第167話 修羅場の終決 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第167話 修羅場の終決


ユウはぞっとする程さみしい目で私を見詰める。


ちょっと機転のきく男なら

この状況を回避するために私が嘘をついていると

気がつくことが出来ただろう。


でもユウにはそれがわからない。


不利益が生じるとわかっていながらも

正直にヒカルに向き合おうとするユウには

私の嘘やズルい性質を見極めることが出来ない。


ユウは力なく頭と腕を垂れて

絶望的に地面に視線を落としている。


私は身を切られるような想いで

心がひりひりしてたまらい気持ちだったけれど

早くこの修羅場に決着をつけてしまいたい一心だった。


ユウには後からしっかりフォローを入れればいいだけのことだ。


ヒカルは

いよいよ話に身を入れていく。


「ユウ、わかったか?

でも、おまえにもチャンスをやるよ。

とりあえず、俺のいない場所で二人きりで話し合った事ってのはフェアじゃねーよ。

もしおまえが本気でこいつの事を好きなら2週間我慢してみろ。

2週間絶対に連絡を取るな。逢うのも電話するのも一切だめだ。

2週間後、おまえの気持ちが変わっていなくて

まりもがその時に俺よりもおまえを選ぶなら俺は身を引いてもいいよ。

そのかわり絶対に約束は守れよ。」


この提案にユウは驚いたように顔をあげ

「はい、約束は守ります。」

と決意を込めた表情でヒカルに答えた。


『征服者の自信と成功への確信か・・・。』


私はこの提案が

どこまでもヒカルらしいと心の中でいまいましく思っていた。


「もしも約束を破ったら、二度と歌舞伎町にはつら出せないと思えよ。

これは俺のメンツの問題になるから、その時は容赦しないからな。いいな?」


ヒカルは今までで一番きびしい口調でそう付け足す。

その態度には有無を言わせぬ迫力がある。


「で、まりもは? なんか言うことある?」


「ぇ・・・ぅぅん。 ただ・・・ユウ、ごめんね・・・。」


私は上目遣いでユウの方をチラと見て

すぐに目を逸らす。


太一君が何も言わずにタクシーを拾い

ユウの背中を押してタクシーに乗せる。


ユウは渋滞のいくらか解消された新目白通りを帰っていく。


私は最悪の事態は避けられたこと

修羅場はもう終決に近いことを感じて胸をなでおろす。


ここからは

私がどれだけヒカルに咎められ責められても

全くかまいはしないという気持ちになる。


気まずい沈黙もどんな責め苦も

私だけならいくらでも耐えられる。


私自身はそんなことは

どうにでもやり過ごせてしまう。


『くぐって来た修羅場の数が違うんだ。なんて事はない。』

私は自分自身にそう言い聞かせていた。


でもユウはそうじゃない。

きっと傷ついているはずだ。


ただただユウのことだけを考えて

私の胸は今にもはちきれそうにいっぱいになっていく。


一刻も早く一秒でも早く

ユウに私の本当の気持ちを告げて

絶望の底に沈んでいるユウを慰めてあげたい。


皮肉なことに

こういった大きな障害が目の前に立ちはだかる程

恋の炎は往々にして大火となり燃え上がるものだ。


私の覚悟とは裏腹に

ヒカルは私のことを責め立てたりはせずに

ただじっと表情を読み取りながら私の言葉を待っている。


私はバックの中からバイブにしてあった携帯電話を取り出す。

ジイヤから連続で何度も不在着信が入っている。


待ち合わせの時間から一時間以上経過していた。


「ヒカル、悪いんだけど、仕事行かないとやばぃんだ。

打ち合わせだけだからそんなに時間かからないけど。

終わったら電話いれるから話はそれからでもいい?」


私は申し訳なさそうにヒカルに尋ねる。


「ああ、いいよ。待ってるからさ、ちゃんと話し合おう。」


ヒカルは余裕でそんな風に言うけれど

私は話すことなんて何もないと思っている。


恋愛感情が抜け落ちた後の私はとても非情だ。

ヒカルへの思いやりとか良心の呵責だとかは

一切心の中にはなかった。


とにかく早くユウの元に行きたい。


自分の気持ちだけが突っ走り

それを止めることが出来ない。


2週間なんて我慢できるわけがない!

そんな約束私が守れるわけがない!


私は仕事が終わったら

その足で真っ直ぐユウのところに駆けつける気でいた。




場当たり的で感情を抑えることが出来ない。そのツケはいつも自分自身にまわってくるのにね。。。

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