⑫月曜日に戻ると頭が痛い。

場違いな母の台詞が意味ありげ。

“「どうしたの?頭痛?」

「うん……ちょっとね……」

「二日酔いじゃないの?

若子が、からかうように言った。”(上 P.199)

  • 頭が痛いのは昨夜、後頭部を強打したから。高校生が二日酔いという一見場違いな台詞も昨夜痛みどめにウィスキーを飲んだことから間違いではない。

 

⑬金曜日の夜、

名簿を探している間、

用を足しに下に降りる和彦。(下 P.31)

  • トイレという用を足したのではなく、この後の階段落ちタイムリープで翔香が怪我をしないように曲がり角にクッションを用意していた。

 

⑭鷹志は接近される前の

護身術を教えたが、

和彦は組みつかれた後を想定して

接近戦の防御を教えるよう頼む。(下 P.96)

  • 和彦には翔香が日曜日に戻った時、後頭部を打っているので気を失って倒れていること押さえこまれていることが予想できている。

 

「中田先生!あなたって人は!」と

言ったことで

正体を見破られたと思い、

命を狙われる。(下 P.124)

  • この台詞が無かったら殺そうとまで思わなかったはず。

 

「若松」の妹の名前が美幸(みゆき)。

しかもショートカット。

翔香の苗字が「鹿島」

しかも鹿島が若松に平手打ちする。

  • あだち充『みゆき』の登場人物の名前が元ネタ。他に香坂健二→香坂賢一、村木好夫→村木良雄も登場。鹿島みゆきが平手打ちする第一話が印象深い。

 

名場面・名台詞

タイムリープしたと言う翔香が

助けを求めるが、

力になれないと断る和彦。

“「はっきり言って、俺には、タイムトラベルなんてものが本当に起こり得るとは思えない。悪いが、君の助けにはなれないね」

それは、最後通牒にも等しかった。和彦は協力を拒んだのだ。

「私の言う事、信じてくれないのね……」

『信じる』って、言うだけでいいなら、幾らでも言ってやるよ。嘘でもいいならな」和彦は、やや強い口調で言った。「君がどう思っているかは知らないがな、鹿島。信じるって事は、大変なことなんだぜ。信じたくとも信じれないという事もあるし、信じたくなくても信じざるを得ないという事もある。自分の意志だけで決定できるような事じゃないんだ。ましてや、強制されてできるような事じゃない」”(上 P.105-106)

 

数学のテストで

満点を取ったと言う翔香に、

テスト結果の漏えいがないか

わざわざ確かめる和彦の徹底ぶり。

「科学的検証という奴は、他の可能性をすべて否定してからするものだよ」”(上 P.112)

 

木曜日の夜、

次は金曜日の夜に

リープしてくれと頼む和彦。

“「鹿島、頼むから、金曜日に来てくれないか?」

「え?」

「金曜日の君は、車に轢かれる寸前だ。今の君にとって、一番避けたい『時間』だろう。だが、それを承知で頼む。金曜日に来てくれ。そうしてくれると助かるんだ」

「だけど……制御できないもの……」

「そうでもないだろう?さっき君は、ちゃんと月曜日へ往復してこれたじゃないか。全然制御できないわけじゃないんだよ」

「あの時はそうだったけど……」

「鹿島」和彦は、強く断言した。「約束する。君は車に轢かれたりなんかしない。俺が、必ず護ってやる。君が、心の底からそれを信じてくれれば、間違いなく金曜日に来れる」”(上 P.223-224)

 

和彦は、

中田に襲われた日曜日に戻って

決着をつけてこいと言うが

怖くて無理だと叫ぶ翔香に……

“「あなたは男だから、そんな事を言えるのよ。他人事だから、気楽に行って来いなんて言えるんだわ!」

「他人事?」

一瞬厳しい表情を見せた和彦は、例によって、唇の端に薄い笑いを浮かべた。

その通り、他人事だよ。俺にとってはな。危険な目に遭うのも君だけなら、問題を解決できるのも君だけだ。好きにしろよ。逃げ続けると言うなら、それもいい。困るのは君であって、俺じゃあないからな

(中略)

もう一度言う。日曜日の俺は、君を助けられない。君が、自分で、切り抜けるしかないんだ」”(下 P.113)

 

犯人にナイフで刺されることが

わかっていて、

あえて刺されて死んだふりをした和彦に

どうしてそんな危険なことをしたのかと聞く。

“「それにしても……どうして逃げなかったの?」

「時間を再構成させて、それでもなお君を助けられると思うほど、俺は自分の能力に自信がなかったんでね」

『和彦が刺される過去』、それがあったから、和彦は『刺されなければならなかった』のだ。和彦がそれを回避すれば、時間は再構成されてしまった筈である。だから和彦は、刺される事を前提とし、その上で自分の身を護る方策を練ったのだ。

「さすがに、少し覚悟が要ったけどな。だけど、君に逃げるなと言ったのに、自分だけ逃げるわけにはいかないじゃないか

「……」

なんと言っていいか分からなかった。

あの時……翔香が『他人事だと思って』と言った時も、和彦は自分が刺される事を知っていたのだ。腹に来る事が分かっていたとは言うが、未来も過去も不変ではない。本当に刺されてしまう可能性も絶無ではなかったのに、それなのに、和彦は逃げなかったのだ。

時間を再構成させないために。翔香を助けるために。なにも分からずに、和彦を非難さえした翔香のために。”(下 P.160)