第172話 異常な事態 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第172話 異常な事態

私はとりあえず部屋にヒカルを入れて

怪我の手当てをはじめた。


ヒカルは苦悶の表情を顔に浮かべて

左手で頭を掻き毟っている。


その様子はとても興奮していて

でもそれは怒りの感情というよりは

むしろ今にも泣き出しそうな爆発を含んだものに見受けられる。


自己嫌悪に陥って

やりきれない気持ちになっているのかもしれない。

私はそんなふうにも感じていた。


マキロンでヒカルの4本の指を丁寧に消毒し

全ての指に絆創膏を巻いていく。


その間に私は混乱した頭で

この異常な事態について考えを巡らせる。


シャブって覚醒剤のことだよな・・・。


『人間やめますか? それとも覚醒剤やめますか?』


強烈なキャッチコピーが脳裏によみがえる。


深夜とんでもない時間に唐突に現れるこの不気味なCMが

覚醒剤という得体の知れない薬物に対して

最大限の恐怖感を植えつけていた。


私はこの頃

まだ覚醒剤がどういうものなのか知らなかったし

私の周りで覚醒剤を使用している子はいなかった。


だから

ヒカルの「シャブ打っちまった!」という言葉は

他の一般人が感じるのと同様に

私のことも嫌悪感と恐怖心で一杯にした。


「・・・本当に、シャブ打ったの?」


どうしてももう一度確認しておきたかった。

私を引き止めるためのヒカルの名演技であって欲しかった。


しかしヒカルは

はじめて覚醒剤に手を出した時の話や

いつから止めていたとか、止めたキッカケだとかを

饒舌に語り始めた。


「そんなこと言われても・・・知らないよ!」


ヒカルの話を遮って

私の口から出てきたのはとても薄情な言葉だった。


そんなものと係わり合いになりたくない!

冗談じゃない!


激しい嫌悪感が一段と膨らんでいき

一刻も早くヒカルにこの場を去って欲しいと感じている。


私はこの異常な事態の結末をイメージする。


最悪の状況まで想定することで不安の除去を図り

完全に腹をくくる。


私が刺されるとかユウを攻撃されるとかいう事も頭をよぎったけれど

ヒカルはどんなに取り乱したとしてもそういうことはしないだろうと考えた。


ヒカルは私を失ったところで全てを失うわけではない。


ヒカルにとって私の存在は

手の内にあるたくさんの大切なものの中の一つに過ぎない。


私ごときのせいで

自分の人生を棒に振るとはどう考えても思えない。


そう結論づけると

私はヒカルの目を真っ直ぐに見て

「出て行って欲しいの」と切り出した。


「私は別にユウのことはどうも思っていないし、もう逢うつもりもない。

でも、こんなことになってヒカルと今までどおり付き合っていくなんて出来ない。

一度一人になって冷静に考えてみたいから少し時間をくれない?」


そんなふうに私は続ける。


「少しってどのくらいだよ?」


ヒカルが疑いの目を私に向ける。


「それは・・・わかんないけど。

とりあえず荷物を全部持って一度うちからは引き取ってもらいたいの。

一人になって自分の気持ちを確かめてみたいんだ。」


「そんなこと言って、俺とはもう終わりにするつもりなんだろ?

はっきり言えよ!」


私はだんだん面倒になってくる。


話が入り組んで収拾がつかなくなるのが嫌だったので

一気にケリをつけるように話を持っていく。


「そう、じゃ正直に言うけど、私、覚醒剤をやるような人とは付き合いたくないの!」


そう言ったとたん、ヒカルが飛び掛ってきて

私の体を組み伏せた。


力まかせに私のブラウスを引きちぎる。


「ちょっと! やめてよ!」


ヒカルは無理やり唇を押し付けて

私の言葉を封じてしまう。


足をバタつかせて抵抗する。

ヒカルの力はとても強い。


どうしてこんなことをするのか私には全く理解が出来ない。


こんなことをして何になるのか?

私に余計嫌われるだけじゃないか!


だいたいこれが抜群に頭の良いヒカルのすることだろうか?

こんなことって本当にどうかしている!

これも全てシャブのせいなのか?!


ヒカルの力は強くて

私がどれだけ抵抗しても身をよじることすら出来ない。


ちくしょう!!


ヒカルの息遣いは荒く

ひどく興奮しているのがわかる。


それがどういう種類の興奮なのかはわからないけれど

私が抗うことがヒカルの興奮を助長しているような気がして

私は一変して体の力を抜いて無表情、無抵抗になる。


力に屈服しながらも

「好きにすればいい!」という気の強い眼差しをヒカルに向けた。




子供の夏休みが明日で終わります。プールとか動物園に行ったりで忙しかったですぅ!

来週からは更新ペース戻ると思います☆

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