ドラマも話題も季節と共に落ち着ついた頃合いですかね。
今日はあまり眠くないので秋の夜長を使って書いてみようと思った次第です。

一本の電話です。
「実家を撮ってくれないか」と。
小学生からの付き合いの数少ない僕の親友からでした。


親友曰く、どうやら近日実家を取り壊し、2世帯の家を建てるということで、今の実家を写真に残してあげたいと。

まだまだしみじみと昔話をする歳ではないのだけれど、僕が小学生時、毎日のように遊びに行った親友の家。そこでは、いろんな遊びを教えてもらったし、笑ったし、怒られたし、泣かせたし、泣かせられたそんなごく普通の友達の実家。


20年ぶりでしょうか。
懐かしさを押し殺して玄関の前でチャイムをならします。外は涼しい秋雨です。
上がると撮影というのに家の中は日常がごっそり置きっぱなしでした。建築写真の仕事で、最近新築のきれいな家ばかりを見過ぎているせいか、どう撮るか少しうろたえます。

外観、庭、玄関、居間と、30枚くらいシャッターを切ったころです。ようやく気づかされたんです。
親友が仕事を始めてから10年近く親父さんとおふくろさんはここで二人きりで暮らしているのにも関わらず、物が多すぎやしないか。いや違う!変わってないんだ。

しまい忘れの扇風機にしろ、
親友が子供の頃買ってきたどうしようもないおみやげ、走りまくって作った廊下の傷、居間の畳に無造作に置かれている物のひとつひとつが僕が知っている親友の家そのまま。


昔が捨てられていなかった。

残されていたんです。昔が。
残してくれていたんです。昔を。


「綺麗にしてなくてごめんね酒井くん、中は撮らなくて大丈夫だから」
「いや、中も撮らせてくれませんか」


懐かしいと言いながら一枚一枚撮りたかったけどそんな言葉は軽すぎる。
どういう想いで家を建て、どんな想いで思いを残して来たか。
息子家族と一緒に暮らせるのは幸せに違いないがこの家は無くなる。
大半の物もおそらく処分だろう。
目を閉じて過去を懐かしむのは簡単だが、目を開けて未来を想像するのは容易ではない。


5,6枚、写真にしてくれればいいからと頼まれていたが、だけど、これから続くずっとその先を思えばそれだけじゃ足りないよ。
だから一冊のアルバムにして
来年の新築祝いにプレゼントしようと思う。
感謝の意を込めて。