第173話 想念の渦 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第173話 想念の渦

ヒカルは

私の挑戦的な無言の抵抗を見て取り

行為に及ぶのを一瞬躊躇した。


両手を押さえつけていた

ヒカルの力がほんの少し弱くなる。


すかさず私は身を翻して立ち上がり

一目散にキッチンへと走る。


キッチンの下の扉を急いで開き

包丁を取り出してヒカルに向かって突き出す。


ヒカルは怯むことなく

真っ直ぐに私に向かって歩いてくる。


顔には薄笑いを浮かべている。


「本気だよ! あんたが今刺されたところで私が罪に問われることはないよ!

ヒカルの体から覚醒剤の陽性反応が出たら私は正当防衛になるんだからね!」


私は両手をグイっと伸ばして

包丁を握る手に力を込め

ヒカルのことを睨みつける。


ヒカルの動きが私の1メートル手前で止まる。


ヒカルが手を伸ばせば包丁に届く距離で

二人の間の緊張は最高潮に達する。


「私が警察に電話したらどうなると思う?

ヒカル、お願い。 今すぐに出ていって。」


強い口調ではっきりと最後通告をする。


もちろん私は

ヒカルを刺すつもりなんてない。

私にはそんな度胸はなく

完全にハッタリだった。


しかし

包丁も私の言葉も

充分に効果をあらわしたようだ。


ヒカルは顔面蒼白になり

ガックリと肩を落とす。


両手で頭を掻き毟りながら踵をかえし

リビングに戻って自分の荷物をまとめはじめた。


ヒカルが荷物をまとめている間

私は一歩も動かずにヒカルに包丁を向けたまま

頭に浮かぶ様々な想念と向き合っていた。


なんでこんなことになってしまったのだろう。


私はまた人を傷つけたの?


ヒカル一人を傷つけて

私は全然傷ついていないの?


だいたい

私には傷つくってことがよくわからない。


走り続けていれば傷つく暇なんてない。


振り返ることもないんだから。


あの時

私がユウを誘惑したのはなんでなんだろう。


どうしていつもこうなってしまうのだろう・・・。


なんで余計なことをしてしまうんだろう・・・。


いつだってそうよ

しなくてもいいことをしてしまう


だけど

なにかしていないと

いてもたってもいられないのよ!



くだらない


どうだっていい


愚劣なことをしてしまう。



何かに追い立てられるように・・・

いつも何かに追い込まれていく・・・

でも何に?




私はあのとき

むしょうにユウが欲しくなっちゃったんだわ。


欲しいものを欲しがって何が悪いの?


誰だって自分の欲しいもののために人を傷つけているじゃない!


私の体に乗っかっていったオヤジ達だって

みんなそうよ!!




自分の思い通りにするために私は努力してるんだ!


手を伸ばすまえに諦めて

そのくせ未練たっぷりの人生なんてなんの意味があるっていうの?


そんなのごめんなんだよ!




でも


だからって


こんなことをしていたって何になるっていうんだろう。




私どうなるの



私何がしたいの・・・



定点を持たない想念の渦に呑み込まれてしまいそうだった。


ヒカルの荷造りは終わった。


その途端に

ヒカルがものすごくかわいそうに感じて

私の自分勝手な胸はズキっと痛む。


「ごめんなさぃ・・・。」


包丁を握り締めたまま

何について謝っているのかもわからずにヒカルに詫びる。



「俺は・・・おまえの激しさが好きだった。

でも・・・おまえのその激しさはいつかおまえを焼き尽くすよ・・・。」


ヒカルはさみしそうな半笑いを浮かべて

私の家から出て行く。


私はその場にへなへなと座り込み

キッチンの壁にもたれかかったまま包丁に視線を落とす。



『おまえの激しさはいつかおまえを焼き尽くすよ』か・・・。


その言葉は新たな呪いの言葉として

私の胸に刻み込まれた。



らぶどろっぷを読んでドラックに興味を持たないでくださいね☆

最後まで読めばドラックの怖さが必ずわかると思いますよ!

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