20代の後半頃、ちゃんまげ小説しか読まない時期が、何年かありました。
特に理由はないのですが、池波正太郎とか、藤沢周平とか、司馬遼太郎とかを読んでいれば、それだけで何年ももってしまうので、結果的にそうなったのでしょう。
最近では新しい作家さんの時代物を読む機会は滅多になくなりましたが、先日、久々の大ヒットに遭遇しました。
この本です。
内容の解説はしませんが、これだけのものを書く根気とセンスは、実にすごいな~と、ホトホト感心いたしました。
さらに、実に良い文章があちこちにあるんですね。
一つ、紹介させていただきます。
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時折、ほんの些細なことに躓いてやさぐれている人を見ると、沖田は、もったいないな、という感慨を心の中でそっと漏らす。あの人は、気付いていないんだな。あの人だって大きなものに守られてきたはずなのに。食うや食わずの暮らしをしてきた沖田にとって、彼らが抱いている不満のほとんどはとても小さなことだった。たぶん、大きさにすれば両手で持てるくらい。あんなにムキになって世間のせいにしたり、周りに当たり散らすほどのことではない。十分自分で引き受けられるはずなのに、小さな荷物に振り回されて、大きな喜びや面白い世の中を見逃しちゃったとしたら、随分と損をして、そういうのはとても悲しいことだと思っていた。
沖田は未だに、自分が子供の頃に抱いた感情や感覚をとてもよく覚えている。厳しい生活を凌駕するほど大きな愛情に満ちた日々を思い出す。そこで得たものが自分を支えて、今度は自分から周りに放たれていくことを知っている。
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折角だからもう一ヶ所。
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もうすぐ小作から年貢を徴収し、それを整理して上納すると、田畑に霜が降りはじめるだろう。飼い葉を蓄えて、野菜を天日干しして、冬に備える。春になったらまた苗床を作って、谷水を引く。これから何度も、同じ作業を繰り返す。時折周斉の様子を見に出掛けながら、さして上達しない剣の稽古に励みながら、そうやって月日を送る。
人にはそれぞれ役割がある。義兄弟の契りを結ぶほど馬の合う勇や、暮らしをともにしてきた歳三が、自分の果たせなかった夢を叶えてくれているような心強さは、安定しきった生活にまた違った視界をもたらすようだ。
人生を、ひとりきりで背負っていると思い込むのは、盟友を持たぬ者の考え方だ。彦五郎は、彼らの奔放な生き方に憧れながらも、自分の暮らしもまた豊潤だと信じている。
陽はいつしか落ちて、西の稜線にほのかな群青を残した空も、もうすぐ漆黒に変わるだろう。張りつめた空気が星を近くに引き寄せ、虫の声が高いところ目掛けて一斉に上っていった。土の湿気に枯葉の香ばしい匂いが混じって、彦五郎のいる板の間まで漂ってくる。
どこまで行っても手に入らぬと思い込んでいた美しいものは、存外、自分のすぐ近くにあるものだった。
それを知ったとき、今までに感じたことのない確かな幸福が、その人物のもとを訪れる。
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一節だけ読んでも、実にイイです。
ホントにそうだよな~と思います。
良い本との回り逢いは、実にしあわせなことだと思います。
「しあわせの白い本~The Marriage Book~」とも、一人でも多くの人に出会っていただきたいと思うばかりです。
■A4版 214ページ(厚さ26ミリ) 全頁フルカラー 表紙文字金箔押し 箱付
1冊 189,000円 (税込・送料無料)
(2冊ご購入の場合、283,500円)
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