今年も『世界報道写真展』に行ってきました。
『世界報道写真展』は、オランダ・アムステルダムの世界報道写真財団によって1956年から毎年開催されている写真展で、今年で53回目です。
2009年にプロの写真家が撮影した報道写真を対象に、日本を含む128カ国5847人の写真家が10万1960点の作品を応募し、19人の国際審査委員団によって厳選されたものです。2009年の最高の報道写真ともいえる入賞作品約170点が、今、東京都写真美術館で展示されています。
写真で振り返る、世界で起きた様々な事件・・・。
テレビや新聞では、事件のほんの一部の映像や写真でしか報道されていませんが、この写真展を観に行くと、事件のありのままの現実を写した衝撃的な写真に驚かされます。
私が一番印象に残った作品は・・・。
ストーリー部門1位に輝いた、ユージン・リチャーズさんが撮影された、イラク戦争で脳の40%を失った息子を手助けする母親の写真。
マサチュ-セッツ州のウェストロスクベリー退役軍人病院で、ホセ・ペケーニョさんをベットから起き上がらせる母親ネリダ・バグレーさん・・・。ペケーニョさんは、イラク中部のラマディをパトロール中に車内で手榴弾が爆発してしまい、脳の40%を失ったのだそうです。
イラク戦争の開始から2009年末までに、米軍の戦死者は4300人を超え、約3万人が手足を切断するなどの損傷を負っています。戦死者と負傷者が増えるとともに、ストレスを原因とする疾患(PTSDなど)や自殺者の増加が社会問題となっています。
今年、アカデミー賞作品賞を受賞した『ハートロッカー』(イラク戦争を主題にした映画)を観に行って、映像のすごさに驚きましたが・・・。
このユージン・リチャーズさんが撮影された写真は、たった一枚、この写真だけで、何も語らなくても、戦争がどれだけの悲劇を生むのか・・・を物語っていました。(新聞や雑誌、本の何十行の記事より、この写真の方が説得力がある!と思いました。)
また、今年の報道写真展は、戦争や紛争の写真の他に、地球環境問題に関係する作品が多かったように思いました。
南極海に浮かぶサウスジョージア島の写真は、島の美しさや海の色が印象に残りました。
サウスジョージア島は、160キロの長さに弧を描くようにのびた氷山と氷河からなる島。半分は、雪と氷に、もう半分は岩とツンドラ生態系の植物に覆われています。
周囲は海にはオキアミが豊富に生息するため野生動物にとって天国の場所なのだそうです。しかし、オキアミ自身は海水の底に育つ植物性プランクトンを餌にしているので、氷の表面積が減少するにつれ、プランクトンも姿を消しているそうです。
ケニア北東部ワジルの干し上がった大地に亡くなったキリンが横たわっている写真も衝撃的でした。
この地域では、3年続けて雨期にも全く雨が降らず、自然の水源のほとんどが干し上がっているそうです。
その他、印象的だったのが、自閉症児、拒食症、性同一性障害(GID)の子どもたちの写真が多かったこと!
私は心理学を勉強しているので、こういった作品にも関心を持ちました。
とても全部の写真についての感想を書けないのが残念なのですが・・・。
生まれつき全盲で孤児院で育った子どもを、自身も全盲である方が養子として育てている写真や、表向き華やかなパリのシャンゼリゼ大通りで路上生活をする人が実は3万人もいて、その暮らしぶりを撮影した写真・・・。
世界で増加し続けている麻薬の犯罪・・・その麻薬の取引に巻き込まれて亡くなった人の写真・・・。
『世界報道写真展』に行くと、私が知っている世界って、なんて小さくて狭い世界なんだろう・・・と愕然とします。
テレビの数分のニュース、新聞やネットニュースの数行の記事・・・それだけでは伝え切れていない世界の様々な事件・・・。そして、その事件後、一体どんなことが起きているのか?
日本に居ても地球温暖化の影響を自覚することはあまりないけれど、世界では少しずつ危機が迫っていること・・・。
様々な出来事にシャッターを押し続ける報道写真家の皆さんが、どんな思いで、その瞬間を切り取ろうとしたのか?
目をそらさず、一枚、一枚の写真を観ながら、色んなことを考えてきました。
そうそう、私、この間、本橋成一さんの新聞記事について書いたばかりですが・・・。
この報道写真展で、本橋さんの『バオバブの記憶』の映像が流れていました♪
この写真展は4月にアムステルダムでの開催を皮切りに、世界45カ国約100都市で並行開催されます。
日本では東京のほかに、大阪、京都、大分、滋賀の各地で、順次開催されることになっています。