マンガ・コース講師 -2ページ目

出前講師・公開講義へ行く

●或る日突然、「我が校で一回の講義をお願いします」といったメールが

飛び込んでくることがある。数年前に高野山大学というところからの依頼

があったのにはビックリだった。

 高野山!あの真言密教の!大学があったのか。その依頼にも驚いた。

「生命倫理」という科目内授業だというのである。これは何かの間違いで

はないかとReメールを差し上げた。

 すると、間違いではない、マンガという範疇で生命倫理を語っていただ

きたい~との担当のM先生からのご返事があった。どうしよう?


★新しく設定された科目で、専任の教授のほか大半は民間の講師によ

って講義を行うものだという。その一例として樹木の生命という、樹木医

による授業もあるらしい。

 マンガだとすぐ頭に浮かんでこるのが、医師マンガ『ブラック・ジャック』

である。そして、ぼくにとってはレポート課題に選んでいる『半神』がズバリ

人間の生死について深遠な物語を表現しているのだ。

 そのような内容でいいのでしょうか?とお聞きすると、もちろんOKだという。

しかし、講義日が金曜日まですでに決まっていて、このために1日を休講す

るわけにもいかない。それがネックで行けそうにありませんとお断りすると

土曜でも生徒を登校させますと言われた。


●8時間を掛けての高野山行きであった。南海電車で熊野へ。市街地域を

過ぎると山林地帯へ入り、登りにかかると電車はキイキイ~ッと音を立てた。

どうやら、南海電車のモーターは登山電車仕様になっているらしい。

 それでも終点駅に着くと、さらにケーブル車に乗って急角度で上へ進む。

その登り切った駅にM先生が車で待機されておられた。上に出てしまえば、

平地になった町筋がある。そこにはホテルや旅館ではない「僧坊」がたくさん

並んでいた。これがここでは観光客のための宿泊施設になっている。

 女性の従業員は見かけない。若い修行僧が部屋へ案内してくれた。大学

の正門は2分とかからぬそばにある。学校は500人ほどの生徒が来ている

とのことだった。かつては、真言密教を教育する学校だったようだが、現在

は普通の大学と変わりはないとか。


★翌日の午前午後の2コマ、『半神』、『ブラックジャックによろしく』、そして

『ブラック・ジャック』についての講義を行った。

 60年代以降、アメリカの医師たちの間で問題になり始めた「生命倫理」と

いう言葉と考え方…。その考え方から、前記の諸作品を読むと、どういう事

が見えてくるか?ぼく自身といしても初めて喋る内容であった。

 こんな意外な注文に応えることから、ぼくのマンガへの見方読み方が深

まっていくのです。その前の年には、近畿大学の公開講座に呼ばれた。


●学内の誰でもが受講できる講座である。

学生に混じって先生方の姿も見えた。ステージ上にあげられ、200人近くの

聴講者がいたようだ。テーマはこの時は、ぼくの仕事からみたパロディ作品

についてであった。この会のためのポスター作りや、場内整理等をやって

くれた学生たちが居るので、記念のサインをしてやってほしいとも依頼され

たので、帰宅したのちに色紙にいろいろ描いて送った。

 ところが、それが大変楽しいものだったので、ロビーを利用してミニ展示会

をやったのでお許しを~との便りが届いたので、これもビックリ。

 2006年には、神戸芸術工科大学へ行き、石ノ森章太郎集中講義6回の

うちの1回を担当してきた。ここでもマンガの科目がいろいろ出来たようで

その全体構成にも携わり、教授役もつとめる評論家・大塚英志さんからの

ご依頼である。ここでは2名の先生がサポートしてスクリーンにさまざまな

画像を出すように計らっていただいた。

 普段の授業とは違って、大塚さんが板書をやったり、まとめ役もやって

下さった。これも内容的には初めてのものである。

 

質問⇔回答ノート(2)

●講義系の学生にもマンガの投稿を行ったり、マンガ同人誌を発行

している方が居ます。椙山女学園大学にはマンガ愛好会が有り、

会の同人誌をもらったこともある。

 したがって質問には、こんなものも有った。

「投稿時代にやっておいた方がいいというものはありますか?

アシスタントは経験した方がいいですか?

どうしたら、生き生きした面白いマンガが描けるようになりますか?」

 ぼくはこう書いて答えています。

★投稿時代になすべきことは、あらゆる分野の小説を乱読すること

ですね。その中から自分の好みを見つけ、さらにその作家の全ての

作品を読むこと。

 日本の最近のマンガのレベルが落ちてきたのは(絵はどんどん

ウマクなっているのに…)この、文学の勉強が不足してきているせい

だと考えます。

 アシスタント経験は…むずかしい質問です。しないで済むなら、しな

い方がいい。腕が上がれば上がるほど、先生の(作品)むずかしい部分

をまかされるようになり、自分個人の作品を描く時間が減ってしまう。そ

の見返りとして収入が増え、新人マンガ家以上の収入が得られたりする

と、次第に自分自身の作品を描く動機が薄まってしまう危険がある。

 プロの厳しい現場を1~2年だけでも見て体験し知るというなら、いいか

も知れません。

★生き生きとした作品を描くには―ーーやはり、自分が魅力的な人間に

なる、ということに尽きるのではないでしょうか。

 プロということで言えば、どれだけ読者のことを考え、楽しませてあげら

れるか―ーです。自分が人にどれだけ奉仕できるかに掛かってきます。

「プロは自己完結するな」という、あるイラストレーターの言葉が記憶に

残っています。

「プロとは作品を描き直し書き直せる人のことだ」という有名シナリオ

ライターの言葉もキモに銘じています。

 ぼくの『漫画に愛を叫んだ男たち』(清流出版)は、最初に書いた400字

900枚をほぼ半分に近い量に、修正削除した結果のの作品です。版元

社長の「半分にしてよ、値段の点で買いやすい本にするために」と言われ

たからです。読者の身になってみたら、確かにそうだと感じました。

●また「マンガ家になったら、東京に住んだ方がいいですか?」

 確かに版元の集中度からいいますと、便利なのは間違いありません。し

かし最近は交通の利便性の向上や、通信テクノロジーの進歩で、地方在住

のプロの方が多くなりました。

 優れた作品なら編集者はどんな遠方でも飛んで来る!いや飛んで来る

ような作品を描けばいいのです。(といっても、これはなかなか困難!)

 手っ取り早く対応してくれる東京在住の作家を担当していた方が楽だ~

という安易なサラリーマン編集者も多いでしょう。しかし一方で「プロデュース

型」編集者もどんどん出てきています。

 古くから地方に定住して活躍された作家さんには「志」を感じさせますね。

亡くなれてしまった青柳祐介さんなどがその典型。彼は最初は東京におら

れましたが、後に四国へ戻り優れた作品を描かれました。


ノート回覧で学生意識を探る(1)

●非常勤講師は週一、あるいは隔週でしか学生に出会えない。

これでは彼ら彼女たちの名前までを憶えるのは、到底無理である。

顔の印象しか残らないというのが実情だ。20名を越えるクラスを

3~4つ持つと、学校も違うし、混乱しかねないのです。

 講義をしっかり続けることが中心となり、質問や雑談の時間も

持てぬまま、次の大学へ移動せねばならない。そういう点で気を

配って、半期に2回も学生との飲み会を設定してくれたのは中京

大学でした。しかしそこへ全員が参加するわけではない。

 そこで、ぼくが考えたのは自由に記述してもらうノートを一冊、

回覧して、いろいろ書いてもらうことだった。


★「マンガに関することで、何か聞いておきたいことが有ったら、

自由に書いてみて下さい。無記名でどうぞ。」と書いたノートを

用意した。これを授業開始前に生徒に渡しておく。

 隔週で2コマずつの椙山女学園大学なら、10分休憩のときに

も書ける。これを2年間ほど実施し、学生の意識や考えを探った

のだ。学生たちが書いた質問例をすこしここに書いてみよう。


○先生がいままでに、泣くほど感動したマンガはありますか?

また、人間としてすごく勉強になったと思う作品は?

○現代のマンガは物語より絵を重視されている気がします。

先生はどうお考えでしょうか?

○トキワ荘時代の小話は有りませんか?たまに聞きたいです。

○ウナギイヌの誕生秘話を教えてください。

○出版社間の裏話や、マンガ家の笑える話しは?

○マンガ家として成功する人、しない人の違いなどはありますか?

○尊敬するマンガ家さんは居ますか?

~といった質問・疑問である。

このほか、ぼくの方からは、これまでどんなマンガを読んできたか

を書いてもらったこともある。


●質問には、帰宅時の新幹線車中などを利用して回答を書いた。

それを次の講義時に回覧し、また新たな質問等を書いてもらい

回収するのです。

 最初の質問には、こう答えている。

★職業的につい分析して読んでしまうので…なかなか泣けないの

ですが。そういう意味ではアマチュア時代に読んだ『ジャングル

大帝』の最終回がジーンときました。

 泣くというと―ーどうしても映画が多いです。古い時代のものふだ

と『ドクトルジバゴ』(デビッド・リーン)。台湾映画の『恋々風塵』も。

記録映画のように地味な作品だけれど、田舎の幼馴染の男女の

結ばれない恋が忘れられません。

 日本映画でこれと似た作品を探すとモノクロ時代の『野菊の如き

君なりき』(木下恵介)です。こちらはすこしロマンチックに描いてい

ます。

 勉強になるというか、勉強してみたい作品は『火の鳥』、『ブッダ』。

若い時はやはり手塚先生のライオンブックス・シリーズのSFなどが

好きだったな。