今年の新入社員がまた一人、退職をするそうだ。

その情報は、うちの店に配属されてきた、新入社員の女の子から聞いたのだけど。

 

その同期は、大学を卒業して、専門学校に入り直して、そして就職をしてきたという

頑張り屋なのだそうだ(当然現役で専門卒業したその子よりは、かなり年上)。

 

しかし今年いっぱいで突然、退職をするという。

なぜなのか?そんなにやりがいのない職場だったのか?

普通ならそう思う。そしてこんなことをつぶやく。

 

 

「根性ないな」

 

 

そうやって片付けたほうがいい問題も世の中にはたくさんある。でも今回の件は

なんか違うだろうなぁというのを感じていた。

その子から聞く限りでは、チャラチャラしたような男ではないし、

むしろ、真面目、という言葉がぴったりのイメージなのだ。

 

そんな「いいやつ」が一年も経たずに仕事をやめたりするのか?

しかも大学出て、専門出て、という苦労を乗り越えた末の就職だったにもかかわらず。

 

会社の組織図を見てみた。

店と上司の名前を見てピンと来た。

 

あーきっとこの子は相当悔しい思いを抱えたまんま、辞めていくんだろうなぁということを。

そして顔も知らない、その子を思い、ものすごく悲しい気持ちに包まれてしまった。

 

そこは、店長を含め、とてもじゃないが、行きたいと手をあげる人がいるような店ではなかった。

まず、店長は「鬼畜」で知られる人。自分のいうことを聞く人。都合の良い人は評価して、

嫌いな部下は徹底的に評価を下げるような人間だと聞く。

 

しかも相当偉い等級の人間なので、誰も文句をいうような人はいない。

さらに、直属の上司が最強の「モーレツ人間」ときていた。

 

この人も「長く会社にいることが良いこと」をそのまんま生きている人で、

売り上げは取るが、同僚や、部下には絶対になりたくないと「評判」の人なのだ。

 

自分の気に入らないことがあったり、いうことを聞かない人間に対しては徹底的に攻撃をして

相手を弱らせたいタイプの人間で、普通の会社ではまず、コンプライアンスに引っかかるような

「指導」を何回もしてきている。

 

かくいう私は、この上司と一緒に働いたことがある。

今では残業も厳しくなって、サービス残業なんてもってのほか!という空気感があるが、

わずか数年前までは、私の所属している会社は「ツヤのあるブラック」と言っていいほどの状況だった。

 

一応シフトはあるのだが、上司が朝から晩までいるので、関係なし。早番なら朝来てカードを切って

夕方になったら、何事もなかったかのようにまたカードを切って働き続ける。

 

自分の仕事は終わっているのに、上司が帰らなく、怒りをそこらじゅうにぶちまけているので、

帰ろうにも帰れない。そうやってサービス残業が常態化していき、ついには深夜の2時まで働いても、

一円も出ない事態になった。

 

しかし上司は常々こう言った

「お前らがしっかり仕事しねえからこんなに遅くなるんだ。俺は家で家族が心配してるんだ。おまえのせいでこんなに働くことになってな」

 

最初は悔しかったが、3ヶ月くらいしたころからどうでもよくなってきた。

何をしてもダメだしばかり。サービス残業。休みの日も「あれやってねえじゃねえか!」と怒りの電話が

鳴り続ける。

半年もした頃にはうつ状態になってしまった。

 

今考えると、あのときにやめておけばよかったな、とつくづく思う。

ようやく上司が転勤して平和が訪れると、会社から「未払いの残業代払います」という通達が来て

自分はありったけの恨みを込めて正直に申請した。まぁ結果は自分のいた店の社員には、数ヶ月後に驚くほどの金額が

振り込まれたのはいうまでもないが。。。

 

矛盾してるが、「やっぱりやめないでよかったな」と少し泣いたのを覚えている。

 

つらい思い出があるから、次頑張れるという精神論も世の中にはあると思う。

昔の人はそうやって自分の人生を切り開いてきた、という自負があることだろう。

 

しかし今の時代はどうだ?

有効求人倍率は好調な数字をたたき出している。

街中のどこにでも「スタッフ募集」という張り紙が貼られ、

軒並み、時給の高騰が避けられない状況だ。

 

つまり、仕事先なんて「いくらでもある」のが今の時代。

辛い思いをしてまで、今の会社に残る意味が見出せないのだ。

 

結果的には今回退職する子もそうなのだと思う。

いろんな人に相談して「そんな辛い思いを続けてまでいる意味あるのか?」となるのは

自然の流れ。

 

今回の件で、全く上司や、店長の話は出て来ない。

うっすら「仕事が厳しくて」というのを耳にしたが、だいぶ控えめに言っているのだろうな

という印象を受けた。

 

新卒で入った会社をわずか数ヶ月で「辞めなくてはならない」という矛盾に

会社が気付いているのだろうか?と心配になる。

 

曰く付きの上司のもと、新卒の社員が一年を待たずして辞めていくのだぞ?

また、穴が空いたから誰か放り込めば良いというのとは違うんだぞ?

 

きっとサービス残業が厳しく言われるようになった今でも、それを余儀なくされていたのだろう。

上司がこともなげに、カードを切ってるのに会社にい続け、部下が帰れなくてストレスになる。

 

こんな会社がこの先も存続していけるのだろうか?

また、同じような境遇の人間を何人も出して、組織が衰退していくだけではないのか?

 

一体会社は何のためにあるんだ?

社会をもっと良くするためにあるんじゃないのか?

 

大切な人材を勝手に淘汰してなにがしたいんだ?

 

話は戻るが、それとなく、後輩に「その子は何か言ってた?」と聞いてみた。

ものすごく不思議そうな(または不審そうな)顔をして「何も仕事のことがわからないのに、めっちゃ怖い上司にプレッシャーをかけられてノイローゼになってしまった。誰もなにも教えてくれないのに」だそうだ。

 

結局、組織の中で割を食うのは権力がない若い人材になる。

でもその若い人材を育てることができないと、あるとき、突然会社を支える人間がいなくなり、組織は崩壊する。

 

今の会社はそれを理解していない。

たまに「コンプライアンス」とか引っかかりの良い案内を出して

世の中にアピールしようとしているだけなのが見え見え。

実際に中身を見ると「いつの時代の話だよ」と思いたくなるようなものもある。

表面は社会に適合した優等生な組織を演じているが、実際は昔の「根性論」で生きて来た人たちが偉く、

どんなに組織が変わろうとしても、その面がチラチラ顔を出して、なにもなかったことにしようとしている。

 

どこぞの相撲界と似てるな。

 

部下に高圧的な態度をとる人間のパターンは大体決まっている。

 

①自分はスキルがあるから相手も同じようにできると思っている。

→「なんでできねんだ!」という。

②部下が仕事ができないのは、部下が無能だからだと本気で思っている。

→「お前ほんと使えねーな」という。

③仕事が終わらないなら「残ってやればいい」と単純に考えている

→無言の圧力によるサービス残業が常態化する。

④死ぬほど罵声を浴びせた後に「お前は俺から何を学んだんだ」という。

→自分から部下が学ぶことがたくさんある素晴らしい人間だと本気で思っている。

 

腐ってますよね。

 

その単なる被害者にすぎないわけです。今回の退職の件は。

今、私はその上司とは違う店にいるわけですが、全く根性論では仕事をしていませんが、

定時で帰れています。売り上げも落としませんし、評価も落ちません。

 

他人の人生だろうがなんだろうが、関係ありません。

一人の人間が悩んで、誰も救ってあげられない。

その結果仕事を辞めなくてはならないという事実に、ハッピーエンドはありえないのです。