「夢は叶わぬこともある。努力は報われぬこともある。正義は勝つとは限らない。でも、やってみなけりゃ分からない。」
『四十九日のレシピ』伊吹有喜 から
親なんてのは、詰まらないものですとも。子には子の幸せがある、と頭でわかっていても、それが親の思い描いていた幸せの形と違えば、色々考えてしまうんですよ。子が幸せなら自分はどうでも良い、と無理に思おうとすればするほど、逆に親子の絆に囚われすぎて苦しくなるものなんです

「残月 みをつくし料理帖」 高田郁

『「相対性理論」を楽しむ本』 佐藤勝彦編 (PHP文庫)



今までで一番分かりやすかった


2009/12/14 20:01:58


★★★★★

 今までに相対性理論入門の本を何冊も読んできたが、分かったような気にさえなかなかなれなかった。この本で相対性理論が分かったというつもりはないが、これまでとは違って、理解が深まったことは確かである。特に特殊相対性理論については、高校までの数学で理解できる部分は、すっきりと頭に入ってきたし、一般相対性理論が、なぜ私の数学レベルでは理解不能なのかも分かった。
 
 その理由は、数式をうまく提示しているからだと思う。この本も他の本同様にできる限り数式を使わずに理論を説明しているのだが、今まで読んだ本では言葉あるいは、イメージでの説明の後、最後にここまでを数式で表すとこうなんだと終わる感があった。(数式を示すがどうせ理解できないでしょうという印象)しかし、この本では読者のレベルで理解できそうな数式に関しては説明があり、理解できそうにない数式に関しては、その数式を理解するために、どんな知識が必要であるかを教えてくれている。
 
 これは大切なことだと思う。本書では何度か物理はこの世界を数式で理解することであり、数学的理解をしなければ、本当に理解したことにはならないとはっきり書かれている。まさしくその通りで、親切なのである。それゆえ、この本では相対性理論を真に理解したい人(特に若い人)は、次に何を身につけるべきなのかが分かる。また、そうでない人もイメージ的な説明だけで、分かったでしょうと理解を強要されないので、自分がどこまで理解できる理論で、どこからは理解を超えているかが納得できるのである。


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『疑似科学入門』 池内 了 (岩波新書)


予防措置原則

2009/12/14 19:54:42

★★★★

 この本は第4章が素晴らしい。著者は、まず疑似科学を三種類に分類している。第1種としては、科学的根拠のない、人の心の弱みにつけこむもの。第2種として、科学を援用・乱用・誤用・悪用したもの。そして、第3種として「複雑系」で科学的に完全な証明ができないものに、一方的な結論を出したり、証明不能なことを利用して、自分勝手な結論を肯定するもの。
 
 この中で、第1種と第2種に関しては、マーチン・ガードナーやカール・セイガンに代表されるように多くの本が出ている。これはこれで大切なのであるが、はっきりと嘘であるがゆえに、指摘しやすい。一言で言えば、詐欺なのである。それに対して、第3種の言説は否定できないがゆえに(肯定もできないのだが)扱いが難しい。そこで著者が提案しているのが、「予防措置原則」である。これは、科学者の良心と言ってもいいだろう。
 
 第3種では、地球環境問題、地震予知、狂牛病、電磁波、遺伝子組み換えが俎上に上げられている。これらは本当に微妙な側面を持っていると思う。たとえば、環境問題において地球が温暖化しているかどうか、温暖化しているとして、それが人間による二酸化炭素排出が原因かどうか、温暖化による影響にどのようなものが考えられ、どのような規模になるのかなど、どの論題にも明確な答えが出ているわけではない。
 
 さらに、温暖化が地球の自然な歴史でなく、人類の排出する二酸化炭素が原因であり、存続の危機をもたらすことで一致したとしても、どのような手立てが有効であるかに関しては、意見が分かれることだろう。温暖化しているかどうか分からないのだから、何もしなくてよいというのは論外だが、リサイクルとか省エネとかの美名の元に、かえって環境を悪化させる活動が行われている場合がある。我々は、それを見抜く力を持たなくてはならないし、科学者は最善の道を示す努力を忘れてはいけない。
 
 その意味で、「予防措置原則」は、素晴らしいものである。正しく疑う心を育てることは大切だ。しかし、著者も語っているように、これとても両刃の剣になりうる。結局は一人一人が良心に従って行動できるかどうかである。人類の存続はそれにかかっており、それが試されているのだろう。


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疑似科学と科学の哲学/伊勢田 哲治
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超常現象をなぜ信じるのか (ブルーバックス)/菊池 聡
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『宇宙創成』 サイモン・シン (新潮文庫)





優しい眼差し、分かりやすい解説、スリリングな展開




2009/12/14 19:48:10


★★★★★





 宇宙論を通して、科学とは何か、科学の発展はいかにして成し遂げられていくのかを分かりやすく伝えてくれる良書である。

 

 科学とは(特に物理学は)、この世界を数学で記述することである。そして、その式はシンプルでかつエレガントであるべきである。また、その理論はよく言われるように検証(あるいは反証)可能でなければならない。そのため、実験や観測というテストに耐えなくてはならない。

 

 科学の発展は、これらの試練を耐え抜いた時に起こるだが、さらに大きな壁となるのが人の心(先入観や偏見)である。第I章では、宇宙論が神話から、そして宗教から解き放たれて進んできた様子が、詳述されている。現在の我々からすると、なぜ天動説から地動説に切り替わるのにあれ程時間がかかったのかと思いがちであるが、宗教的な面よりも観測データに合わないことや重力の説明がつかなかったこそが、大きかったことが分かる。



 それゆえ、近代科学はニュートンの登場を待たねばならなかったのだ。しかし、それですべてが終わったわけではない。それまでの常識を覆し新たな権威となった人は、わずかな矛盾に目をつぶり自説に拘泥しがちである。多くの天才たちもまたそれを逃れることができなかったことが分かる。さらに、現在に至っても政治や国家といった障壁が消えたとは言えない。

 

 現在に近づくにつれ、科学者一人一人の人柄にも触れ、社会情勢の中で翻弄される姿も語られ、そのスリリングな話運びに捕らえられて、一気に最後まで読まないではいられなかった。科学が理論と技術、観測・実験が三位一体となりながら発達していく壮大なドラマが味わえる。

 

 著者サイモン・シンの素晴らしいところは、過去の科学者たちに対する優しい眼差し(尊敬の念)である。現在の知見を持つ我々が、過去の科学者たちの誤りを一笑に付すことは簡単である。しかし、この本を読むことで、それぞれの時代が持っていた条件を考えれば、彼らが当時の最高の知性であったことが納得できる。





宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)/サイモン シン



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宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)/サイモン シン



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宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫 ワ 10-2 Math&Science)/S.ワインバーグ



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フェルマーの最終定理 (新潮文庫)/サイモン シン



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『天皇家はなぜ続いたのか』 梅澤恵美子 (ワニ文庫)



トヨ(神功皇后)をめぐる冒険


2009/12/02 22:29:05

★★★★★


 纏向遺跡、箸墓古墳の調査が進むいま(2009)が、旬の本である。
 

 著者ははっきりとは言い切っていないが、私なりに私見を入れてまとめると次のようになる。
 
 「日本書紀」は、中臣釜足を祖とする藤原氏が、武内宿禰を祖とする蘇我氏の功績を歴史から抹殺しながら記述しようとした歴史書である。そのため不自然な記述が多いが、その理由を推測していくことで古代の政争(真実)が見えてくるのではないか。そして、それにより分かるヤマト王権の成立過程こそ、天皇家が続いた原因と考えられるというものである。
 
 歴史書上の初代の天皇は神武天皇である。実在したと考えられる最も古い天皇は、応神天皇だとされている。応神の母とされる神功皇后の夫、仲哀天皇以前の天皇の実在は疑われているし、崇神天皇以前は実在の可能性は極めて薄いとされる。しばしば指摘されるように神武天皇も崇神天皇も諡がハツクニシラスである。そして、歴代の天皇で神の名を持つのはこの4人のみ(神功皇后は天皇ではないが、仲哀死後、が即位するまで、天皇不在で実質上の天皇)。
 
 すると、「日本書紀」が成立したとされる8世紀初頭(藤原不比等の時代)と蘇我氏が実権を奮った6世紀末から7世紀半ば、ヤマト王権が世襲となったと考えられる5世紀(応神天皇の時代)、そしてヤマト王権誕生であろう3世紀(卑弥呼の時代)が三重、四重重ねになって見えてくる。
 
 アマテラスのモデルは卑弥呼である。トヨウケは台与であり神功皇后、仲哀天皇は武内宿禰(蘇我氏の祖)と置いて見ると祟る天皇の成立ができあがる。また、武内宿禰は百済と関係が深く、百済と日本の関係が歴史上大きく関わっているのが、応神天皇(讃)の頃の好太王碑文に登場する戦い(日本側の勝利)と蘇我氏が衰え、「日本書紀」編纂が開始される直前の白村江の戦いである。白村江の戦いでは、日本は戦いに敗れ半島から撤退している。そのため、半島との対立もまた編纂に大きな影響を与えたと考えられるだろう。
 
 現在進行中の纏向遺跡や箸墓古墳の調査がどのように進展するかは分からないが、卑弥呼の金印でも出ない限り(台与が中国に返してなければだが)邪馬台国の位置の特定までには至らないだろう。魏志倭人伝から晋書に現れるまでの空白150年があるため、この時代にはいつまでも歴史ロマンなるものが引き継がれ、学界だけでなく在野の研究家の論争を楽しんでいくことになるだろう。


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『最新宇宙論と天文学を楽しむ本』 佐藤勝彦監修 (PHP文庫)


望遠鏡がよく分かる

2009/12/02 22:24:53
★★★


 天文分野に関しては、冥王星がまだ惑星だったりして少し古いが、第1章の天体望遠鏡に関する記述が詳しく楽しい。ガリレオ型の屈折望遠鏡、ニュートン式反射望遠鏡といった光学望遠鏡、可視光線以外の電磁波を観測する電波望遠鏡、その他ニュートリノや重力波を観測する望遠鏡まで、それぞれの特徴を分かりやすく説明してくれている。
 
 宇宙論に関しては、監修者の専門であるので説明がうまい。ただ、望遠鏡、天文学、宇宙論を盛り込むには紙面が不足している。宇宙論もホーキングまでで終わっているので、最新の情報を加えて、3分冊で再発行されるとよいと思った。
 
 まず、望遠鏡に関してはそれぞれの望遠鏡で得られた画像やデータを差し挟んで1冊。天文学では太陽系を中心として、それぞれの惑星の解説を詳しくし、銀河レベルまで。宇宙論では宇宙論の歴史から始めて最新の情報を、というのはどうだろう。
 
 話はそれるが、政治家はこのような本を読んでいるのだろうか。ダムやつまらぬ箱物、天下り先になっているいらない法人などはもっと事業仕分けしていってもらいたいが、科学技術振興費や教育関係予算を削ることは、技術立国日本の将来を危うくする。政治家は文系だから分かっていないとの発言を耳にするが、理系の素養のない文系や文系の素養のない理系はリーダーとしての資質を欠いていると思う。鳩山由紀夫、菅直人など理系出身者も多い現内閣が、そのようは愚を行わないことを期待する。

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『秘密とウソと報道』 日垣 隆 (幻冬舎新書)


やって良いこと、悪いこと

2009/12/02 22:20:59

★★★★

 再び、いわゆる「西山事件」こと外務省機密漏洩事件が脚光を浴びている。マスコミは当然、密約の存在や政府が密約を隠匿してきたことに焦点を当て、報道を行うだろう。しかし、だからといって、西山記者の行ったことが肯定されるかどうか、この本を読んで考えてもらいたい。私は、彼の行為はスパイとしては許されても、ジャーナリストとしては許されないと思う。彼がすべきことは、安川審議官から直接情報を得ることだったと思う。また、触法的取材は、かえって取材の自由を狭める方向に働いてしまう弊害をもたらすことになる。
 
 もちろん、情報公開のあり方は、できる限り早く改善がなされるべきだと思う。永遠に秘密にすることは、元アメリカ局長吉野氏も語ったように国民のためにも国家のためにもならない。アメリカのようにしっかりとした公文書公開規定等を定めるべきであろう。そうすることで、機密保持を義務づけられている公務員も、その期間中の機密保持をしっかりできるし、死ぬまで一人で抱えていかねばならない心理的な負担も軽くなるだろう。政治家は、公開される時がくることで、それが本当に国民のためになるか歴史的評価を考えて行動するようになるだろう。
 
 ただ、現在のなんにでも透明性を性急に求める風潮には危惧を抱かざるをえない。特に外交においては国益と国益がぶつかりあわざるをえない場であるので、手の内を公開することは、国益(国民の利益)を毀損することになる。まず、密約を認めるとか認めないということ自体、語彙矛盾である。認めれば密約ではない。機密費もそうである。機密にする必要があるから機密費なのである。何十年が後に公開することはあるべきだが、毎年何に使ったか公開するのでは機密費ではない。
 
 機密費が不正に使われているかどうかは、また別の次元の話である。不正を働いたものは厳罰に処すのが当然であろう。それに必要なのは、しっかりとしたチェック機構であって、情報公開ではないと思う。また、機密費を不正に使うような為政者を選んだことを、私たち自身も恥じなければならない。政官財法学が癒着しているから、どうしようもないと言うかもしれない。しかし、まず自らもそれに咬んでいないか省みること、次にそれを正すために自分ができることはないかを問うてみる必要があると思う。
 
 ジャーナリストを目指す人には、情報源を秘匿するというのは、情報源を語らないことではなく、特定できないようにして守ることであること、情報源を語らなかっただけでは、自分を守ったことにしかならないことを、よく心に留めておいてもらいたい。


秘密とウソと報道 (幻冬舎新書)/日垣 隆
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『ネトゲ廃人』 芦崎 治 ( リーダーズノート)



アバターは化身に過ぎない

2009/11/22 17:39:26

★★★

 この本に出てくるゲーマーの多くは生還した人達である。現役のゲーム中毒者はインタビューに来られないからであろう。私自身ゲームにはまっていた時期があるので、ゲームの楽しさ、ゲームを終える時の寂寥感は分かる。その寂寥感は2つの要素からなると思う。一つは楽しいゲームの世界から現実に引き戻される寂しさである。もう一つは、なんら人間的に成長することなく歳を取ってしまった(無駄に時間を過ごした)空しさ。つまり失われた時間に対する後悔であろう。人間に与えられた時間は有限である。どんなことをしても、二つの生を生きることは不可能なのだ。
 
 浪費がすべて意味がない訳ではないが、過剰な浪費が身の破滅をもたらすのは、お金だけではない。過剰な時間の浪費の空しさから逃れるために、またゲームに向かってしまうと悪循環が始まる。ゲームはどれだけ魅力的であっても、リアリティに富んでいても作業である。この本に登場する多くのゲーマーが指摘するようにある限度を超えると苦しい作業になる。その瞬間に自覚的であれるかどうかが、中毒に陥ったり、廃人になったりするか否かの分岐点である。
 
 現在の日本では、コンピュータ利用より携帯によるネット社会の問題が深刻であると思う。もう寝た子を起こすな的議論の状況はとっくに超えてしまっている。韓国の問題にしても日本の問題にしてもその根底にあるのは格差なのである。ネット社会は情報格差をなくすと謳われ登場したが、果たして現状はどうなのか。そして、情報リテラシーの教育は遅れに遅れているのではないか。この本のつっこみはまだまだ甘い気がするが、ネットの功罪に正面から一石を投じた一冊。


ネトゲ廃人/芦崎治
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ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)/中川淳一郎
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ゲームの教科書(ちくまプリマー新書)/馬場 保仁
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『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』 ブルボン小林 (ちくま文庫) 



不易と流行

2009/11/22 17:32:53

★★★★

 ゲームについて、マニアの世界に没入することなく、少し距離を置いて語っており読みやすい。また、本文中の多くの指摘は正鵠を射ており、同じように感じていたのが私だけでないことを知り、嬉しかった。
 
 著者よりも、解説の吉田戦車よりもさらに年上の私は、20代後半から30代半ば過ぎまでの10年ほどゲームにはまっていた。著者はMSXからゲームの世界に足を踏み入れたという。私は当時、MSXパソコンかFM(富士通)か88(NEC)か迷い、FMを購入した。その後、98へと移行しゲームに耽溺する時代を迎えた。しかし、ゲームが複雑になり、やらされている感が強くなり、仕事上のこともあり、データベースや表計算の処理を書くことのほうが面白くなっていった。パソコンではなく、ゲーム専用機を購入したのは、64が最初ですでに40代になっていた。ゲームがしたいためというより、ゲーム機がどれくらい進化したかの興味を満たすためで、すぐに子供のおもちゃになった。
 
 パソコンでは、RPGのイースやソーサリアン、シミュレーションのA列車やシムシティ。もちろんシューティングや落ちゲーもやった。いずれにせよ、著者が言うようにゲームは作業である。あるルールに従って定められた、あるいは自ら定めた目標に向けて延々と作業を繰り返し、達成感を味わう。製作者の意図した目標でない目標であっても、達成する快感こそゲームの褒賞であった。リアルであることがさほど重要とは思えなかった。
 
 それで、グラフィック性能が急激に発達しリアリティが増すにつれて、かえって面白さは減っていったように思う。3Dで八頭身でものっぺりとした肌の人物たち(それにだいたい自分より美男・美女)より、デフォルメされた主人公のほうがよほど感情移入が容易なのである。華麗にそしてリアルに剣を振り下ろして、飛び散る血や肉片を見せてもらう必要を、私は感じない。感じないどころか引いてしまう。ピコピコとしか動かない剣で、敵に重なればダメージを与えたことになるルールのほうがなぜか楽しかったのだ。単純な落ちゲーが長寿命なこともまた多くのことを語っていると思う。
 
 ハードの発達によりCGがリアルになっただけでなく、できることが増えたことが、作成者の負担も増やし、できないことが目立ってしまっているのが現状である。シナリオにしても複雑になれば楽しいものではない。難しすぎる必要などないのだ。マニアにしか分からない楽しさを追求すれば、マニアにしか売れはしない。また、著者が言うように「リアルとリアリティは違う」。3D酔いの原因はそこにあるのではないだろうか。人間は動くことにより視点が変わる。だからゲーム内のキャラクターが動くと視点が変わるのであろうが、プレイヤーは座って画面を見つめているだけで、動いてなどいない。体感とずれるのである。
 
 最近のゲームは懐古主義的なものが目立つようになってきた。一つには、少子化で子供たちだけをターゲットにしていては販売が伸びないこともあるが、上記のような理由で離れていってしまった黎明期のゲームファン層を取り戻す必要があることに気づいたのであろう。もっとゲームの世界を広く受け入れられるものにするには、ゲームマニアもゲーム作成者もこの本を読んで原点に回帰すべきだと思った。結局、ゲームは作業であり、楽しい作業でなければならないのだ。


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