だけど、帰ってきた時には必ずお土産をくれる。
なかなか会えなくてごめんな。お土産を渡すときのお父様の口癖。
そりゃなかなか会えないのは少し寂しいけど、それでも会えるときはたくさん我儘を聞いてくれるし。
私はお父様が好きだ。
お母様は、触れたら壊れてしまいそうなほど細くて白くて。可憐で。
まるでどこかのお姫様みたい。
お姫様マニュアルという本があったら、一ページ目にはきっとお母様そっくりの絵が描かれているに違いない。
でもお母様は見た目の可憐さからは想像もつかないほど大きな声で私を怒る。
もっと女の子らしくしなさい。
ちゃんと勉強をしなさい。
うるさいなと感じることばかりだけど、私はそんなお母様が好きだ。
お婆様は、お母様に似ている。
正確にはお母様は、お婆様に似ている。
お婆様は、悪戯っぽい笑みを浮かべて面白い遊びや面白い話を教えてくれた。
そんな日々が私にとっての普通。
目の前に広がるありふれた光景。
お父様がいて。お母様がいて。お婆様がいる。
ある日夢中になりすぎて、泥だらけになったときはお婆様と二人で並んで、遊んでないで勉強しなさい。とお母様に怒られた。
私はともかくお婆様は何を勉強しろと言うのだろう。なんて屁理屈が頭に浮かんだ。
私は体を動かしてる方が好きだ。
泥だらけになったり、運動をしたり。
勉強はあんまり好きじゃない。
学校の先生の話を聞いてるうちに違う世界にいってしまうことはよくあった。
だけど、お婆様のお話は大好きだった。
お母様の子供の頃の話。
お婆様の失敗談。
おかしな話や怖い話。
他にもたくさん。
違う国のお話やおとぎ話。
ある日お婆様は、死んだ人は星になると教えてくれた。
だから私は、
じゃあ星の王子様というお話は
死んだ王子様がお姫様に会いに行く話なのかと聞いた。
お婆様は、そうだと言って悪戯っぽい笑みを浮かべた。
盛大に嘘をつかれた気がした。
こんな話をしてくれた日もある。
夜空に光る星は、何十年も前の光なんだよ。と。
何故そうなのか?理屈は難しくてよく分からなかった。
1つだけわかったことは、どんなに遠くても光は届くということ。
なんてロマンチックな話なんだろう。
…そこで目が覚めた。
何度目だろう。お父様やお母様、お婆様の夢を見るのは。
私は色のない部屋を見回す。
やがてこれが現実なのだと気付き、私はベッドから出る。
誰もいない1日がまた始まる。