《階段の途中》 マジすか小説&AKB小説

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マジすか学園の小説です。
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いつも更新が遅くてすいません。
死んでません、健康です。
ただ、忙しいです(~ヘ~;)

矢神姉弟の話はとりあえず次で終わりです。


ようやく板野が退院します。


やっと反逆同盟(忘れちゃいましたよね)やら月琴会(忘れちゃいましたよね)やらウリさん(忘れちゃ(ryやら松井さん(ryやらの話です(T_T)

板野はぼんやりとした意識の中、遠くに救急車のサイレンを聞いた気がした。
目を開け、ゆっくりと上体を起こす。病室のベッドに寝ていたのだと気付く。
「あ?なんで病室なんか――」
靄が掛かったように不鮮明だった意識が覚醒した瞬間、板野はベッドを飛び降りた。
理久の事。久美の事。男達の事。
それらが一瞬で脳裏を駆ける。
裸足のまま走り出した板野が病室の扉に手を掛けた時、冷たく抑揚の無い声が板野の動きを止めた。
「待て」
その声は、カーテンに囲まれた柏木由紀のベッドからだった。声はカーテンの奥から続ける。
「礼治からの伝言だ。向こうの心配はするな。大人しくしていろ」
「んなの聞いてられっかよッ!私は久美達の所に――」
「考えろ。誰が一番辛いのか」
「・・・それも、礼治からの伝言か?」
「そうだ」
板野は唇を強く噛み、ドアノブに掛けた自分の手を睨み付けた。見覚えの無い絆創膏が、酷く惨めな気持ちにさせる。板野はゆっくりとその手を離した。
自分のベッドに戻り、乱暴に体を投げる。ベッドからぎしりと泣き声が聞こえた。
しばらく天井を見上げていた板野は、やがてぽつりと呟いた。
「なぁ、柏木。強いってのはどんな気分だ?」
答えは返って来ない。
それでも板野は何かを紛らわすように続けた。
「最高に気分がいいんだろうな。気に入らねぇ奴はぶっ飛ばして、逆らう奴は叩き潰せる・・・」
板野はそこで一度言葉を切った。体を起こし、カーテンの向こうにいるであろう柏木を見詰める。
「けどよ、最近思うんだ。どんなに強くても、そこに“想い”が無けりゃ虚しいだけなんじゃねぇかって」
微かに柏木のベッドから衣擦れの音がした。
「マジ女に来て色んな奴と喧嘩した。お前が最初で、次が篠田。部長ともやったか。そんで、今日の男達。でもさ、まだ“想い”の込もった拳ってのは見たことねぇんだ。まぁ、部長の場合は私の力を測ろうとしただけだからかもしれねぇけどな」
ぽりぽりと頬を掻く板野。
「なぁ、柏木。お前は見たことあるか?“想い”の込もった拳を」
数秒の沈黙。答えるわけねぇか、と板野が自嘲気味に笑った時、思いがけず柏木が言葉を返した。
「私はある」
「・・・どうだった」
「別に。何も思わなかったよ」
「はっ、そうかよ。で、ちなみに誰だよ」
しかしこの問いに対しての答えは返ってこなかった。
板野は苦笑いと共にため息を吐き、ベッドに仰向けに寝転んだ。握り締めた拳を――傷だらけの拳を、高く突き上げ、その拳にいつも嵌めていた黒いグローブを想い、板野は言う。
「私は強くなりてぇ。私が守りたかったものはもう、無くなっちまったけど、いつか守りたいって思えるもんに出会った時それを絶対に失いたくねぇんだ・・・」
決意の言葉は、裸の拳に吸い込まれるように消えていった。


“想い”の込もった拳。
その言葉に、柏木は二人の女を思い出していた。
――私はその拳を受けたことがある。
一度目は大堀恵。あの人の拳にはラッパッパの誇りと、仲間を傷つけられた怒りが込められていた。
そしてもう一人は、板野。
仲間の為に戦っていたお前の拳には、確かに“想い”が込もっていた。
そこまで考えて柏木は目を閉じる。
――お前は強いよ、板野。
失うのが怖くて拳を振るえない私より、失わない為に拳を振るえるお前の方が、何倍も強い。
柏木の首に掛かるロザリオは、輝くことなく眠りについた。



聞き慣れた、しかし懐かしい声が聞こえて中西は目を覚ました。ゆっくりと広がる視界に、色とりどりの折り紙で作られた千羽鶴が映る。なぜか首に鈍い痛みが走った。
「あら、起きたみたいね」
大堀の声がして中西は顔を向けた。
ベッドの横のパイプ椅子に大堀が座っていた。その後ろには腕を組んで壁に寄り掛かる浦野。
二人は何か言いたげな表情で自分を見詰めていた。
だが中西は無言でベッドを降りた。スリッパを履き、ゆっくりと病室の扉に向かう。その腕を大堀が掴む。
「だめよ、中西」
無視して進もうとすると、腕を掴む力が強くなった。それでも中西は大堀の手を振り払った。
――奪わなければ。
理久達の幸せを奪った男達から、それ相応のモノを。
理久達の為に。
それだけを中西は考えていた。
それしか考えられなかった。
ドアノブを掴む。もう大堀も浦野も止めてこなかった。
中西も躊躇うことなく病室を出た。
しかし、廊下を歩き出した中西の腕を再び誰かが掴んだ。
中西はそれを振り払わなかった――振り払えなかった。
小さくて弱々しいその手は、二人で鶴を折る時に何度も見てきた理久の手だった。
自分を見上げる理久と視線がぶつかる。
「行かないでよ、里菜お姉ちゃん」
「理久・・・」
「黒い女の人と赤い女の人に聞いたよ。里菜お姉ちゃん、あの男の人達のことをこらしめてくれたんでしょ?」
振り返った中西に、理久は笑顔を見せる。
「でも、もういいよ。ほら、僕元気だもん!お姉ちゃんも、お母さんも大丈夫!」
だから――と理久は笑う。
痛々しい程、無理矢理に。
「里菜お姉ちゃんはこれ以上傷付かないで。僕達は、大丈夫だから」
「嘘つかなくていいよ。それに私は、傷付いてなんかないから」
そう言って中西は理久の手を払った。しかしまたすぐに理久が中西の腕を掴む。
「嘘ついてるのは里菜お姉ちゃんじゃん!手だっていっぱい絆創膏貼ってあるし、それに・・・」
そこまで言って理久は視線を床に落とした。中西の腕を掴む手が震える。
「人を傷付けて心が痛くないわけないもん・・・」
その言葉に、中西は心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。何かが内から零れそうになる。その何かを押さえ、中西は告げる。
「痛くないよ。私は、そういう人間だから」
「嘘、つかないで」
「嘘じゃないよ」
「嘘だよ!僕は知ってるもん。里菜お姉ちゃんは、いつも優しかったじゃん!」
「理久が知らないだけ。本当の私は、人を傷付けて喜ぶような最低な人間だよ」
中西は精一杯の冷たい声で理久を突き放した。
理久の手が離れる。
中西は安堵しながら、しかし同時に底知れぬ悲しさに襲われた。そんな悲しみから逃げるように理久に背を向け、歩き出す。
「じゃあ里菜お姉ちゃんは今から何をしに行くの?僕達の為に怒って、僕達の為に男の人達をこらしめに行くんでしょ?」
中西は足を止めない。後ろから歩幅の小さな足音がして、服の裾を弱く引かれた。中西の足が止まる。
「それは、里菜お姉ちゃんの優しさじゃないの?」
「違う・・・」
「違わないよ。里菜お姉ちゃんはとっても優しいよ。だからこれ以上僕達のために傷付いちゃだめ」
「なんで・・・」
ぽつりと唇から零れ落ちた言葉を皮切りに、必死に押し留めていた何かが溢れ出す。
「なんで私の心配なんかしてるのッ。おかしいよ!理久の方が辛いはずじゃん!私に構ってられるほどの余裕なんかないはずじゃん!なんで!」
理久は中西の剣幕に驚いて表情を僅かに硬直させた。
そしてその直後、静かに笑った。
「好きだからだよ。里菜お姉ちゃんが好きだから、里菜お姉ちゃんが傷付くのが嫌だから、里菜お姉ちゃんが苦しいと僕も苦しいから、だから行かないでほしいんだ」
今この場で誰よりも苦しんでいるはずの存在は、自身の不幸を嘆くでもなく、ただ、大切な人が傷付くのを防ごうとしていた。
それが、中西は許せなかった。
「理久・・・」
強く理久を抱き寄せる。
理久の小さな体はほとんど抵抗も無く中西の腕に収まった。
「く、苦しいよ」
「ガキが生意気なこと言わないの!いいんだよ、黙って泣けば!私の心配なんかしないで、自分勝手に泣きなよ・・・」
次第に中西の口調は弱くなり、最後の方は掠れて消えてしまいそうだった。
「・・・里菜お姉ちゃん?」
抱き締められた腕の中で中西を見上げた理久は、クスクスと笑った。小さなその手を中西の背中に回す。
「いい子いい子」
「馬鹿・・・」


中西と理久の様子を扉の隙間から覗いていた大堀が浦野に声を掛けた。
「何歳差かしらね」
「え?」
「やっぱり友人代表のスピーチは私かしら」
「ねぇ大堀、さっきから何言ってるの?」
「私もいつかいい人に出会って・・・」
「ちょっと、大丈夫?中西とやった時に頭部に深刻なダメージを受けておかしくなっちゃたとか?病院行く?あ、病院か・・・」
「でも理久君が結婚できる年齢になるまであと何年かしら・・・」
「け、結婚?まさかあの二人が結婚すると思ってるの?いやいや、どうみてもお姉ちゃんを慕う弟みたい――」
「はぁ~いいわぁ~」
なにやら妄想している大堀を見て、浦野はただ呆れるしかなかった。

「うー、うー」
「少しは落ち着けよ」
部室の中をぐるぐると歩き回っている駒谷に、見かねた麻衣が声を掛けた。駒谷が僅かに語尾を荒げて麻衣を振り返る。
「落ち着いてなんかいられないよ!」
「ったく・・・」
麻衣はため息を吐いて椅子の背もたれに体重を投げた。
「部長は心配じゃないの?大堀が予想した通り、中西が暴走してるかもしれないんだよ?」
「大堀と浦野がいれば心配ないだろ」
「でも!大堀は前に中西に負けてるし、浦野だってあのままじゃ・・・。それに反逆同盟との戦争も近いんだしあんまり四天王を怪我させない方が――」
「大丈夫だ」
麻衣の一言が駒谷の言葉を遮る。
「“三人”を信じろ。大丈夫だ」
麻衣の瞳と目が合う。繰り返された“大丈夫”という言葉が、駒谷の胸に広がっていた不安を晴らしていく。
――大丈夫。そんな気休めのような言葉でも、部長が言うと安心できる。
「・・・そうだね」
「お前は野呂の手伝いしてこい」
「えー面倒くさいー」
「いいから行け」
文句を言いながらも駒谷は部室の壁に掛けられている桜色のスカジャンを肩に羽織って部室を出ていった。

階段を降りていく駒谷の足音が遠ざかる。
残された麻衣は足音が聞こえなくなったところで目を閉じた。抑えていた感情が唇の隙間から零れる。
「くそ・・・」
何が“大丈夫”だ。
大堀と浦野なら中西を止められると信じたからそう言ったわけではない。
本当はわかっていたからだ。病を患った中西が以前の強さを失っていることを。
「あいつはもう、強くない」



病院裏で中西を見つけた浦野と大堀は、目の前の光景に思わず動きを止めた。
中西が拳を振り下ろす度に大きく揺れる碧緑のスカジャン。その拳が振り下ろされる先には、赤黒い塊があった。
中西の背中に渦巻く碧緑の殺気に足が竦む。
先にその呪縛から抜け出したのは大堀だった。
「・・・行くわよ」
「えぇ」
大堀は足の裏から這い上がる悪寒を掌で握り潰し、駆けだした。振り上げられた真っ赤な拳を後ろから掴む。中西が振り向いた。
「大堀・・・」
振り向いた中西の頬に残る涙の跡。胸に痺れるような痛みを感じた。
「・・・やり過ぎよ、中西」
「やり過ぎ?」
大堀の言葉を反復し、中西は不思議そうに首を傾げた。
「ははっ、何言ってんの?まだだよ。コイツらは・・・コイツらは私が!」
殺すんだ――そう叫ぶと同時に中西は掴まれていない方の拳を大堀の鳩尾に突き立てた。大堀の口から濁った息が洩れる。鳩尾を庇うようにして体を曲げた大堀の頭部に中西が上段蹴りを放つ。その動きには仲間に対する遠慮など微塵も感じられなかった。
「くッ――」
大堀は迫る蹴りを左腕で受ける。骨を折られる程度は覚悟していたが骨が折れた様子は無い。大堀の思考に疑問が浮かぶ。
――手加減された?それとも・・・。
しかし大堀はすぐにその疑問を頭から追い出した。考え事をしながら対処できる程、目の前の脅威は甘くない。
大堀は痺れた左腕を横に大きく薙いで中西を見た。
「話しても無駄みたいね」
「邪魔するなら大堀でも殺すよ」
「無理よ、それは」
「は?」
中西が地面を蹴る。対する大堀は中西の動作を読み取ろうと“黒い眼”を凝らした。しかし見えたのはあらゆる意識を呑み込む狂気の奔流。狂気に覆い隠された意識からは行動の意図を読み取ることが出来なかった。
大堀の“黒い眼”は中西に通用しない。
「やっぱりダメね・・・」
大堀は軽くため息を吐いて拳を握った。中西が間合いに踏み込む。瞬間、大堀が拳を飛ばす。中西はそれを左腕で弾き、右拳を飛ばした。拳が大堀の頬を捉える。漆黒のスカジャンがゆらりと後ろに傾く。倒れていく大堀を見て、中西は僅かに緊張を解いた。刹那、上半身と入れ替わるように大堀の右足が中西の顎を目掛けて打ち上げられた。
「――ッ!!」
中西は咄嗟に大きく背を反らしてそれを躱したが、バランスを崩して後ろに数歩よろめいた。大堀が起き上がる。二人は距離を置いて拳を構えた。
中西が乱れた息を整えて駆け出そうとしたその時、トンッという軽い音がして中西の瞳は輝きを失った。
力無く倒れる中西の体を後ろから抱き止めたのは、中西の首に手刀を落とした浦野だった。
「緊張した・・・」
ふぅ、と安堵の息を吐く浦野。大堀が笑顔で歩み寄る。
「お疲れ様。だけどもう少し早く出来なかったのかしら?」
「無理だって。中西の意識が完全に大堀に向くまで迂闊に近寄れなかったもの」
意識を失った中西を左右から支えて二人が歩き出す。
「ねぇ浦野。その手刀どうやるの?小嶋陽菜にも使ってたわよね」
「う~ん。たぶん口で言っても出来ないよ」
「うふふ、天馬会の一人娘として幼い頃からあらゆる武術を叩き込まれた浦野だから可能な技ってことかしら?」
「なんか馬鹿にしてない?」
「うふふ、そんなことないわよ」
大堀は楽しそうに笑った。
会話が途切れ、浦野は目を閉じている中西の横顔を見た。病的なまでに白い肌を斑模様に染める返り血。そしてそれを流す一筋の涙の跡。
「あの男逹どうする?」
浦野の問いに大堀は首を横に振った。
「わからないわ。ま、放っておけばいいんじゃないかしら。目を覚ましたら自分で病院に行くわよ」
「生きてる?」
「えぇ」
「でも、中西にあれだけ殴られたら・・・」
「大丈夫よ」
浦野は何故、大堀が大丈夫と言い切れたのか気になったが、大堀の表情を見て聞くのを辞めた。それは悲しそうな横顔だった。
浦野の視線に気付いた大堀はいつものように柔らかく微笑んだ。
「ねぇ、とりあえずこの子の返り血をどうにかした方がいいんじゃないかしら?」
「そうだね。これじゃまるで人殺しだ」
言ってから浦野は慌てて口を押さえた。
――失言だ。
「ごめん・・・」
「いいわよ。でも本当の人殺しにならなくて良かったわ」
「大袈裟だよ・・・大堀」
自身に言い聞かせるように呟いた浦野に対して大堀は、そうね、と呟くだけだった。