らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -7ページ目

第342話 あの女

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杏奈はなんでこんなことを言うんだろう。


俊ちゃんが、私を焦らせようとして

杏奈にお願いしてドッキリでも仕掛けているのかな。


それとも、あの女の頭がおかしくて

こんな馬鹿らしい噂を流しているのかな。


ホストにハマる女って

妄想なのか虚言なのか知らないけど

すぐに担当ホストと付き合ってるとか言い出すものだし…。


それにしても「結婚」だなんて

嘘にしても大概にしてもらいたいものだ。


私はそう考えながらイライラを募らせた。


だけど、おかしいと思った。


「だいたい、ゆりぽんって慎太郎の色カノなんじゃないの?」


私は黙っている杏奈に質問を重ねながら

あの女と最初に会った日のことを思い出していた。


私と俊ちゃんが出会った運命の夏。


仙台ロック座の楽日が明け

初めて彼の店に顔を出した日のことだ。


連日花束を抱えてステージを見にきてくれた俊ちゃんにお礼がしたくて

私は彼の勤めるホストクラブに同伴してあげた。


入り口近くのソファー席に通され、ドリンクをオーダーした後

仙台のホストクラブってどんなもんなのよ?と周りと見渡した。


通路を挟んで対面の席に一人で来ている女客がいた。


彼女の横に置かれていた

東京でもあまり見たことのない赤のシャネルのハンドバッグが

私の目を引いた。


私と俊ちゃんよりいくつか年上に見えるその女は

入れの行き届いた栗色の巻き髪を指先で弄りながら

高価なブランデーを舐めていた。


顔そのものは美人とは言えないけれど

こういう店で飲み慣れていそうな独特のオーラがあった。


しばらくすると担当の慎太郎が席に付いていた。


なんとなく二人はいいかんじに見えたから

最初は彼女なのかなぁと思ったことを覚えている。


だけど、みんなで猪苗代湖にジェットスキーに行った時

慎太郎は違う女を連れてきて「俺の彼女」と紹介した。


クラブホステスの優子は

芸能界にいてもおかしくないくらい美人で天真爛漫な女の子だった。


俊ちゃんと私、拓也と杏奈、慎太郎と優子。


連休になると

六人はいつも一緒に旅行に行く仲良しだった。


「ゆりぽんに今日のことは内緒でな」


慎太郎が俊ちゃんに度々釘を刺しているのを聞いて

あの女は『色カノ』だったのだと分かった。


その後も

あの女とはいろいろな場面で出くわした。


俊ちゃんと一緒に

友達や先輩ホストのバースデイなどに呼ばれて行くと

必ずといっていいほど、あの女も飲みに来ていた。


たぶん、どの店でも

金払いの良い『いい客』なのだろうと思った。


「あの人、よく見るけど羽振り良さそうだね、仕事何してる子なの?」

ある時私は俊ちゃんに聞いてみた。


「ゆりぽんは社長令嬢らしいよわ。

自分もコンパニオンの派遣の会社を経営してて女実業家なんだって。

温泉とかに女の子を派遣する仕事やってるみたい」


俊ちゃんはそう教えてくれた。


「ふぅん、なかなかやり手なんだね」

私は素直に感心した。


だけど私は、あの女のことが好きじゃなかった。


あからさまに男に媚態的な態度を取っていたり

またある時は、酔っ払ってか

おしぼりを頭の上に乗せて鼻歌を歌ってたりしてイラっとした。


別に私がイラっとする必要は全然ないのだけれど

何だろう… なにかと鼻につくタイプの女だった。


同属嫌悪というやつかもしれない。


杏奈も優子も同じように思っていて

よく三人で「ムカつくねー」などと陰口を叩いていた


だけど私達には『本カノ』のプライドがあった。


『色カノの分際で』と

客の枠から出ることのないあの女のことを

どこか格下に見ていた。


最近は、国分町に自分の店を出しママをしているらしい。

深夜は杏奈の彼氏の拓也がホストクラブの営業をしていて共同経営者だとか。


私が知っているあの女の情報はこれくらいのものだった。



今まで黙り込んでいた杏奈がようやく重い口を開いた。


「とにかく、みんなで驚いてるよ…

でも、ゆりぽんって聞くところによると、すごく尽くす女なんだってね。

料理が上手で、男をたてて、従順なタイプみたいだよ」


プツンと

私の中で何かが切れる音がした。


杏奈のその言葉が

心の琴線に触れたことは間違いなかった。


気がついた時

私は店の中にいて同伴相手のルッチの接客をしていた。


「どうしたのや?!」


ルッチの大きな声で我に返った。


「何?」


私を見るルッチの顔が普通じゃなかった。


高梨も少し離れた場所から私のことを見ていた。


奥の待機席からはホステス達が

ヒソヒソと耳打ちしながら私に視線を注いでいた。


あれと思った。


グラスを持っていない左手で自分の頬を撫でた。


濡れていた。


泣いてる? 私は混乱した。


目からは止め処なく水が溢れている。

だけど、それが涙だとは思えなかった。


全く悲しいという感情がない。

心は空っぽだった。


「まりもさん」 

高梨が私を席から抜き

キャッシャーの奥に連れていった。


「どうした?!」


「わからない」


「おいおい… 何かあったのか?」


「あったといえばあったんだけど」


「…仕事できるか?」


「どうなんだろう? 無理かな?」


私は自分の状態がよく分からずに疑問形で返した。


「今日はもう帰っていいよ、一人で帰れるか? ウェイターにおくらせるよ」 


高梨がそうい言うくらいだから

私は相当やばい状態だったのだろう。


「ん、大丈夫。一人で帰れる」


席に戻りルッチに

「ごめんね、今日早退する」と謝った。


ルッチは理由を聞かず

私の肩をぽんと優しく叩いて帰っていった。


見送りをすませると

私は俊ちゃんに電話をかけた。


「もしもし、ちょっと渡したい物があるんだけど、今から出てこられる?」


「いいけど、おまえ店じゃないの?」


「うん、お店なの。だから店の入り口まで取りにきて欲しいんだ。今、どこにいる?」


「国分町にいるからすぐ行けるけど、何なのや?」


「誕生日プレゼントのお返しだよ。楽しみにしてて」


電話を切った。


私はエレベーターの前で彼が来るのを待った。


エレベーターが開いて、俊ちゃんが降りてくると
私は彼の腕をギュっと強く掴んだ。


「結婚したって本当なの!」


一気に詰め寄った。


俊ちゃんの一瞬の表情に集中した。


「誰から聞いたのや?」


俊ちゃんは顔を強張らせて視線を泳がせた。


私は全てを理解した。


「本当のこと言ってよ! 理由は何なの!」


取り乱して大声をあげると

店の中からウエイターが顔を出した。


すぐに高梨がやってきた。


「まりも… ここは店の入り口だから」


「黙ってて! すぐすむから口出ししないで!」

私は怒鳴りながら片手で高梨を制止した。


高梨は少し離れた所から心配そうにこちらを見ていた。


「すぐ終わらせるわ、信じて」


私がそう付け加えると

高梨は俊ちゃんに頭を下げて店の中に戻って行った。


「どういうことなの? 説明してよ!」


「結婚なんてしてないよ、そんなことあるわけないでしょ」


俊ちゃんは興奮する私を宥めるようにそう言った。


何度聞いてもそれしか言わなかった。


埒が明かないと思った。


「わかった、もういい!」


「まりも!」


呼び止める俊ちゃんを振り切って

私は階段を駆け下りた。


すぐに晃君に電話をかけた。


「今ね、俊ちゃんと話をして、結婚したって聞いたよ」


私は冷静を装った声でカマをかけた。


「まりも、聞いたんだ…。 俺も昨日、俊から聞いたばかりだよ。いや~驚いたね」


やっぱり。


晃君の言葉で俊ちゃんが結婚したことは確定した。


「どうしてなの? 私達別れてまだ2ヶ月しかたってないのに

てかね、私は別れたつもりなんてなかったんだよ!」


「うんうん。俺もさ、俊にはまりもしかいないって思ってたよ。正直今でも思ってる。

まりもと別れてからあいつすごい荒れてたんだよ、毎日煽るみたいに酒飲んでてさ~」


「ねぇ、俊ちゃんはなんで結婚したの?!」


「うーん… そうでもしなきゃ、まりもへの思いを断ち切れなかったってことでしょ。

俺にはそうとしか思えない。これはまりもに気を使って言ってるんじゃないよ」


「そんなのって!」


意味がわからない。全く納得いかない。

よりによってなんであの女なの?


頭の中は「なんで」の三文字がひたすら反復するだけだった。


「私と付き合ってた頃から、あの二人がデキてたってことはないの?」


一番気になったことを聞いた。


「絶対にないよ。俊はそういう男じゃないって。それは知ってるでしょ?

ゆりぽんがうちの店に俊の客として通うようになったのは、まりもと別れた後」


「そうなんだ…

じゃぁ…うちを出て、行くところがなくてあの子の家に転がり込んだのかな?

私、実家に帰ったんだとばかり思ってた… だけど、なんで結婚なんて…」


「完全に事後報告だったからさぁ、俺も聞いた時は言葉に詰まっちゃったよ。

でも、俊が決めたことならって俺は言うしかなかった」


「そう… わかった、ありがとう」


「まりも大丈夫? いつでも電話してきていいからね」


「うん」


電話を切った。


家に向かって歩いた。


コンビニに寄った。


菓子パン、弁当、おにぎり、サンドイッチ、スナック菓子を山ほど買った。


4つの袋を両手にぶら下げて帰った。


家に着くと

テーブルの上に買ってきたものを全て並べた。


食べ始めたら止まらなかった。


むしゃむしゃと夢中で食べた。


食べている最中頭の中は真っ白だった。


身体の中を

みっちり隙間なく埋めていくように

どんどん、どんどん、口の中に食べ物を押し込んだ。


全部食べた。


食べ物の残骸を見て途方に暮れた。


私の人生終わっちゃったな。


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今週からスタートした『縄酔いする女』をお楽しみにね