第171話 驚愕の言葉 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第171話 驚愕の言葉

私は

ヒカルとケリをつけるために

自分の家に戻ることにした。


ユウの部屋にいるあいだ

何度かヒカルから携帯電話に着信があったのだが

3度目の電話で電源を切った。


それからも私達は

互いを愛しんで何度も抱き合い

その合間に

二人の未来についての会話を重ねた。


ユウの部屋にいたのは

おそらく6時間くらいだ。


しかし

当然のことながら私達は

ヒカルのことを頭の隅に追いやることは出来ずにいた。


不安を抱え込んだままの居心地の悪さを

さっさと払拭してしまいたいと感じて

私はユウの部屋を後にする覚悟を決めた。


気は重かったけれど

先延ばしにしても何も良いことはないように思えた。


「別れ話をしたら

すぐに戻るから何も心配しないくていいのよ。」

私はユウに約束をする。


ユウはとても心配そうな

まるで怯えた子犬のような目で私を見送る。


タクシーの中で

ヒカルに電話をかけようかと思ったが

少し考えてやめる事にする。


仕事が長引き

途中で電話の電源が切れてしまったと言うのが

一番自然な言い訳のような気がして

家に帰ってから連絡を取ることに決める。


タクシーを降りて

アパートの階段を上がると

動く人影が見えたので私はとっさに身構える。


そこにいたのはヒカルだった。


家を追い出したあの喧嘩の日

ヒカルは鍵を持つ間もなく部屋から出ていったので

家の前で待っているということは完全に予想外の出来事だった。


「あ・・・、ヒカル! いつからここに? 仕事の途中で電源切れちゃって・・・あの」


心の準備が出来ていなかった私は

目をキョロキョロと動かしながら

しどろもどろになる。


ヒカルはいきなり

壁にむかって右手のこぶしを思い切り打ち付けた。


「シュッ」

という空気を裂く音がはっきりと聞こえた。


ヒカルは何度も壁を殴りつける。


私は唖然として息をのみ

自分も早く体制を整えなければと瞬時に感じる。

ユウと一緒にいるあいだに

すっかり夢見心地になってぼやけていた頭が

現実に引き戻され全神経が一瞬にして緊張していく。


壁には細かいおうとつが無数にあり

ヒカルの親指を除く4本の指の第二間接の部分から

血が滲み出すのが見える。


ヒカルはギラギラした目を私に向け

「おまえのせいだ。」

と低い声で吐き捨てる。


一瞬私は
ヒカルに何か思惑があって

体を張って一芝居うっているのではないかと思ったけれど

すぐにその考えを捨てた。


ヒカルは異常な状態だ。


全体の雰囲気が

いつもとあきらかに違うのが見てとれる。


「ちょっと、やめな! 落ち着いてよ! とりあえず・・・手当て! 部屋はいって!」


私はヒカルに飛びついて

その行動を制止しようと試みる。


そしてすぐに自分の身を引く。


怖いもの知らずの私が

めずらしく本能的な恐怖のようなものを感じていた。


ヒカルはうつむき加減で

目だけを私の方に向け

驚愕の言葉を口にした。


「俺、しゃぶ打っちまったんだよ! ずっとやめてたのに!」


ヒカルはそう言って私の目の前に

自分の右腕の内側を見せつけた。


私は体が硬直して

その場にたたずんだまま一歩も動けなくなった。


ヒカルの腕の内側に

よく見なければ気がつかない程の

小さな痕のようなものが残っていた。



『シャブ』って言葉の響きだけで驚愕ですよね。シャブ=覚せい剤

「途轍もない悪の象徴」として人類に植えつけられてる観念だと思います。

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