先月、写美(東京都写真美術館)で開催されている『世界報道写真展』に行って参りました。
毎年、必ず足を運んでいる写真展です。

Going my way ~どこまでも続く道~-『世界報道写真展 2013』

写真で振り返る2012年。
今年も、2012年の1年間に撮影された写真を対象に、「世界報道写真コンテスト」がオランダのアムステルダムで開催されました。
今回の写真展では、コンテストで10万3481点の応募作の中から入賞作品として選ばれた写真、約60パネルが展示されていました。

喜びや哀しみが伝わってくる写真の数々・・・。

紛争地で、命懸けで撮影したことがわかる写真。

目を逸らしたくなるくらい・・・残酷で辛い現実が写し出された写真もありました。

世界報道写真展に行くと、テレビや新聞で目にするニュースはほんの一部分で、世界で起きている事件や出来事をどれだけ知らないのか?視野の狭い自分の愚かさに気づかされます。

世界報道写真大賞2012には、スウェーデンのポール・ハンセン氏がパレスチナのガザ地区で撮影した作品が選ばれていました。
イスラエルのミサイル攻撃によって犠牲となってしまった2歳と3歳の子どもの遺体を抱きかかえる男性たちを捉えた写真でした。悲しみや怒り、その気持ちをどこにぶつけたら・・・という悲痛な想いが写真から伝わってきていました。

下記サイトで、この写真についての記事を読むことができます。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130215/mds13021523120003-n1.htm

ガザ地区の攻撃に関する写真は、毎年のように、この報道写真展に展示されていて・・・毎回胸が痛くなります。

その中でも、最も印象に残っているのが、2009年の『世界報道写真展』で流れていた、土井敏邦さんが撮影した「ガザ攻撃」のドキュメンタリー映像でした。とても衝撃的な内容で、大変ショックを受けた映像でした。(土井さんの撮影した映像は、NHKや民放のドキュメンタリー番組でも使われています。)

ガザの襲撃の時、目の前で父親を殺害され、自らも頭に銃撃を受けながら、奇跡的に一命を取り止めたアマルちゃんという9歳の女の子の映像が流れていたんです。
「アマル」は、アラビア語で“希望”の意味なんだそうです♪体にも、心にも大きな傷を抱えながら、懸命に生きようとするアマルちゃんの姿が忘れられません。
名前の由来通り、アマルちゃんの未来に希望を・・・パレスチナの未来に平和を・・・と思った映像だったんです。

私は、この映像がきっかけで、哀しみの連鎖を絶つことのできない・・・厳しいパレスチナの現実を知り、ガザに関する本を読んだり、池上彰さんがパレスチナ問題を解説してくださった番組も見ました。そして、パレスチナ問題が民族紛争というだけでなく、宗教も絡んでいて、物凄く複雑な争いであることを知りました。

去年は、井上芳雄さんが出演した『負傷者16名』も観に行きました。
井上さんが演じた役がパレスチナ出身の青年役で、イスラエル軍によるガザの襲撃の話も舞台の中で出てきていました。
最後に、井上さんが演じた青年が、自らの命も犠牲にして自爆テロを起こして亡くなる・・・という衝撃的なラストでした。(号泣)
愛する人もでき、全ての過去を捨て、前向きに生きたいという願いが絶たれてしまうという悲劇的な結末でした。

家族や組織といった、どうしても関係を断つことのできない繋がりがあり、愛する人達を守るための苦渋の決断だったと思いますが・・・。
舞台のタイトル『負傷者16人』の16という数は、自爆テロで負傷した人の数。その数字に、哀しみの連鎖はどこまでも続いていくんだろうな・・・という深い意味があったと思います。
井上さんが演じたような、どこにでもいるような普通の青年が組織に巻き込まれて、テロや紛争の犠牲になっているんだと思います。(涙)とても感動した舞台でした。

話しが逸れてしまいましたが・・・ガザ地区や、パレスチナ問題に関係した写真が、毎年のように展示されていて、とても胸が痛みます。
身体の傷だけでなく、心にも傷を負い、トラウマを抱え、懸命に生きている人がいることを忘れてはならないと思います。


他に印象的だった写真は・・・。
ステファン・ヴァンフレーテレン氏の写真です。

病院船「アフリカ・マーシー号」の船上で治療を受けるギニアの人々を撮影した写真。
写真に写っていたブンダクール・ディアロ氏の「こんな風に生まれたのは神の意志だ。人から笑われることもあるが気にしない。僕は正直なムスリムだ。死を恐れることはない。」という言葉が胸に響きました。

アルタフ・カドリ氏の写真には、ニューデリーで鉄橋下の無料学校に通う子供たちが写っていました。
世界には、奴隷のように子供の時から一生働き続けなければならない子供たちがいるんですよね・・・。好きなこともできずに・・・。せめて、学校に通う間は、自由にしてあげて欲しい・・・全ての子供たちが学校に通えますように・・・と思った写真です。

そして、今年も映像のコーナーがあり、「写真の力 カメラマンたちの2012年」という映像が流れていました。(朝日新聞写真部の方たちの映像でした。)
・沖縄県の普天間基地へのオスプレイ配備を取材した上田潤カメラマンの映像。
・福島の被災地を取材した相場郁朗カメラマンの映像。
・被災地・岩手県を取材した葛谷晋吾カメラマンの映像。
・金環日食を取材した金川雄策カメラマンの映像。
・移植医療現場を取材した小玉重隆カメラマンの映像。

カメラマンのみなさんが現場で感じた想いや願い・・・映っている人たちの想い・・・その両方を感じることができる写真の数々でした。

特に、被災地・岩手県を取材した葛谷カメラマンの言葉がとても印象に残りました。
お祈りをしている人にカメラを向けるのは罪悪感があるんですけど、そこに罪悪感をもち続けたいな・・・もってやりたいな・・・。
震災から半年くらい経った時、まだ話したくないんですと言っていた女の人がいて、僕たちが半年たったからもう話すのかな?と思っても、まだ話したくないって、半年とか1年と我々は考えるけれども、人によっては時間っていうのはまったく長さが違うんだなって思いました
という言葉。

移植医療現場を取材した小玉カメラマンの、最初感動的な写真が撮れなかったけれど、何回も何回も通って、ようやく心を開いていただける瞬間があって、読者のみなさんと写体のみなさんを僕のカメラを通してひとつに繋げることができると思う・・・という言葉も印象に残りました。

改めて、カメラマンのみなさんの写真への真摯な姿勢を感じることができました。その真摯な姿勢が写真にそのまま写し出されていて、今年の世界報道写真展も、写真の素晴らしさを感じることができました。

【世界報道写真展 2013】公式サイト
http://www.asahi.com/event/wpph/

Going my way ~どこまでも続く道~-『世界報道写真展 2013』