ココナツを飼い始めた頃、無駄吠えをしないよう、部屋で吠えた時はその都度言い聞かせ、叱るようにしていた。


元来大人しい性格の上に、しつけの効果もあってか、徐々に日常生活で吠えることは少なくなっていった。


ある日、部屋でくつろいでいると遠くで救急車のサイレンが鳴っているのが聞こえた。


すると隣で同様にくつろいでいたココナツが、ムクリと体を起こし、喉を上向け、口をすぼめて「ゥ、ゥォーゥ」と、実に弱々しい雄たけびを上げた。


遠吠えだ。


テレビなどで犬がサイレンに合わせて遠吠えする様子は見たことがあるが、ココナツはそれまで一度もしたことがない。


興味深く観察していると、更に喉を上げ、「ゥ、ウォーー」と先ほどより音量を上げながら、少し首をこちらに傾け、目の端で私の様子をうかがいだした。


遠吠えの音量調整だ。


そこまでして吠えたいならば、と黙って見守っていると、顔を戻して吠え始め、再びこちらをうかがおうとして高音がヨレる。


我が犬ながらもどかしくなり、私が喉を上向けて手本を見せてやった。


無反応だった。


以来ココナツは遠吠えをしたことがない。