妊娠初期の出血に関して、未だに止血剤や黄体ホルモン剤を処方する産婦人科医がいる。
確かに過去何十年の歴史で、流産予防や胎児死亡の予防に主種のホルモン剤が有効であるかもしれないという仮説の元に投与されてきたのは事実であるが、もはや、いくつかの無作為抽出試験においても効果は否定されているし、
黄体ホルモン剤の胎児への影響さえ報告されているのである。

また、初期の出血の妊婦に対して、安静や入院を無理強いする産婦人科医もいる。初期の流産の原因の70%以上は、胎児の染色体異常であるから、そのような胎児に安静が果たして効果があるのかは、甚だ疑問である。
安静の効果に関する研究は40年ぐらい前にされたものが有名であるが、結果は
効果は認めなかったというものである。
しかし、常識で考えて、安静が子宮内の胎児や母体の子宮収縮に少なくとも
悪影響は無いはずである。どのような状態の妊婦に安静が効果あるのかは、今もって根拠はなく、我々は一方的に妊婦に入院安静や自宅安静を指示するのではなく、今の妊婦の生活状況と妊婦自身の好みを考慮に入れて、選択肢を提示してあげなくてはならないと思う。
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経膣分娩と尿失禁

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近年、ずいぶん話題になっている。日本でも同様である。

昔は、女性はこの症状があってもあまり訴えなかったらしいが、寿命の延長と、QOLの重要性の高まりと共に大きなテーマとなった。

簡単に言うと、尿失禁、便失禁は分娩後、1-3ヶ月はよくあり、その後改善か消失することが多いが、消えない人もいて将来に渡ってこれに悩むことになる。帝王切開後の人には、これがほとんど無いのである。


今、欧米では、婦人科の中でも骨盤底臓器の専門医(子宮脱、尿失禁専門)が脚光をあびているが、日本は確実に米国の10年あとを追っているので、今後、注目されるに違いない。

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明確な証拠により、無効または有害であるとわかったケアで、未だによく行われている慣習について、また、考えてみた。

陣痛、または破水入院のほとんどの妊婦さんに、私自身、大学病院時代や勤務医時代は気軽に浣腸のオーダーをナースに出していたものだが、現在ではルーチンに全例でやるような処置ではないとされている。
施設によっては、肛門に座薬を入れ便をそくす事によって、陣痛を規則的にしかつ、分娩時に便まみれにならないようにと、一石二鳥を期待してのものであった。おまけに、会陰部の剃毛の処置まで全例にやっていたのである。

これは、日本のみならず、世界的に行われていたらしいが、今や過去の事実となりつつある。
しかし、印象では、ルーチンでやっている施設は、まだ多いのではないか。
やってはいけないというものではなく、効果がない。そして、羞恥心などもあり、そういう意味で全員にやるには有害なケアという意味であろう。

帰省分娩再考

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今日は外来がお休みでうれしいな。暇なのでちょっと考えてみた。

帰省分娩って、今住んでいる地域で妊婦が健診を受けていて、後期に実家に帰省してその地域の産婦人科に移って健診を受けまた、そこで出産することだ。

妊婦にとっては、いい点は、母親がいて知り合いも多く何とも心強い。そして、特に初産の場合、いろいろ上げ膳据え膳チヤホヤ状態になることもできる。
悪い点は、依存心ができてしまうこと。そして、実母のかなり偏った実技指導や経験に基づいた考えが妊婦に染み付いてしまうことだ。これは一見いい面もあるが、弊害の方が多いと思っている。例えば、母乳の確立には、実母の「足りないから、ミルクをどんどん足しなさい」というアドバイスは、不利に働くことがある。
また、産院が変わることは、管理方針もかわる事が多く、すこし戸惑うこともあるかもしれない。従来の産婦人科から、私のところに帰省すると、皆一瞬戸惑うことは間違いない。あと、最も大切なことは情報がうまく伝わらない、病状把握に時間がかかることであろう。帰省するなら、早目が安全である。


では、産院側にとって、帰省分娩はどうだろう。
健診のみで、後日他院に行ってしまう妊婦に、従来の産婦人科はあっさりした対応をするらしい。中には、冷たい対応をする所もあるという。
私にすれば、これは間違っているとしか言いようが無い。バカな医者である
。なぜなら、ご存知のように、患者は実家で出産後、また、その地域に帰ってきてそこに住むのであるから、お母さん方の噂や評判話で「あそこは冷たい。」となってしまうのだ。
でも、気持ちはわからなくもない。帰省で、他院へ移る方に十分な時間をさくより、自院で出産してくれる妊婦さんによくしてあげたいというのは当然と言えば当然である。
患者さん側に立って考えれば、健診料を払っているのだから一緒だろうというのが言い分だ。しかし、この健診料は、ある意味分娩費用あってこその低く抑えた料金かもしれない。通院中になにかあった時でも24時間対応するというのが、かかりつけの産婦人科の役割とすれば、健診のみの妊婦さんは、その権利を受けるデポジットを支払っていないことになるのかもしれない

しかし、帰省はすぐれたシステムなので、うまく利用すればいいと思う。心無い産婦人科医の対応にやっぱりと思うかもしれないが、そのあたりの事情を少しでも理解して通院していれば傷つくことも少ないのではないだろうか。
予定日前後でよくある訴えである。気持ちはわかるが、分娩誘発をするのには
まず、初産か経産婦か、そして、子宮口の成熟度(Bishop Score)を考慮しなければいけない。

子宮口がまだ未熟であれば、むやみな誘発分娩は、帝王切開率を上昇させる。

いくつかのしっかりした研究で、巨大児の誘発分娩は、そのまま自然に陣痛や破水を待った分娩に比べ、母児になんのメリットもない事が証明されている。

また、「よく動けば、はやく生まれますよね。」とか、「床磨きをすれば、安産になりますか?」という質問も多いが、そんな事実は全くないのである

だいたい、それが事実ならば、世界中でそれが実行されているはずであるし、
そういう研究が行われているはずなのである。
いわば、長年の生活の知恵や言い伝えは、一概に否定はしないが、むやみに信じるのも考えものである。
最近のお母さんたちは、我が子が待合室で騒いでいてもきつく叱らないのだろうか?私は、子供に騒ぐなと言っているわけではない。騒ぐ暴れる子に「こういう場ではおとなしく待つのだ。」と教えるのが親であると言いたいのだ。

この前などは、トイレのドアに5-6回体当たりしていた4-5歳の男の子が野放しされていた。とても、うるさくて壊れそうな音さえ聞こえてきたので、職員に注意するように促したが、
「ボク~。やめようね~」程度で、またしばらくすると再び始まった。母親の声は聞こえてこない。
私は注意するのがいやだったのだが、他の若い職員が尻込みするので、仕方なく院長自ら
「お母さんはどなた?こういうときはお子さんに注意しないとダメですよ。」
と、余計なお世話なことを言ってしまった。
なんと、そのお母さんは
「ほら、タケちゃーん。ママが叱られちゃったじゃない~」
その子供にして、この親ありか!
あー、学校の先生の気持ちが少しわかった気がした。

今回は、子供に関することなので、まあ良しとしたが、そのうち、診療上でのやり取りで人間的に問題ありと私が判断したら、当院での分娩をご遠慮いただくよう、うまい手立てを考えなくてはならない。

こんな親の分娩の面倒を見て、自分の人生をリスクに晒すことは、いくら優しい私でも許しがたいのである
お産は病気ではない。医者には、病人を拒否する権利は無い。しかし、お産は
急に異常をきたすことが珍しくは無い生理的な人生のイベントである。
信頼関係が双方に育まれなければ、患者はその医者から去るし、逆に医者も
患者を受け入れないことも正当化されよう
カロリー摂取の制限によって妊娠中毒症の予防をしようという試みは、なんの証拠も根拠もないにもかかわらず、未だに妊婦のケアとして指導している施設がある。これは、信頼できるテキストブック(Williams Obstetrics や A Guide to Effedctive Care in Pregnancy& Childbirthが有名)にも、もちろん紹介されている。面白いことに、有害なケアとして紹介されているのである。
塩分制限も中毒症予防に効果は全く証明されていない。

これは、日本においては慣習的であるが、一部の人たちはこれが間違った考えであることに気づき始めている。自分の妊娠前のBMI(Body Mass Index)を計算してみよう。(体重)を(身長)の2乗で割ってみる。単位は、kgと(m)2である。19-24は標準的であり、このくらいの人は、日本人でも妊娠中の体重増加は、9-12kgぐらいは増えるべきである。一方で、BMIが30以上の顕著な肥満の方は、5kg以下が望ましい。

よくマタニティ雑誌に書いてある7-8kg以内というのは、科学的にみて無理があるし、胎児の発育、発達には不足である。だいたい、循環血漿量、胎盤、羊水、子宮筋、乳房発達、どうしても必要な皮下脂肪の貯蔵だけでもう6-7kgになってしまう。その上で胎児の体重があるのだ。

よって、現代の妊婦さんは、戦後直後の食糧難の時代の妊婦のような体重増加では不足だと言うことを、正しく指導されなければならない