ナポレオンの思い出 | 大塚角満オフィシャルブログ「大塚角満のブログ」Powered by Ameba

ナポレオンの思い出

 俺が本格的にトランプが好きになったきっかけは、中学時代の部活の顧問が教えてくれた“ナポレオン”というゲームにある。中二、中三のときの担任でもあるその先生に、確か部の合宿だか遠征のときの休憩時間に教えてもらったのだ。

「おいオマエら、ちょっと集まれ」

 “壮絶”って単語くらいじゃまったく足らない地獄の特訓(ハンドボールのね)が終わったあと、いきなり顧問のS先生が部室(もしくは宿泊先の宿の部屋)に現れた。その声を聞き、居合わせた数人の仲間はすぐさま直立不動の姿勢になって「はいっ!!!」と言い、S先生の前にピシッと整列する。先輩は“鬼”顧問は“閻魔”OBは“神”と位置づけられていた超体育会系のタテ社会において、閻魔の言うことは“絶対”以外のナニモノでもなかったのだ。ビンタやうさぎ跳びなんて日常茶飯事の時代のこと。統率を乱せば連帯責任ってことで何キロも走らされたりしたので、一糸乱れぬ行動は俺たちの部では必要最低限の約束事だったのである。

 そんな、生真面目に並ぶ教え子たちを見てS先生は可笑しそうに笑ったあと、「まあ座れや」と言って車座に座ることを促した。その場にいた仲間は、俺を含めて4人。全員の頭の上から(な、なにさせられるんだんべ……)と群馬弁の吹き出しが出ていたことをいまでもよく覚えている。

(きっとロクなことにならねえぞ……)

 ニヤニヤしながら生徒の顔を見渡すS先生の表情を見て、このとき4人は間違いなくそう思っていたはずだ。

 しかしふいに、S先生は表情を緩めて俺に目線を止めた。そして、

「おーちゃん、トランプって好きか?

 と質問してきたのである。“おーちゃん”と言うのは、群馬時代の同級生たちがいまも使う俺のニックネームだ。これに影響されて、全校生徒に恐れられていたS先生も俺のことは「おーちゃん」と呼んでいたのである。

 いきなり質問されて、あたふたと戸惑う俺。しかしハキハキと、そしてしっかりと答えないことにはどんな目に遭わされるかわかったものではないので(苦笑)、俺は正直にこう応えた。

「は、はい、好きです! よく昼休みにこいつらと大富豪をやってます!」

 それを聞いたS先生、笑いながらこう言った。

「そっかw でも学校にトランプ持ってくんの、禁止だんべよww」

 あのときの“しまった感”はいまでも忘れられない。

 しかしS先生は俺の失言にそれ以上かまうことなく、今度は生徒4人に向かってこんなことを聞いてきた。

「“ナポレオン”ってゲーム、知ってるか?」

 と。

 じつは俺は、ナポレオンというゲームが存在すること自体は知っていた。でも、名前からして「難しそう……」という先入観が先に立ち、ルールを覚えようとは1ミリたりとも思わなかったのである。俺以外の3人も同じようなものらしく、しきりに首をかしげたりしていた。そんな、戸惑う生徒の反応に満足したように、S先生は思いがけないことを言ったのだ。

「ナポレオン、すげえおもしろいんだわ。いまから教えてやるから、いっしょにやろうぜ

 これが、いまの俺が抱く「トリックテイキング(ナポレオンなどが分類されるカードゲームのカテゴリー)大好き!」という思いにつながっている根っ子の部分のお話である。

 ナポレオンのルールについては、またつぎの機会に。