先日フランス語試験であるDALF C1を受けてきた。TCFでのC1はすでに持っていたが、それは有効期限が2年。なので、有効期限なしのDALFを受けておく必要があった(今後のため)。

本当のこというと、フランス留学する前にC1を取っているのが当然であるので、大きな声ではC1受けた!なんて言えないのだけれども、実際にはC1を持っていない状態でこちらの博士課程に登録する人は多い。すると、あまりの出来なさに嫌になって研究どころではなくなることが多い(僕もその一人だった)。

フランスでDALFを受けると、日本で受けるよりも採点が厳しいという噂をよく聞くが、その辺の真相はどうなのだろうか。

まずは、受験直後のメモから。

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DALF C1 受験記録

Production orale
お題を二つ渡されて好きな方を選ぶ。
「幼児期にタブレット端末に触れさせることの危険性」「携帯電話の電磁波が子供の脳に及ぼす危険性」という二つのドキュメントからなるテーマを選択。
もう一つはおそらく動物愛護に関するものだった(タイトルしか読んでいない)。

60分かけて、メモ用紙5枚ほどに書きなぐる。それを持って口頭試験へ。
10分弱、自分の議論を展開し、その後20分弱2人の面接官からの質問をしのぐ。
タブレット端末を幼少期から使用することで、知識獲得への渇望が簡単に満たされてしまい、能動的な学習を始める妨げになるといったニュアンスのことを、三つほどの論点をあげて展開。もっとも、質疑応答では、教育現場で使用され始めてタブレットは、教育にも有益ではないかといった、意図していなかった反論を返されてしまい、やや難儀。消費の道具としてのタブレット端末を生産者側に回りうるノートパソコンと比較することで、無理やり乗り切る。


二日目
Compréhension orale
一つ目の長い方は、La mémoire individuelle, la mémoire partagée そしてla mémoire collectiveの三つの記憶について。個人の記憶は実際には彼を取り巻く人たちの記憶に影響を受け、変化しているというLa mémoire partagéと、学校教育やメディアによって構築される社会的記憶であるla mémoire collectiveとの区別など。内容自体は非常に分かりやすかったが、2問ほど音声から該当する答えを拾えず。

二つ目の短い方。
一つ目は、列に並んでいる時(レジ、渋滞)、人はなぜ「間違った選択をしてしまった」と思う傾向があるのかについて。非常に簡単。
二つ目は、「幸せになる方法」について。イギリスのある研究者による「幸せは社会的環境に依存する」という偏見を助長する本を、批判するインタビューなので、引っ掛け問題ではあるが、まあ平易。最後に一問だけ、記述あり。

Compréhension écrite
壁面アート(あの落書きみたいなやつ)の盗難という、作家に権利があるのか微妙な問題についての文章。真ですか偽ですか、の設問は非常に簡単(三つほどあった)。「・・・の理由を文中から二つ抜き出せ」的な問題も、正解に迷うところはない。

Production écrite
二つの文章、「中学生への(家での)宿題を無くすべきという主張。宿題に変わる三つの提案」と「宿題がいかに社会的差異を拡大するか」について。まず「まとめ」を書く必要がある(220-240字)。
 「第一のドキュメントでは・・・」「第二のドキュメントでは・・・」というふうな書き方は望ましくない。そこで

宿題の問題点。
(1)親が子供を手助けできないことが多い。
(2)家庭環境、親の学歴、親の生活リズムによって夜の学習の質に差が出る。(3)裕福な家庭では家庭教師など個別授業に頼ることで子供をサポートでき、社会格差が拡大する。
とまとめた上で、それに対する三つの団体の提案(学生ボランティアが学校の教室で宿題を手伝うという提案、PTA団体は一方は賛成、一方は生徒の自主性が育たないと反対)をまとめた。

ここでは、自分の主観や文中にない情報を書くことは厳禁。

その次に、作文。「あなたは保護者会の新聞で宿題に関する記事を書くことになりました。あなたは授業後の学習に関しては肯定的ですが、社会格差の是正のためになんらかの対策を取る必要があると考えています。あなた自身の新たな視点を導入し論理的に・・・」という設定のもとに250字以上で作文。
 ここで引っかかりそうになるが、これは「家庭での宿題」ではなく「授業後の宿題」に肯定的だということ。どうやら、一つ目のドキュメントで立てられた「家庭での宿題の代替案」をベースとして、自分なりの代替案を出せということのようだ。現状分析と既存の代替案批判に字数を割きすぎ、字数をオーバー(320字)したことで、自分なりの新たな視点のところが結論部で簡単に触れるだけになってしまったことが残念だ。250字以上で、上限の設定はなかったので、もっと書いてもよかったのかもしれないが。

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というのが直後の感想だった。そして今朝、結果が分かった。

CO 19/25
CE 20/25
PE 21/25
PO 23/25

合計 83/100
で合格点50点を大きく上回り無事合格することができた。自分が一番驚いた。
リスニングは、2問ほど答えを拾えなかった設問があったので、そこだろう。
CEは、易しく感じたのでこんなもんだろうか。
PEとPO、特にPOで23点も取れたことには驚きしかない。最初の10分間の独演はまあそこそこうまくいったとして、後半の質疑応答でかなり詰まっていたし、ひどい文法の間違いも犯していたから自信なかったのだが、なぜか高得点をくれた。

 これで分かったことは、DALFはフランス語能力の試験ではなく、フランス語で書かれた論理的文章を理解し、フランス語で論理的な文章を構築する能力を問う試験だということ。特にPEで日本人がやるミスというのは、おそらく250字という字数を気にして、何はともあれ書き始めること、だろう。これが一番ダメだ。前回(2年前は余裕で落ちた)受けたときは、フランス的文章というものを全く理解していなかった。

そこで、僕が今思う傾向と対策をまとめておこう。


リスニング対策
不要。したければ、France info junior(5分間くらいで、12歳くらいの子供達が、色々な専門家に質問する番組)をポッドキャストで一年分聞くくらいがいいと思う。

CE対策
これが一番わからない。あまり対策するものでもないか。

PE対策
一番大事、なのだけど、書く練習を闇雲にすべきという意味ではない。というか僕は、ほとんどしなかった(めんどくさくて)。この項目は前半のサンテーズ(要約)と、後半の作文から成っている。で、後半の作文は前半をしっかり書けていれば自ずと書くべきことが見えてくるから大丈夫。
 だから、一番大事なのは、二つの論争的なドキュメント(同じようなテーマを、ちょっと違う視点から扱っている)を、一つの要約(200-240字)にまとめる練習。そして、ここで課されるテーマは、実はかなり限定されている。一番人気なのは「環境保護と途上国の経済活動のジレンマ」、「フェアトレードと新たな植民地主義」などのように、一見すると「いいこと」を推し進める団体がいて、しかし違う立場からみるとその活動は別の何かを侵害しているというようなテーマだ。「クジラ、バイソンなどの野生生物保護と、地域文化の尊重」なども皆同じような、なんらかのジレンマに行き当たる。つまり、この要約で問うのは、二つの別の立場からのドキュメントが、いかなるジレンマを明るみに出しているのか、ということである。
 今回は宿題の功罪、というよりもいかにして宿題を無くすかというテーマだったが、このような教育ものも大人気テーマだ。(例えばフランスにおける制服採用の流れ、など。一見すると懐古趣味に見えるが、実はそれはフランスの伝統とは無関係でアングロサクソン的な学校におけるスポーツ文化からの影響だ、云々のように)近年ではSNSの子供達というテーマなどは絶対に対策しておかないといけないテーマだろう。
 「要約」に関して、より実際的な面で言えば、「絶対に主観や文中にない要素を入れない」「文中の表現を短く、簡潔に言い換える練習をする(コピペはダメだし、そもそも長すぎる)」「文をダラダラ並べず、徹底的に論理的に構築する」とかいうことを意識すればいいのだと思った。

PO対策
これは、PEとほとんど同じ。PEの後半の作文にも共通することだが、だらだらと書き始めてもフランス式作文ではいい点数は取れないらしい。だから重要なことは、テーマをはっきりさせたら、図式的に「イントロではこの話して、テーズではこう、アンチテーズはこれ、そして結論」という大枠を立てて、次にそれぞれの中で、「まず、次に、さらに、最後に」のような議論の筋書きをはっきりさせる文言をこれでもかと組み込みながら、図としてメモを作ること。
 「メモを読み上げるだけじゃ点数もらえないよ」ということも聞くのだけれども、僕の場合は5ページほどメモを作って、半分くらいはそこに目を落としながら喋っていたから、重要な一文などはしっかりと組み立てておいていいと思う。こちらが難しいことを話すと試験官も一生懸命メモし出すから、こっちを見る暇がない。
 
ここまでが対策だったが、正直DALFのために勉強したのは十日間ほどだけで、それまでの日常的な習慣の影響の方がはるかに大事だったとは思う。

役に立ったと思うこと。
1、フランス語多読
これは本当に大事。去年は村上春樹とハリーポッターをフランス語で読んで、そのあとで、「Kindleアンリミテッド」で読めるフランス語のFiche de lecture(30ページくらいの解説書)を数百冊読み漁った。単語力と十分なスピードでの読解力がなければDALFは小手先では厳しいと思った。

2、パリ市のフランス語授業
これは週2回、2時間、3ヶ月で140ユーロくらいとお手頃価格。でも抽選がある(でも抽選ではなく、motivationの短い作文を読んで決めているとの噂も)。僕はなぜかB1.2とB2.2のクラスに通っていたけど、C1対策として非常に役に立つ。というのは、フランスでよく討論の話題になるものを積極的に授業中に話題にするので、POの出題テーマは僕にとってはすでに授業で討論したことがある内容(というかむしろテストの前日にその話題になった)だったからだ。

3、フランス語ラジオ
日本にいる場合、その種の情報格差は否めない、だからこそFrance info juniorを聞くべきだと思う。あれを聞いていれば、今問題になっていることを言葉の定義から教えてくれるから勉強になる。ちなみによく言われるRadio france internationalのJournal en français facileは、似たようなテーマばかりになるし、そもそも質疑応答ではなく喋りっぱなしだから、リスニング対策としてはあまり使えないと思う。つまり、一番大切なのはインタビュー形式になれること。リスニングの時間に近く(5分)、ありとあらゆるテーマを12歳にも分かるように噛み砕いて説明するFrance info juniorは最強のリスニング対策だと思う。

とりあえずこんなところで。DALFの試験は、日本語での情報があまりに少なくて、東京以外の学生はその情報格差に苦しんでいる印象がある。それでいて、DALFの問題集って一気にやる気を無くさせる構成をしている、あれやらなくてもいいと思う。



フランス語の文法は、これが一番楽しい。パリ市の授業も、大概この教科書からコピーした問題をプリントで渡している。こっちの方がやる気になる。