ありがとう、夜明けの蒼よ

夜が明けぬように、明けぬようにと祈りながら


夜が明けてしまっては困る


まだ、見ぬ君の姿をこの眼に焼き付けるまで

今日という日の朝は迎えられない


昨日の夜の蒼を送り出し、朝の到来の瞬間を


今日という今日は

わたしは見逃すわけにはいかなかった


顔を洗い、洗いたてのシャツを羽織りながらも


祈る、夜が明けぬようにと


水筒に冷えた水を入れ、急ぎ足でパタパタと家を出る


夜が明けるその前に

あの蒼く澄んだ、夜の帳があがりませぬようにと


でも夜の蒼はまだそこにいた

間に合った


柏の葉が優しく甘く香る、午前4時

ただの雑草だと思っていた草々から、甘く透き通った素敵な香り


これらの植物はいつからこんなに優しく薫っていたのだろう

もう何年も何年も繰り返されていたに違いない朝の


始まりに、これらの植物は、毎日、毎日あきもせず

こんなにも美しく優しい香りを届けてくれ続けていたに違いない


いつからこれほど夜明けを楽しみにしていたのだろうか


雨が降ってはいたけれど、夜明けの美しさは格別


朝はいつもこんな風に始まっていたんだ


とんびがわたしの頭上でしろいおなかをみせてご挨拶


カルガモの親子がはすの葉のかげで一休みしている


遠くの森に朝霧がたちこめ、やがてそれらが蒸発するように晴れていく

ふとうしろを振り向いたら、白鷺が一鳴きし朝のワルツを踊ってみせた


何かの鳥の群れがV字なって朝のご出発

虫たちの鳴き声も夜の終わりを知らせている


こうして夜明けの蒼がそろり、そろりと幕を明けていく


夜明けの蒼はこんなにも美しかった

毎日の朝はわたくしの、本当に本当にすぐ近くで、何度も何度も

こんなにも美しく明けていたのだ


夜の幕が落とされ、朝がやってきた


まるで何かの演目のように


鳥が、草が、虫たちが朝の到来を心から喜んでいる


おはよう、朝よ

さよなら、夜明けの蒼よ


わたしは今日、ようやくあなたに出会うことができました


ありがとう、朝よ


ありがとう、夜明けの蒼よ

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なまあたたかい風たちが僕の体の横を次々と通り過ぎていく。


雨が降り出すかもしれない。


冷たい風が、わたしの体をショールのように包んでは突き放し、
かと思えば、こどもを諭すよにひらひらくるくる回り、吹きぬける。


それから、さほど時間をおかぬうちに、まるで聞き分けの悪い大人
たち、もしくは、理由がわからぬまま泣き出すこどものように

空から涙のつぶが落ちてきた。


あ、雨だ。


街を行き交う人々が


ある人は空を見上げる


ある人は手をかざす


ある人はくちをへの字に結んで


笑う人、怒る人、困る人、喜ぶこどもたち


今日の雨は悪い雨じゃない


わたしにはそう予感させるものがあった。


今日の雨はそうそう悪い奴じゃないな


涙のつぶがトラックの荷台に詰まれた積荷におちはじめる


ある涙のつぶはバスを待つうら若い女性の肩口に着地、

したかに見えたが、次の瞬間、ころりと落ちていく


ある涙のつぶは横断歩道を渡ろうとしていた老婦人の傘のうえで踊る


ある涙のつぶは小さな傘を開こうと悪戦苦闘する少年の手でバウンドした


少年が「あっ、冷たい。お母さん、雨だよ」


まだ三十路にも至らぬ少年の母はいった「しょうた、雨合羽。着なきゃね」


しょうた少年は言う「いやだよ、僕。青は嫌いなの。」


母は畳みかける、

「しょうたくん、わがまま言わない。昨日は青、好きって言ってたでしょう?」


「今日はそんな気分じゃないんだ。でも、雨が冷たいからやっぱり着るよ」


先ほどまで青かった空は鈍い灰色に変わりつつあった。


時たま、雲と雲の間から顔を見せる太陽はどこかよそよそしい


ときどき太陽が顔を見せるおり、空は一瞬青さを見せつける


バス停で待つ女の子に老婦人が声をかける。


「あなたもこの傘に入りなさいな。今日の雨は冷たいらしいから。
あなた、風邪、ひくわよ」


そこらで人々が交わす声が聞こえる


見知らぬもの同士が優しい涙の形をした雨がもたらす、


幸せの時間によって思わず声を掛け合ってしまう


トラックの荷台に詰まれた積荷がこれ以上、雨にぬれないようにと


若い男が大きなブルーシートを両手一杯に抱え階段を駆け下りる


もう一人、遅れまいとこれまた階段を駆け下りてくる


運転手がそれに気づいてあわてて運転席から下りてきた


「あ、どうも。すみません、お気を遣わせてしまって。」運転手が
頭をさげる


若い男はそんなことない、と頭を振る

「いいえ、良いんです。それより、今日の雨、冷たいですね。一気に冬に逆戻りだ」


こんなところでも、いつの間にか優しさに満たされた言の葉が交わされる


いつしか、言の葉がその瑞々しさを失って、枯れてしまったって僕は今日という日を忘れない


僕は今日の、街行く見知らぬひとびと同士が交わした思いを忘れない


君の涙が街行くひとびとへもたらした贈り物


今日の雨はそうそう悪い奴じゃない


ぼくの中で行き止まり、過去の行き場を失った思いがむくりと起き上がろうとした瞬間


君の涙がぼくの思いを断ち切った


君の涙はやさしい


「やさしさは強さだよ」、そう誰かが言った


弱さを知る強さがぼくに生きてもいいよと言う


ありがとう、君の頬から落ちる涙はどこまでも


どこまでも、どこまでも、あなたは、弱く、優しい、けれど


自身の弱さを知るあなたの優しさは、時に強さであり、それは武器


過去の行き場を失った思いを断ち切る勇気をありがとう、あなたの涙へ

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ぽかぽか

晴れの日は洗濯物がよくかわく


よくかわくからせんたくは


一日3回できるのだ 一日3回できるのだ


週に2日でいいわけで


ぽかぽか日向の縁側で


ついうつら おふねを漕いだ


よく晴れた縁側はとても気持ちがいいわけで


せんたくものもよく乾く


なんだか懐かしい気持ち ちょっぴり涙がこぼれたよ


雨の日はせんたくものが乾かない


かわかないからせんたくは


ぜんぜんしなくていいんだよ ぜんぜんしなくていいわけで


お昼ねいっぱいできるんだよ


おちびのクロはとっても不思議そう


しずくのダンスを眺めてる


そんなおちびのクロをおなかに乗せてたびに出る


おふねを漕いで旅に出る ちょっぴりちょぴりたびに出る

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忘れていた8年前の大切な大切なことづけ

テーマ:

あれは2004年の夏のお話。


祖母はもうすぐ98歳になろうとしていた。

博多の町に生まれ、博多に生き、笑顔が本当に素敵な人。


祖父に先立たれると同時に寂しさのあまりなのか、急激にぼんやりするように
なってしまっていた。


なくなる前の5年間ほどは、まさに痴呆症に冒され、家族みんな大変だった。

祖父のことを本当に心から愛していたんだと思う。


そんなある日、僕は福岡に帰らなきゃ、おばあちゃんに会わなくちゃって
思ったんだ。


はやく行かなきゃ、でなきゃもう二度と会えなくなる、そんな気持に襲われ

本当に何かに呼ばれるように僕はあるだけのお金を銀行から降ろし、
その日のうちに東京・杉並の家から、福岡県東区馬出にある八木病院へと向かった。


福岡に着いたのはその日の午後13時半。

顔見知りの看護婦さんはひどく驚いた後、少しだけ涙目になっていた。


「しゅんちゃん、お帰り。本当に久しぶりね。おばあちゃんにぜひ会ってあげて。

たぶんまともにお話できるのは今日だけだと思うの。できるだけ長く一緒にいてあげて」

すっかりボケてしまって、会話もできなかったはずなのに

祖母は、今日に限って突然、痴呆症がすっかり治ったかのようだった。


かつての素敵な笑顔が顔いっぱいに広がり、僕はすっかり安心した


「もう一緒におうちに帰れるね」って言ったら、「それはもう無理なのよ」と
祖母はゆっくり微笑む


祖母は僕に向き直ると笑顔を崩さず、リラックスした感じで僕に言った。


「この病室であなたにさよならを言わなくちゃいけないの。

そして、これはわたしの大切な家族に贈る最後のお話」

「さよならなんて、お別れをいうのは好きじゃないから

少しだけ、少しだけでいい。私のお話を聞いて頂戴。」

そして、祖母が話してくれた最後のお話。


「おじいちゃんはね。

もう本当に歩くのが早くってね


名前を呼んで引き止めようと思った頃には見えなくなってる

あの人はいつも早足で


わたしは弘さん、弘さん。あなたのなまえを呼ぶ

ねぇ、ちょっとまって弘さん

弘さんってば!


けれど、おじいちゃんはね、本当に呆れてしまうくらい


いつもセカセカと早足で私のことなんて、

ちっとも待っていてくれちゃいない


いつもの角の交差点で、きっかり90度に体の向きを変え

セカセカと早足で歩いていく


ねぇちょっと待って、待ってってば。
かさ、傘を忘れてるんだってば。


いっつも何かを忘れてせっかちに歩く

そんなあわてんぼうのおじいちゃんが好きだった


結局、弘さんは最後まで変わらなかったのよね

でも、いいの

そんな弘さんが私は今でも大好きよ

愛してるわ、今でも


でも、でもね。弘さんはいつもわたしのこと
忘れていつも置いてけぼりにするのよ


おいていくのは傘だけにしてって言いたいわ(笑)

あれから80年、弘さんは今も私の心の中で

セカセカと毎日、毎日歩いてく

てくてく、セカセカ、てくてく、セカセカと


こどもたちもずいぶん大きくなって
もう、大きくなったなんて年じゃないわね


しゅんクンのお母さんも、もうすぐおばあちゃんになる

まぁとにかく弘さんは毎日毎日


セカセカ、てくてく、セカセカと
いつだってしゃんとセスジを伸ばし


シャキ、シャキ歩く

こんな様子じゃお盆にも帰ってきそうにもないか


あの世でも、元気にいろんなところを旅しているんだろうか
なんて思ってみたり


旅、楽しめてる?
弘さんに聞いてみたい


セカセカと急ぎ足に歩いているうちにわたしのこと忘れたりしないでよ

弘さん、私のことたまには思い出してね

弘さん、あなたが逝ってしまって、わたしは少し寂しい

昨夜、久しぶりに夢を見たのよ


いつものように、あなたは早足で歩いていた
いつもの角で、わたしはあなたを見失った


角を曲がったら、いつもだったら、あなたは遠くに行ってしまって
どこに向かっていったかすら見失っていたのに


いつだって弘さんを追いかけていたわね、結局のところ


いつもいつも、角の交差点で弘さんのこと

見失って途方に暮れていたのに


傘を忘れたり、ハンカチを忘れたり

あわてんぼうさんだなぁって時々くすりと笑ってしまう

でも、昨日はあなたはきちんと私を待っていてくれた」


祖母はいい天気ねといいながらカーテンを開け、言葉をつなぐ


僕はおばあちゃんに言った。
「おじいちゃんに会えたんだね。いつもの角の交差点で」


「そう。夢の中だけどね。

 でね、おじいちゃん角の交差点の角のところで

電柱の陰に隠れて待っててくれたの。

可笑しいでしょう、笑っちゃうわよね。

あの人が電柱の影で"かくれんぼ"しているんですもの。

わたしを見つけるとくすりと笑って待っててくれた


本当に本当にとても幸せな気持になれた
これって本当にはじめてのことよ


弘さんは私の瞳を見つめて言ったわ

『やぁ、驚いたかい。今日は初めてここで君のことをちょっと待ってやろう
そう思ったんだ。
いつも僕は君のことを置いてけぼりにしてしまっていたから。

ずいぶん寂しい思いをさせたね、本当にごめんよ。

でも、もう君のことを一人ぼっちにしたりはしない。

これからはずっと二人一緒だよ。』」

そんな夢の話を僕は聞くでもなく聞いていた


おばあちゃんは僕の手を両手で包み込むように握るといった

「今までありがとうね。これで心置きなく逝ける。


輪廻転生、人生は巡り巡りてまた家族の元に帰れますように。

生まれ変わるなら、もう一回人間に生まれ変わりたいわね。


戦争や、なんやかんやでもう本当に本当に大変な人生だったけれど
結構大変だったけれど、それなりに楽しかったわよ


また後生で会いましょう。

大丈夫!近いうちにまたきっと。


しゅん君!ほら、手を出して。
ぎゅっと握手をしよう!


ぎゅーっと。

おばあちゃん、握力強いでしょう?

おじいちゃんみたいだよね、馬鹿みたいに力強く握手!握手!


ね。ちょっとのお別れよ、またお会いしましょう!
またすぐ会えるんだから。泣かない、泣かない。


よっちゃん(私の母の名)にも言っておいてちょうだい。

もう何も心配することはないわよって。そして今までありがとうって。

忘れずにちゃんと伝えておいて頂戴ね。」


この日の夜、祖母は突然に体調を崩し意識を失った後、5日後には帰らぬ人となってしまった。

あれから僕は丸8年、祖母から預かった大切な大切なコトヅケをすっかり忘れてしまっていた。


久しぶりに実家に帰り、母にこのことを伝えたら、母は泣いていた。

妹に娘が生まれたそうだ。


そんなこと聞いてなかった!

さよなら、玉枝おばあちゃん。


ようこそ、みさとちゃん!
これから、あなたがこの物語を繋いでいくのです。

東北関東大震災に思いを寄せて

東北関東大震災に思いを寄せて。


みんながこんな風に笑顔でいられる日が早く来ることを願ってやみません。


神奈川は今は大丈夫です。

がんばれるだけ、皆様にできる限り声援を送りたいと考えております。


いつもそばに心をそえて、やさしさを届けられたらと思っています。
おえかきとナカシュン-children

ずいぶん、ごぶさたしてしまいました。

こんばんは。


以前よりお話していた個展ですが、3月にやろうと思っていて
ギャラリーオーナーにもお話して来ました。


発表する絵はこんな感じで、15点ほど発表する予定です。

テーマは「つながり」です。


人とのつながりの中でしか得られないもの、
言葉にはできないけれど心では感じられるほっこりとしていて心をあたためるもの。


そういったことごとをお伝えできればいいなと思っています。


正式に日程等決まりましたら、改めて発表させていただく予定です。
1月中ごろにはお知らせできると考えています。


おえかきとナカシュン-miwa

おえかきとナカシュン-miwa

おえかきとナカシュン-miwa

では、みなさまに素敵な夢を。
おやすみなさい。