月明かりの或る、いい夜になりました。


真夜中の大空の下、夜気を肌に感じ佇む時は、


柔らかな侘しさにも似た深い静けさを湛えます。


あの海と空、それぞれに描かれた彩りの記憶が、


初めから何事も失かったかのように遠ざかってゆきました。




Canon Powershot G3 - 2002年11月28日発売 オープン価格


開放F値2.0の大口径レンズを誇る、400万画素のコンパクトデジタルカメラ。


当時の実売価格が8万程度と謳われたハイエンド機であるが、


現在の中古市場では1000円の値が付くか否か…。


技術の進歩が日進月歩なデジタルな世界では、もはや骨董品と呼べる代物。


そんな時代遅れのカメラでありながら、


今もこうして季節の彩りを鮮やかに描き、確かに時を止めてくれる。



あの日の瞬間を、僕はこんな風に留めておきたかったんだな…。




めぐる季節に、風と空と花の彩りが変わってゆく。


眠りだけを欲する中で、


あと幾度、目覚めを繰り返すのか。


星空が綺麗になってきた。




届けられなかった手紙がありました。


そこに綴られた言葉と想いは、もう誰の元へも届くことはありません。


僕には、『先生』のような生き方も死に方も出来ないだろうけれど、


表面的でない己の本質を誰かに伝えるということは、


それ程の強い意志と覚悟が必要なのかもしれません。




青い空に冬の景色を想う。


満天星のような煌きと、ぬくもりが滲む偽りなき世界。


どこまでも続く軌跡と信じながら、辿り着けなかった場所。


乾きを覚えた風は嘆息にも似て、夏空が彩を変えた。




夢より目覚め訪れた此の夏路は、


去年よりも遥かに長く、月満ちる後の如く閑寂な時を刻む。



気だるさ薫る夏の夕暮れに、白鷺は緑の淵で又ぞろ羽を広げた。


彼方へと霞む慕情が、言葉と鼓動の行き場を失くしてゆく。



雪の華が舞い散る、白く滲んだ記憶の日。


ため息が遠く感じられた季節の出来事。


幾千の夜を越えて辿り着いた場所は、


澱んだ風が淡く色づく、夏の蓮池。


光の中に咲いた秋桜は、マボロシのように揺れた。


長く続いた季節が、躊躇いなく形を変える。


霞みゆく夏の景色。


それは一瞬だ。



7月の今日。


遠い季節の花を添えて。



Flowers bloom.



幼少の頃を過ごした島根の山奥。


果てないほどに何処までも続く、灼けたアスファルト。


その乾いた夏の景色と絶望にも似た匂いは、今も脳裏にハッキリと刻まれている。


一度出会った景色を無き事には出来ないけれど、


人が歩みを続けるかぎり、記憶はいつの日か忘却の彼方へ失われゆくだろう。



今日も夜を迎えた。


夏は長くとも、望む世界は確かに近づいている。