3月5日
病室の窓から小学校を見ていました。朝食を食べ終えしばらくすると、登校していく児童の姿が見え始めます。はじめは、ぽつぽつと、だんだんと、大勢になり、歩きながら一塊になったり、ばらばらになったりしながら、校門へ入っていくのでした。
「失礼します。お熱と血圧測りますね。」そう言いながら看護師がカーテンをあけて入ってきます。わたしは点滴をしていないほうの腕を差し出します。反対側のわきでは体温計をはさみます。音が鳴ったら体温計を引き抜き数字を看護師に伝えます。
「6ど6ぶです。」
「ありがとうございます。血圧は108の68ですね。」
血圧計のマジックテープをはがし、腕からそれをはずすと、看護師は出て行きます。
「もう少しで点滴終わりますね。また見に来ます。」
「終わったので点滴変えますね。」
「また見に来ます。」
「少し早めますね。」
「また来ますね。」
昼食を食べ終わり少しすると、児童が大勢校庭へ出てきます。鬼ごっこをしたりサッカーをしたり縄跳びをしている子供たちの姿が見えました。
「失礼します。お熱と血圧測りますね。」カーテンをあけて看護師が入ってきます。点滴をしているほうのわきに体温計をはさみ、反対側の腕を差し出します。
「6ど9ぶです。」
「はい。ありがとうございます。血圧も正常ですね。」
マジックテープをはがす音がして、腕が楽になりました。わたしは服の袖を手首のところへ戻しました。
「また来ますね。」看護師が言いました。
「少し早めますね。」
「体調はいかがですか。」
「大丈夫です。」わたしは言いました。
「もう少しですね。」
「交換しちゃいましょうね。」
夕方、ぽつりぽつりと児童たちが校舎から出てきます。登校のときと同様黄色い帽子をかぶっています。校門を出るまえに手を振って別れる子もいれば、同じ方向へ仲良く歩いていく子供たちもいます。走ってくる車に気をつけながら、きちんと道のはしを歩いていきます。
『こうして時間が経つんだな。』わたしは思いました。
まるでそれが流れるのを一瞬外から見ているようでもありましたが、でも同時に、一日でこれほどわたし自身に時間が流れた日は今までにないのではないかとも感じるのでした。