第165話 新目白通りでの修羅場  | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第165話 新目白通りでの修羅場 

タクシーはすぐに右折して

新目白通りに入った。


そこはいつもどおり

3車線とも大渋滞していて

私は絶望的な気持ちになる。


ユウは石みたいに固まっているし

私も完全にパニックに陥っている。


無駄だとわかりながらも

ユウの頭を無理やり下に押さえ込み

自分も精一杯体を低くして隠れようと試みる。


すぐにヒカルと太一君はタクシーを見つけだし

力ずくでドアを開けようとする。


「運転手さん! 開けないでください! 早く行って!!」


私は叫ぶけれど

車は詰まっていて全く前に進まない。


タクシーの中にいても

外にいる二人の尋常ではない気迫が伝わってくる。


ヒカルと太一君は

タクシーを蹴ったり揺らしたりしはじめる。


太一君が何か大きな声で叫んでいるけれど

よく聞き取る事ができない。


「開けないで! 絶対に開けないで!」


私は何度も繰り返して懇願したけれど

運転手は私の要望を無視して

さっさとドアを開けてしまう。


無理もない・・・。

見るからにホストというド派手な格好の二人が

ただ事ではない様子で車を破壊しようとしているのだ。

事件に巻き込まれるのは誰だってごめんだろう。



万事休すだ。



開けられたドアから

太一君がユウを引きずり出す。


私はお財布から千円札を取り出し

運転席に投げつけてタクシーから飛び降りる。


ユウは太一君にむなぐらを掴まれ

引きずられたまま

道の端に連れていかれている。


ヒカルは私には目もくれずに

ユウの方へ真っ直ぐに歩いていく。


ユウは壁に押し付けられ

真っ青な顔で唇を震わせている。


目は大きく見開いている。


「ちょっと、待って! 

ユウは悪くないから、 本当に待って!」


私が一番に声を発したが

喉がカラカラに渇いていてうわずった声が出る。


ヒカルはやはり

私の方は見向きもしないで

ユウの目の前に威圧的に立ちはだかる。


太一君がユウを動けない状態に押さえつけている。


『やられる!!』


私は直感的にそう思い

どうにかしないと!と周りを見渡す。


助けてくれそうな人はどこにもいないし

いたとしても止めに入る勇気のある人はいないだろう。


「おまえ、ヤッタのか?」


ヒカルが低い声で簡素に尋ねる。


私はユウが正直に話してしまうのではないかと思い

足がすくんで動悸が激しくなる。


ユウは口から何も言葉が出てこない様子で

首をどうにか頼りなく横に振る。


ユウがとりあえず否定の意思を表したことで

私は少しだけほっとする。


しかし

危機的な状況なのは変わらないし

だいたいヒカルが

それを信じているとも思えない。


「ヒカル! ちょっと待って! 話を聞いてよ!」


私が口を挟むとヒカルは

ユウから視線をはずさずに

「おまえは黙ってろ。」

と冷静な声で言う。


「ユウ、俺はな、おまえだとは思ってなかったよ。

こいつが男を連れ込んでるのは朝の時点で気がついた。

一緒に出ていきたのがおまえだったから俺は自分の目を疑ったよ。」


そう言いながら

ヒカルは右のこぶしを握り締めている。

その腕には何本もの血管の道筋が浮きでている。


「ヒカル!私が説明するってば!

だからさ・・・。うん。

ユウはたまたま夜、うちに来たのよ。

だってヒカルと約束してたんでしょ?

ヒカルが電話出なかったんでしょ?

だからなの! そう、 だから・・・。

それで私が元気なくてへこんでたし・・・いろいろ相談にのってもらってたってか・・・。

それだけのこと!」


思考も言葉も全然まとまらない。


すっかり狼狽して

ただ言い訳をしているのが浮き彫りになり

背中に冷たい汗が噴出してくる。


「ヒカルさん、僕はまりもさんのことが好きになってしまったんです。」


ユウはすべてを覚悟したかのような顔で

いきなりそう切り出す。


私は目の前が真っ暗になって

いまにも倒れてしまいそうになる。



ああ・・・

もう・・・



太一君が感情的に息を荒げ

ユウのむなぐらを掴む手に力を込める。


ユウは息苦しそうに眉をしかめて顔を歪める。


ヒカルは鼻で笑って首の角度を少し変え

諭すかのように目を細める。


それから

傲然と自信ありげにきっぱりとこう言った。



「悪いけど、おまえの手におえる女じゃないよ。」




本当に修羅場らしい修羅場というか・・・。今でも鮮明な記憶が残っていますね。 書いててドキドキしてました。

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