【震災がれき】住民投票もせず、黒岩知事は年度内受け入れへ | 民の声新聞

【震災がれき】住民投票もせず、黒岩知事は年度内受け入れへ

「心は全然折れていません」─。またしても怒号と野次が飛び交った対話集会。終了後、別室で行われた記者クラブとの囲み取材で黒岩祐治神奈川県知事は言い切った。そして「ご理解いただくまで、徹底的にやり抜く」。明言は避けたものの、年度内受け入れは否定せず。「強引に突っ走ることはできない」と言いながら、黒岩知事は震災がれきの受け入れに邁進する。「被災者の生の声を聴いてきた」と胸を張るが、神奈川県民の訴えには耳を貸さない。会場から出た住民投票の提案も一笑に付し、「今後も誠意を見せ続ける」と話す黒岩知事。「対話」とは名ばかり、もはや県民を説得する意思などないようにさえ見えてくる。「脱原発知事」の二枚舌ぶりに、票を投じた県民の心は折れる一方だ



【原発即停止の否定に「嘘つき」】

30日夜、2回目の対話集会が開かれた神奈川県庁の大会議室。参加した県民は、事前申し込みを下回る218人。強面の県議が二階席から会場を見下ろす。二階席は県議や関係機関の職員らで埋まった。ふんぞり返る県議が睨みつけるなか、横浜市内在住の母親は勇気を出して訴えた。「子どもの健康リスクを増やすことはやめてほしい」。会場から湧き上った拍手は、彼女が着席してもしばらく、鳴り止まなかった。

黒岩知事は毎度おなじみとなった言葉で答える。

「気持ちは良く分かります」

だが、わが子の被曝を心配する母親の気持ちなど分かっていないことは、その後に続いた言葉が表していた。

「汚染していないのだから、がれきを持ってきたって被曝が増えるわけではない。私は現場でしっかりと見てきた。想像がどんどん膨らんでいくと、放射能が怖くなっていくものです」

とても言論を業としてきた人とは思えない言葉の軽さ。

将来の子どもの健康被害に話が及ぶと、「責任をとれるのか?それは飛躍した言い方だ」と逃げ、

「知事は県民の利益を代表しているのではないのか」と迫られれば、

「もちろん神奈川県民の利益を代表してるが、その前に日本人だ」と言ってのける。

それはとうとう、最大の公約とも言える「脱原発」にまで及んだ。

「『脱原発』で当選した時の想いを、もう一度聞かせて欲しい」と女性が問うと、

「原発を全部止めてしまったら、私たちの生活はどうなってしまうのか…」と即停止を否定。会場から湧き上ったブーイングに、メガソーラー構想について懸命に話す知事の声はかき消された。

「嘘つき」

これが、知事の言う「誠意」に対する県民の答えだ。
民の声新聞-対話集会①
参加者にはもはやウンザリするだけの「視察映像」。

将来の番組制作含みでTVKが撮影したという

=神奈川県庁大会議室


【すべてが「絶対に大丈夫」】

会場からは、震災がれきの焼却や埋め立てによる健康被害を心配する声が上がる。黒岩知事は「100ベクレル以下なのだから汚染されたがれきではない」。議論は平行線。

県職員の説明では、神奈川までの運搬は鉄道が有力。横浜、川崎、相模原の焼却場で燃やされ、灰が横浜横須賀道路から県道横須賀芦名線(横須賀IC経由)を通って処分場に運ばれる。

集会では運搬ルート沿線住民から不安の声が出たが、知事を始め、県側の説明は「絶対に大丈夫」の一点張り。「鉄道で運ぶ際は、密閉性の高いコンテナを使うので途中で飛散することは無い」「焼却灰はフレコンバッグに入れ防水シートで覆って運ぶので、外に漏れ出すことは絶対に無い」…

放射性セシウムに対する懸念は、「専門家」の前川和彦東大名誉教授が答えた。

「一部のベラルーシの論文があるが、世界的に評価されていない。セシウムの発がんに対する危険性は世界的に認められていない」

ストロンチウムに関しても「文科省の計測で確かに少しは検出されているが、事故前の数値の範囲内だ」と一蹴。焼却場のばい煙から放射性物質が飛散するのではないかとの懸念に対しては、環境省の担当課長が「福島で10万ベクレルを超える放射性廃棄物を燃やしても、排ガスからは放射性物質は検出されなかった」として、バグフィルターの性能に絶対的な自信があるとの見方を示した。

「石原東京都知事が震災がれきの受け入れで儲けたという噂がある」という声には、黒岩知事は「そんな話は知らないし、無いと思う」。「実は水面下で芦名町内会と交渉しているのではないか」との疑念には「情報は全部オープンにしている。これがすべて」と否定した。

芦名の最終処分場も「万万が一漏れ出してもセンサーがしっかり監視しているから大丈夫」と黒岩知事。だが、絶対に安全と言われた原発事故が実際に起きたのだ。行政の「絶対大丈夫」を素直に聞く住民がいるだろうか。民の声新聞-黒岩知事囲み取材
対話集会後、記者団の質問に答える黒岩知事。

震災がれき受け入れへ「徹底的にやり抜く」と、

改めて決意表明をした


【「もう少し、理解が進んでいるかと思った」】

被災者の「心の復興」に貢献しようと繰り返す黒岩知事。

この夜も、岩手県の工藤孝男環境生活部長が再びステージに上がり、来場者に頭を下げた。

「基幹産業である水産業など、ようやく半歩踏み出したばかり。被災者にとっては、がれき=津波なんです。トラウマになっているんです…」

黒岩知事も、会場から「がれきを受け入れる金があるなら、その金で別の復興支援ができるのではないか」「心の復興と言うのなら、がれきでなく福島の人々を神奈川に招いたらどうか」と尋ねられると「岩手県宮古市などを訪れたときに、現場で『何とかしてほしい』と頼まれた」と、がれき受け入れが「心の復興」に寄与すると再三強調した。

横浜市内在住の男性から「そんなに安全なら、津波対策の高台を造るのに利用すれば良いじゃないか」との意見があったが、岩手県の工藤部長は「もちろん復興資材として活用するし、その中には『鎮魂の丘』という案もある。しかし、問題は可燃ごみなんです」と、地元での処理には限界があるとして、受け入れを求めた。

「奇策、妙案はないと思う。あったら教えて欲しい」

集会後、記者団にそう話した黒岩知事だが、結論ありきの名ばかり対話集会で、受け入れによる健康被害を懸念する県民を納得させられるはずがない。

「誠意を見せる」と言いながら、この種の集会は「今の雰囲気では、何回やっても同じ。『駄目だ』の繰り返しだろう」と開かない方針。「もう少し理解が進んでいるのかと思ったが、今日も怒号と罵声の嵐だった。冷静な議論がしたい」。挙げ句は「私の話に拍手をしてくれる人もいたが、とても賛同する発言ができる雰囲気ではなかった」と受け入れに反対する来場者を非難する始末。「いくら『汚染がれきではない』と説明しても歩み寄れないもどかしさがありますね」。今後は知事は前面には出ず、県職員による芦名地区を中心とした地元住民への説得を続けるとという。

「スピード感は必要」と、年度内受け入れに意欲満々の知事。二枚舌ぶりは前回の集会で良く分かった。住民投票も実施しないのならば、県民が知事を解職するしか道は無い。

生後6カ月の息子を連れて小田原市から参加した母親は、憤りを露わにしながら会場を後にした。

「関心が高い?当たり前じゃないですか。子どもの命がかかっているんですよ」

そして、やり場のない怒りをぶつけるように吐き捨てた。

「こんな説明で納得できるわけないじゃないですか」

(了)