赤瀬川原平の目 | ねこギター

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 その日暮らし

もしもこの世から本がなくなったら
空でも眺めていよう
猫の頭でも撫でていよう

赤瀬川原平の<路上観察>を初めて目にしたのは、南伸坊の『モンガイカンの美術館』('83年刊)だ。マルセル・デュシャンの有名な便器をひっくり返しただけのレディメイド(既製品)作品「泉」を話題にした文脈からだった。

そこで赤瀬川撮影による蔵の入り口を塗り込めて用(意味)を剥奪された「無用門」(純粋門)の発見は、<超芸術>という仮称で紹介された。その後に末井昭編集の雑誌『写真時代』で路上観察学会メンバーによる<超芸術トマソン>として連載発表された。

見ること、意識を変えることで、この世界の意味が剥げ落ちてしまう/変わってしまうことの面白さ、不思議さを味わうことが出来る。それは、実は世界の無意味性の淵と向き合うことでもあるし、またそれを笑いで楽天的に捉え直すことでもある。面白主義の最大の成果といえるんじゃないかと思う。


赤瀬川原平の名前を知ったのは、1970年代の雑誌『ガロ』や『終末にて』の漫画作品だった。絵は、今の鉛筆のへたうま調と違って、つげ義春と林静一を合わせて2で割ったような、それでいて神経の張り詰めた鋭い線が危険な雰囲気を放っていた。

今は、何だか穏やかなおじさんぽいのだけれど、あの目はやはり怖いのだ。誰かに似てるなと思ったら思い出した。腫れぼったい瞼で半眼になったような目の吉本隆明だった。二人ともその想像力で対象をまるでバラバラに分解するように見尽くすのだ。


●写真左: 『超芸術 トマソン』 赤瀬川原平 (1989年 ちくま文庫 筑摩書房・刊)

●写真右: 『モンガイカンの美術館』 南伸坊 (1983年 情報センター出版局・刊)


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