駒込~次は駒込~と山手線のアナウンスが入った
電車のドアが開くと私は飛び降り
直ちゃんたちと待ち合わせている
駒込の東口に向かった

今日は待ちに待った小林覚さんの書展の日だ

空は晴れて風は心地良かった

夜は絶対に寒くなるぞと結構着込んできたことを
少し後悔していた


「あゆみさ~んこっちこっち」
改札出口の向こうで万遍の笑みの直ちゃんが手を振る

その向こうに直ちゃんの旦那さんの宮ちゃん
そのまた向こうに直ちゃんのお母さんの敦子さんがいた

「こんにちわ」とにっこり笑って
「いつも直子がお世話になってます」
と少し斜めに可愛く頭を下げてくれたので
「いえいえとんでもないです。初めましてあゆみです」
と私も頭を下げた

そして直ちゃんを先頭に私たちは書展の場所へと向かった

ひっそりとした場所に書展はあった
木の扉を開けて中へ進むと左側に受付があって
そこには訪問書があった

「げ!これ書くんだよねー。しかも筆だー!」
と心の中で汗をかいた

一応、小学校高学年からお習字は習ってたけど…
きっとここに来る人たちはみんな上手に書くんだろうなぁ~
今度は心にでなく手に汗をかいてきた

私がモジモジしていると
直ちゃんが空気を読んでさっと書いてくれた

ほっとした気持ちで後ろを振り返ると
変形したL字形のスペースに幾つもの作品が並べられていて
そこはまるで小さな美術館のようだった

物語になっている作品から真面目に半紙と向き合った作品や
私には到底理解できない作品まで
あらゆる文字がそこにあった

壁に描かれた作品を順番に
ゆっくりゆっくりと時間をかけて観ていった

真ん中あたりに来たとき

緑の掛け軸に浮かび上がるように上品な半紙に
“ひまわり”の歌詞が優しく柔らかく温かい文字で綴られていた

心が癒された

とてもとても深いところで心が癒された

その作品を書いた書道家 ・小林覚さんが
「あゆみさーん」と発しながら
人をかき分けてこちらまでやって来てくれて

「あゆみさんどう?」
と目を細めた笑顔で問いかけてきた

私は一瞬声が出なかった
あまりにも素敵なものに出逢ってしまったからだ

「覚さん凄~い素敵すぎて…」
と言いながら抱きついた

本当はもっと沢山伝えたい事があるのに
その言葉でせっかくの作品を台無しにしたくなかった

覚さん直々の丁寧な説明が終わると
そこで記念写真を撮り
私も自分のカメラに作品を納めさせてもらった

そしてそれぞれの記念写真を撮り
お茶とお菓子をいただいて書展を後にした







外の空気はそんなに冷たくなく
冬が来てしまう事に足踏みしているようだった

「さぁ!次は六義園」

直ちゃんが声をかけ
みんなで秋の紅葉を満喫しにそこへ向かった

が、六義園は長蛇の列
私は思わずその人の多さにめげそうになった

すると直ちゃんのお母さんの敦子さんが
素早く軽い足取りで走り始めた

ん?と思いながら目で追うと
敦子さんがどんどん遠くになって見えなくなった

直ちゃんが
「大丈夫大丈夫、いつもの事だから」と言った

まるで何が起きてるのか私には全く理解できないまま
六義園に入るための最後尾へ向かった

歩けど歩けど中々たどり着かない
本当に六義園に入れるのかなぁ
と思ってしまうくらいその先は長った

遠くでこちらに手を振る人がいる
…まさかファンの人?
と思ったがそれは敦子さんだった

「えーーーー敦子さん、
まさかさっきいなくなったのは
私たちのために順番待ちするためだったの?」
と驚きと申し訳ない気持ちで自分が恥ずかしくなった

階段を上り下りするのも
さっきの小走りに走って行く姿も
70才とは思えないくらい軽やかなのだ

凄すぎ!素敵すぎ!若すぎ!
私も70才になってもステージの上で
こんな風にピンピンしていられたらカッコいいだろうなぁ
と自分の姿と重ね合わせて見ていた

敦子さんのお陰で
私たちは思ったよりも時間をかけずに
六義園に入る事ができた


つづく