夜が明け、次の日―。
トウマが目を閉じて瞑想していると、突然、外でカンカンとけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「降臨するぞー!」
降臨場に黒い煙が漂っているのを見て、見張り台の男が大声で叫んだ頃には、人々は既に騒ぎ出していた。
「トウマさん!いよいよ降臨日だ!早く降臨場へ!」
「あぁ!」
村の男の知らせにトウマは目を見開いて応えた。
戦闘服姿のトウマが外に出ると、そこにスズが話しかけてきた。
「トウマさん・・・」
「スズちゃん、ギンジさんのことだね」
言いにくそうにしているスズを促すように、トウマはギンジの名前を口にした。
「うん、私、お父さんに伝えたいことがあって・・・」
「半年前、俺はギンジさんを救うことができなかった・・・あの日の無力を今日この刀で成仏させてみせる、約束だ!」
「じゃあ!?」
「ギンジさんは必ず来る、ちゃんと送ってあげるんだよ」
亡くなった人間が必ず降臨してくる保証など、ある筈も無いが、この時、トウマは確信していた。
ギンジは間違いなく、娘のスズを心から愛し、その愛の深さ故に娘を一人残して逝く事を・・・‘死’を恐れていた。
だから、必ず降臨すると確信していた。
「はい!」
トウマの決意の表情を見て、スズは元気に返事をした。
降臨場の柵の周りには、既に人々が集まっていて、その中にはいつも通り大勢の役人も含まれていた。
人々がざわつく中、人ごみを掻き分け、トウマは降臨場の中に入ると、一通り役人や集まった人々の顔ぶれを確認するように辺りを見回した。
「役人も揃ったか・・・みんな!今日が最期の別れだ!しっかり見送ってやるんだぞ!」
「今年も頼むぞトウマ!」
トウマの宣言に人々は歓声を上げる。それと同時にトウマは降臨場の中心へ向かって駆け出したのであった。