人の心を欠いた福島地裁~ふくしま集団疎開裁判の舞台は仙台高裁へ | 民の声新聞

人の心を欠いた福島地裁~ふくしま集団疎開裁判の舞台は仙台高裁へ

被曝することなく安全な場所で学びたいという子どもたちの願いに対し、司法の出した答えはNOだった─。14人の小中学生が郡山市を相手取って起こした「ふくしま集団疎開裁判」は、舞台を仙台高裁に移して争われる。27日午後にも福島地裁郡山支部に異議申し立てを行う。「除染によって線量が下がっている」「ただちに生命身体に危険はない」「他の子どもが残る選択肢を奪う」…地裁の却下理由に弁護団や支援者たちは怒る。23日に郡山市内で行われた報告会「判決不服従アクション」には講談師・神田香織さんも駆け付け、応援を約束。俳優の山本太郎さんも郡山デモ(http://ameblo.jp/rain37/entry-11054685635.html )に参加するなど、支援の輪が広がっていた矢先の却下。福島は原発事故から9カ月が経っても高線量が計測されている。ゲストとして招かれたフォトジャーナリスト・広河隆一さんは、豊富なチェルノブイリ取材の経験からこう語るのだ。「チェルノブイリで消えた町と同じ状況の中を、子どもたちが走り回っているのですよ」


【黙殺されたチェルノブイリ事故との対比】

「全く理不尽な結果。中世の暗黒裁判に逆戻りしているかのような判決だ」

弁護団の中心として子どもたちの戦いを支えている柳原敏夫弁護士は、報告会で怒りを露わにした。

「裁判は、やむにやまれず起こしたもの。人権の最後の砦、という裁判所の本来の任務に期待したが…」と柳原弁護士。「年100mSV未満であれば問題ないという考えで、晩発性の被害は救済できないと言っているのに等しい判決だ」と批判した。

弁護団はチェルノブイリ事故との対比に関する詳細な資料を提出し続けた。しかし、判決文には、チェルノブイリ原発事故について言及した個所が一つもない。

逆に、郡山市による60人への聞き取り調査を紹介。県外に一時避難し再び戻ってきた子どもたちの声として「校庭の表土除去や校舎の除染活動により放射線量が下がり学習環境が改善された」「慣れ親しんだ友人関係や学習環境を大切にしたい」「家族と一緒に暮らすことの大切さを感じた」「郡山の学習環境の良さを改めて感じた」などとしている。

柳原弁護士は「チェルノブイリ事故との対比に関する訴えは、すべて黙殺・無視された。そこに一歩でも踏み込んでしまうと、郡山市の子どもたちが全員避難しなくてはならないことが明白になってしまうからだろう」と地裁の姿勢を指弾した。

「必ず勝つと思っていた。負けるはずはないと。そして、判決をテコにして、最終的には他の子どもたちの県外避難に結び付けられると考えていた」と悔しさをにじませる柳原弁護士。「他の手段も考えたが、やはり抗議の意味も込めて異議申し立てをし高裁で争う。子どもたちを救うために微力ながら取り組んでいきたい」と締めくくった。なお、訴えた14人の子どもたちの負担は印紙代のみで、弁護団に対する報酬は無いという。「個人的な訴訟ではない。パブリックな争いですから」(同弁護士)
民の声新聞-柳原弁護士

弁護団の中心となって動いている柳原弁護士。

27日にも地裁へ異議申し立てを行う



【論旨をすりかえた地裁】

A4判で21㌻にわたる判決文は、「主文 本件申し立てを却下する」で始まる。

このなかで、清水響裁判長らは判断理由について、

「郡山市には、居住する他の児童生徒が存在する限り教育活動を実施する義務があり、訴えた子どもたちの教育活動だけを他の児童生徒と区別して差し止めることは困難」

「子どもたちは事実上、自分たちが通う小中学校の他の児童生徒に対するものも含め、すべての教育活動の差し止めを求めているものと認められる」

「他の子どもたちの意向を尋ねることなく、一律に教育活動を差し止めなければならないほど、生命身体に対する具体的に切迫した危険性があるとは認められない」

「差し止めが被曝回避の唯一の手段ではなく、区域外通学などの代替手段もある」

と説明。

「毎時0.2μSV以上の地点での学校における教育活動の実施差し止めについては、疎明(裁判官に対して、確からしいという心証を生じさせること)が十分でないから理由がない」

「毎時0.2μSV未満の地点での教育活動実施を求める申し立ても、表裏の関係にあり理由がない」

と結論付け、申し立てを却下している。

関係者が注目したのが、地裁が訴えた14人以外の子どもたちの権利にまで言及した点。

弁護団の一人・安藤弁護士は「『裁判官の独り相撲判決』だ。私たちは他の子どもたちの疎開にまでは今回は主張していない。清水裁判長は何と向き合っているのか、どこを向いているのか」と批判。

柳原弁護士も「この間、あれほど誤解を受けないように念を押したのに、裁判所は私たちの訴えを『郡山市のすべての子どもたちを避難させること』であると論旨をすり替えた。他の子どもたちの選択権を奪う、と。これは民事裁判における冤罪裁判であり重大な誤判決。刑事裁判なら、Aを裁こうとしているのに判決文を読んだらBに対する判決だったというようなものだ」と強い口調で指摘した。
民の声新聞-郡山デモ10/15
山本太郎さんも裁判を支援している1人。

郡山デモでは先頭に立って「清水裁判長にエールを送ろう」

と集団疎開実現を訴えた

=10/15、福島県郡山市


【裁判官に人としての心はあるのか】

報告会では、意見書を提出するなど裁判を支援してきた矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授も電話で参加。「非常に腹立たしい判決。国や東電は自らの賠償責任を小さくするために年間被曝限度量を20mSVに引き上げたが、われわれの身体は、原発事故が起きたからといって20倍強くなるわけではない。被曝回避は主権者の権利。主権在民。政府は年1mSVという国民との約束を守るべきであり、今回の不当な判決を乗り越えて今後も闘っていきたい」と憤りを前面に押し出した。

「ハイロアクション福島」のメンバーとして裁判を支援、東京での活動にも積極的に参加している武藤類子さんは「論点をはぐらかされ、本当に残念。司法が市民のために機能しなくなったという危機感を抱いた。子どもたちの安全をどのように確保すればいいのか。春は必ず来ると信じたい」。黒田節子さんも「人を動かすのは人だろうという想いでデモ行進などを続けてきたが、裁判官の心には届かなかった。裁判官に人としての心はあるのかとさえ、思いたくもなる。しかし、落胆ばかりもしていられない。母親たちは頑張っているのだから」とさらなる闘いに向けて自らを鼓舞した。


判決文は言う。

「児童生徒は特定の地点に24時間静止しているわけではない」

「この申し立てによって、事故発生以来の被曝までは防止できない」

「4/19付文科省通知で年間20mSVが暫定的な目安とされており、年間1mSVを超える被曝量が見込まれても、直ちに生命身体に対する切迫した危険性が発生するとまでは認めることはできない」…

まさに人の心を欠いた司法。清水裁判長に子どもはないのか。高裁は揚げ足取りのような判決文は出さないよう願いたい。

(了)



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http://fukusima-sokai.blogspot.com/