わたしは、とある学校で保健室の先生として働いています。

 

職場環境はとても良く、

嫌みを言ったりいじわるをしたりする同僚はいません。

 

言いたいことを素直に言い合い、互いに冗談を言い合ったり・・・

 

そんな明るい環境だからこそ、

最年少であるわたしも窮屈な思いをすることなく

毎日のびのびと仕事をさせてもらっています。

 

 

 

普段のわたしは

「本当に病気なの?」と疑われてしまうくらい、

明るく笑顔で過ごしています。

 

なので、私が病気で通院していることを知っているのは

わずか数人だけです。

 

そのうちの1人が、教務主任の先生でした。

 

 

 

他の先生方を引っ張る立場にいるその先生は

いつも子どもたちや学校のことを考えて動いてくれますし

とても頼りがいのある方です。

 

わたしも仕事のことで何か分からないことがあれば相談に乗ってもらっていましたし、

同僚として、先輩として、たくさんのことを学ばせていただいていました。

 

そんな先生は、

普段はとても明るくておもしろくて、職場のムードメーカー的存在です。

 

飲み会では誰よりもお酒を飲み、誰よりもはしゃいで。

 

先生方からも、子どもたちからも、保護者の方からもいじられるような方です。

 

わたしより12歳上の36歳で独身ですが

正直顔はイケメンとは程遠く、

さすがのわたしも恋愛対象からは外していました。(笑)

 

しかし、職場の中で一番話しやすく、仲良くさせてもらっていたので

プライベートでも一緒に飲みに行ったり、カラオケに行ったりしていました。

 

 

 

そんなある日…

 

子どもたちが下校し、1日のまとめ作業を行っていたとき

ふと、いつもの変な感情に襲われました。

 

”生きるのつかれた。”

 

”もう生きるのやめたい。”

 

容赦なく襲ってくるそれらの感情を

なんとかして抑えようとしましたが、

一向におさまる気配はありませんでした。

 

自分の中でもなんとなく「限界」と感じ、

今回こそは本当に本当に死んでしまおうと思いました。

 

 

 

本気で死んでしまおうと思ったので、

せめてお世話になったみなさんに感謝の言葉を残さないと、という思いから

遺書を書いてしました。

 

 

 

両親へ

「24年間という長いようで短い時間だったけど本当にありがとう。

お父さんとお母さんの子どもになれて良かったよ。

わたしのことを愛してくれて、私のことを産んでくれて、本当にありがとう。」

 

 

 

学校の皆さんへ

「1年にも満たない短い時間でしたが本当にお世話になりました。

かわいくて素直な子どもたち、明るくフレンドリーな先生方に出逢えて、

この学校で働くことができて本当に幸せでした。

今までありがとうございました。」

 

 

 

あふれる涙を必死にこらえ、感謝の気持ちを込めて描いた遺書。

 

わたしはその遺書を

教務主任の先生の机にそっと置き、

いつもように職場を後にしました。

 

 

 

すると・・・

 

 

 

すぐに教務主任の先生が追いかけてきて、

驚いたような、心配そうな表情で言いました。

 

「ねえ、まさか変なこと考えてないよな?」

 

その言葉に否定も肯定もしないわたしを見た先生は、

 

「死んだらだめだからな。頼むぞ。」

 

 

 

本気で心配してくれている先生。

 

けれど、わたしは曖昧な返事でごまかし、帰路につきました。

 

 

 

その後、いつも通りに帰宅したわたしは

いつも通り夕食を食べ、いつも通りおふろに入ったあと、

両親に気づかれないように

こっそりと自宅を抜け出しました。

 

2月の夜。

5℃を下回る気温の中、上着を着ず、サンダル姿で

自分の死に場所を探しに出かけました。

 

ポケットにはスマートフォンだけを突っ込んで・・・

 

 

 

死に場所を探して彷徨うさなか、

ふとスマートフォンを見てみると

教務主任の先生からのラインメッセージが届いていました。

 

 

 

「大丈夫だよね?」

 

 

 

そのメッセージに

 

「あとは頼みます」と返信をし歩き続けていると、

 

”今自分は一体何をしているのか”

 

”死にたいのか、それとも生きたいのか”

 

わからなくなってしまいました。

 

もやもやした気持ちのまま

あてもなく歩いていくうちに

どうすれば良いのかわからなくなってしまい、

 

気づいたときには

 

「たすけてください」

 

と、先生に助けを求めている自分がいました。

 

 

 

1時間ほど歩き続けたため、

かなり遠い場所にたどり着いてしまっていたわたし。

 

どうしようもなくなって

結局、先生に電話をかけました。

 

先生は優しい口調でわたしを励まし、

無事に自宅に戻れるように勇気づけてくれました。

 

 

 

「無事に帰れるまで、電話は切らないから」

 

 

 

そう言ってもらえたとき、

なんだかものすごく安心したし

「生きなきゃ」と思えました。

 

 

 

その後、先生のおかげで無事自宅に戻ることができたわたし。

 

その時、

さっきまでとは違う変な気持ちに襲われました。

 

 

 

……?

 

 

 

ただの同僚で、ただの先輩だと思っていたのに。

 

「恋愛対象外」だと思っていたはずなのに。

 

 

 

いつのまにか、

教務主任の先生のことが好きになっている自分がいました。

 

 

 

その日以降、

毎日のようにラインでメッセージをやりとりし、

一緒に飲みに行ったり、ドライブに行ったり…

 

 

 

そんなことを続けているうち、

わたしたちは晴れて「恋人同士」になりました。

 

 

 

自ら命を絶とうとしてしていたわたしを心配し、

優しく手を差し伸べてくれた先生。

 

そんな人が、わたしの彼氏になってくれました。

 

 

 

ただの同僚で、ただの先輩だった教務主任の先生。

 

 

 

今では、わたしの一番大切な人です。