モールシン部

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モールシン&ムリダンガム奏者 竹原幸一のブログ

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S.スワーミナータン(Swaminathan Selvaganesh、1993年生まれ)は、インド音楽界で注目を集める若きカンジーラ奏者である。インドの国宝級アーティスト&グラミー受賞者であるガタム奏者T.H.Vikku Vinayakramを祖父に持ち、幼少の頃よりインド古典音楽の手ほどきを受ける。実父はカンジーラ界を牽引する名手、V.Selvaganesh。親子3代に渡り、活発なライブ活動でインド国内はもとより世界中のリスナーを魅了し続けている。南インド古典音楽の演奏はもとより、近年では映画音楽に楽曲を提供する他、2018年に父子の共演アルバム「Kanjourney Duo Chennai Matrix」をリリースする。

 

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2019年の9月から10月にかけて、南インドはチェンナイからカンジーラ奏者のS.スワーミナータンを招聘し、彼を中心としたライブツアーを敢行しました。ツアー全体を"Collaborations"と題し、その名の通り、日本の様々なアーティストとコラボレーションしました。

 

ツアーの公式HPはこちら

http://swami-collabo.mystrikingly.com/ 

 

(フライヤー)

 

日本ツアーとは言っても、準備段階での紆余曲折や直前のドタキャンなどがあり、ほとんどの公演が東京近郊に偏ってしまいました。それもあり、中には、正直集客があまり奮わなかった公演もありました。ですが将来的な事を考えると、スワーミの日本での実績作りの第一歩としては(酸いも甘いも経験したという意味でも)まずまずの好スタートだったのかも知れません。記念すべき出会いもたくさんありましたし、奇跡的なコラボレーションもありました。重要な事は、全てのパフォーマンスが素晴らしかったという事です。

 

スワーミは僕の師匠T.H.Vikku Vinayakramの孫で、かれこれ18年の付き合いになります。彼がまだ10歳やそこらの子供だった頃は一緒に習ったり演奏したりしていたものですが、インドで常に師匠と演奏活動を共にし、また海外でも荒波に揉まれ続けている彼とは、演奏者として随分と差をつけられてしまいました。その点は嬉しいような悔しいような複雑な気持ちですが、このようなツアーを企画運営できているという事実を、密かに誇らしく思っている次第です。

 

(2005年Zakir Hussain氏やVikku氏と。後列に竹原、右端にスワーミ)

 

ここ数年は頻繁にアメリカに単身渡航し、武者修行のように貪欲に音楽経験と新しい表現を追求しているスワーミですが、今回日本に持ち込んだアイテムは、2つ。

 

1つ目はもちろん、南インドの伝統的な演奏。カンジーラ、コンナッコール(口太鼓)、そしてシュローカ(宗教的な詩歌)の詠唱。

2つ目は彼が編み出した必殺技、題してKanjira Trance。EDM(Electronic dance music)をヒントに考案されたもので、自作のトラックをリアルタイムで操作しながら、生演奏を重ねていくというもの。

 

僕はこのKanjira Tranceというモノを、企画段階では知らされていませんでした。来日した彼を空港へ迎えに行き、宿までの運転中に初めて聴いたのです。爆音で(笑)。それは衝撃的な体験で、今から始まるツアーに、そして彼の未来に胸をときめかせたのでした。(続く)

2019年7月1日、タワーホール船堀小ホールにて開催されたP.スムリティのアランゲトラムは、大盛況のうち幕を閉じました。本番前だけでなく、数日前からずっと緊張していた彼女ですが、本番では自信に満ちた堂々たる演技を披露しました。機敏な身体表現も柔らかな感情表現も隙の無い美しさ。どの瞬間を切り取っても、絵画や彫刻のように魅せ付けるものがありました。まっすぐで芯の強い、それでいて優しく朗らかな人柄とパフォーマンス。そんな彼女の将来に幸多からんことを願わずにいられません。

 

さて、前記事のリハ編では掲載できなかった艶やかな衣装とともに、当日の様子を覧ください。

 

前半は赤を基調とした衣装


ステージの飾り付けはボランティアのインド人女性たちの力作

 

伝統的な化粧も良く映えました

 

後半は紫とオレンジ

 

数曲は生演奏でなく音源で踊りましたが、当日、スムリティが伴奏者達に「一緒にステージにいてほしい」と。

 

師匠のレスミさんと

 

舞台裏にて

 

伴奏グループも記念撮影

バラタナティヤム・・・南インドの古典舞踊。インドを代表する舞踊の一つで、インド4大古典舞踊のうち最古のものと言われている。タミルナードゥ州を中心に広く親しまれている。

 

アランゲトラム・・・公式なデビュー公演。師匠にとっては手塩にかけた弟子のお披露目、ダンサーにとっては一生に一度の晴れ舞台。演者としての登竜門であり、プロとしての履歴書でもある。

 

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Bhramari School of Dance主催

「P. スムリティ、バラタナティヤム・アランゲトラム」

 

2019年7月1日(月) 開場17:30 / 開演18:00

タワーホール船堀 小ホール

入場無料

 

ナットゥヴァンガム:レスミ・ジョビィ

ヴォーカル:ヴィニタ・ダルマラージャン

ヴィーナ:的場裕子

ムリダンガム:竹原幸一

 

日本に住み仕事を持つインド人家族は年々増え続けており、2018年には約34,000人に上りました。彼らは極東の島国に暮らしながらも、母国の伝統を尊び、文化や精神性を継承し、節目節目には状況が許す限り、本国と同じやり方で儀式や行事を行っています。

 

インドの儀式や行事に音楽と舞踊はつきもの。有難いことにご縁があって、ここ数年は、音楽を通じて彼らとばかり付き合っています。ひとたび彼らのコミュニティに足を運ぶと、そこには剥き出しのインドが目の前に広がります。一括りに言う事はできませんが、彼らの優しさや人懐っこさも見えてくるし、少し突っ込んで見てみると、シビアなところやネガティブなところも見えてきます。日本人と同じですよね、当然のことながら喜怒哀楽のドラマが広がっています。

 

僕はアランゲトラムを観るのが大好きです。高校野球を観るような一度きり特有の感動があるからです。そして今回開催されるアランゲトラムは少し特別で、弟子はこの公演の後、アメリカへの留学が決まっているのです。

師匠はケーララ州政府公認Aグレードの舞踊家レスミ・ジョビィさん、踊り手は17歳のP.スムリティさん。幼少の頃より日本に住むスムリティさんは6歳からバラタナティヤムを学びはじめ、7年前からレスミ・ジョビィさんの元で研鑽を積んできました。僕は5年くらい前から彼女を知っていますが、その頃から「どの瞬間を切り取っても絵画のように美しい」センス溢れる踊りを見せていました。

 

昨日のリハの様子。

バラタナティヤムの題材はインドの神話で、型はジェスチャーやパントマイムを中心とした感情表現と、リズムを強調した身体表現の2つで成り立ちます。度々バラタナティヤムと関われるチャンスがあり、いつも勉強させてもらいながら参加していますが、日本でこれをこんなに近くで観られるなんて、本当に役得です。

 

伴奏者の皆さん。

バラタナティヤムの音楽はカルナータカ音楽です。真ん中はヴォーカルのヴィニタ・ダルマラージャンさん、右はヴィーナの的場裕子さん。僕はムリダンガムを演奏します。

左のレスミさんは、ナットゥヴァンガムという小型の鐘でダンサーにリズムを提示し、ソルカットゥという口唱歌(口太鼓のコンナッコールとほとんど同じもの)を歌います。師匠が務めるのが普通で、伴奏グループの指揮者のような役割も兼ねます。

 

当日まであと1週間。黙々と芸能と向き合ってきた師弟のドラマは、クライマックスに向かって加速中です。(続く)