櫻山神社…岩手県盛岡市

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今年度最後の3連休は秋田に帰省した。

先日80歳になったばかりの父のお祝いも兼ねていたので、職場の大イベント後の打ち上げ旅行をお断りしての帰省だった。

くまさんが直前になって知らせると、特に父が耳寄り情報に飛びついたそうだ。

「で、何日の何時に来る?」

母はカレンダーに赤丸をつけて、何十回と説明したそうだ。

「18日だって。時間はまだわからん。いつも夕方でしょう?」

「ふうん。で、何時?」

「だから、夕方っていえば、5時とか6時とか…。」

「ふうん。で、何日だっけ?明日か?」

「明日ではね!(明日ではないよ!)」

 

 

 

帰省中の中日はたいてい、二人を誘ってドライブにでかける。

到着した日の夜、父からその話が出た。

普段はコタツと布団とトイレと、1日に一度玄関を出るか出ないかの移動しかしない父がだ。

「で、明日はどこさ行ぐ?」

いろいろなことがあやふやになってきた父だが、息子夫婦が来るとおでかけするのは記憶に定着しているらしい。

「盛岡。80の誕生祝いに寿司さ食いに行ぐべ。で、春の服を買おう。」

くまさんが言うと、横で聞いていた母が目を輝かせる。

体も丈夫で病気一つしない元気者の母はおでかけが大好きだ。

「行ぐべ!」

ところが、父は自分で尋ねておきながら、にこにこと真逆の返事をする。

「おれは留守番さしてる!」

「なーに言う!行ぐべ。たまには外出ろ!」

息子は容赦ない。

「美味い回転寿司見つけたから。それなら食うべ?」

「…いや、いい。」

いつものようにこのやり取りを黙って見ている私には、父の言葉が「説得されてしかたなく行く」という過程を楽しんでいるように聞こえる。

で、決定打はいつも私が打つ。

散々抵抗した頃合いを見計らって、

「でも、お父さんも行きますよ。私、楽しみにしてきたんですから。」

「…うん。」

はい、決まり。

 

 

 

翌朝、私もくまさんも日ごろの疲れが噴出して、明るくなっても全く目が覚めなかった。

普段は4時、5時に起きるのに、秋田に行くと体内時計も止まってしまう。

7時すぎてようやく起き出し、のそのそと居間に出ていくと、母はもうおでかけ着で、その上から割烹着を着て、朝ご飯のしたくを終わらせていた。

「すみません!また寝坊しました!」

「いいの、いいの。普段疲れているんだから、帰ってきたらいっぱい寝ればいい。寒ぐなかった?」

「寒かったです。電気毛布敷いてくださったから生き延びました。空気が冷たくて、死ぬかと思いました。」

「ははは!」

夜中の寝室はマイナス6℃とか7℃とかになる。

関東生まれの関東育ちの体では、生命の危機を感じることがあるくらい寒い。

そうして、寒がる私を見て、寒い話を聞き、それに備えて何かしておいてあげよう!というのが、母の楽しみらしい。

毎回、毎回、布団を敷いて待っていてくれる。

本当にありがたい。なんてステキな女性なのだろう。

 

 

 

「ああ、おはよ。」

父が寝室から出てきた。

びっくりだ。もう、おでかけ着を抱えている。

「昼飯食いに行ぐのだから、ゆっくりでいいんだ。」

くまさんが言っても、もう耳に入るものではない。

「まずは朝飯食え!」

「うん。今朝の飯はうめぇなぁ。でもまま(ごはん)が硬い。」

噛む力が弱ったのか、口内炎ができやすくなってもいるらしく、米つぶを感じるような硬さのご飯を父は「硬い」というようになった。

私はそっとくまさんに囁く。

「ねぇ、すし飯ってツブツブしているよね。大丈夫かな?」

「多分、大丈夫。まぁ、刺身の部分だけでもいいしね。」

「そっか。」

実際、行ってみたら雰囲気のせいか、すし飯まで一粒残らず食べていたから、このときの心配は杞憂だった。

さすが息子、よく分かっている!

 

 

朝食後のコーヒータイムも、父は待ちきれないようで、行こう行こうと言う。

それで、予定よりも2時間早く家を出た。

「ねぇ、まだ店も開いてないよ。どこか行くところないかな?」

運転しながらくまさんがつぶやく。

後部座席の両親は何やら楽しげに語り合っていて、この会話は聞こえていないらしい。

「うーん。そうだ!私、3月のお参りをまだしていないから、どこか神社に行きたい。」

「おお、神社。それはいい考えだ。どこかあったっけ?」

横浜出身の私に聞くな。

「えーっと、うーんと、前に盛岡城址のあたりの神社に行ったことあるよね。あれ、何だっけ?」

「ああ、櫻山神社!あれならかなりフラットだから、あれにしましょう。」

 

 

 

 

櫻山神社は盛岡とともに300年、南部公を御祭神に、盛岡の守り神として愛されているようだ。

我々が着いた時にも、すでに参拝者がいた。

 

 

 

最初に見つけたのは私だった。

「見てください、長寿院亀之助ですって!」

こういうのが大好きな母がやってきて、早速たわしを手に、甲羅を3回ゴシゴシした。

「これで10年長生きできるわ!」

よかったです、10年と言わずに…と言っている間に、父もゆっくりやってきた。

私は境内に向かうスロープを確認にその場を離れる。

「向こうへ回ることもできそうですが、道が長くなるから、この6段くらいの階段をゆっくり上がる方がきっと楽ですよ。」

「そうそう。今、亀之助の背中を1万年長生きできるくらいこすったから、階段6段くらいどうということはない!」

……そんな楽しいことをしていたのか!

「うん。階段は怖いけど、行ってみべ。」

おや、すごい。

「そうだ!少しは負荷かけろ!恐竜並みに生き延びるんだ!」

おい、息子よ。恐竜は滅んでいるぞ。言葉に気をつけなさい。

 

 

 

熱心にお参りした後、私が御朱印をいただいている間にも、右へ左へと歩いて、お出かけ気分を味わっていたようだ。

 

櫻山神社さん、いい場所にいてくださって、本当にありがとうございます。

 

 

 

 

 

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