第161話 複雑な感情の束 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第161話 複雑な感情の束

このタイミングで

ユウと二人きりでいることを

私はまずいと感じている。


おかしな思惑を心の奥に押し込もうと

私は頭を切り替えて世間話をはじめる。


「ユウはさぁ、なんでホストになろうと思ったの?」


それからユウは自分のことを

いろいろと聞かせてくれた。


ユウの実家は千葉の郊外にあり

千葉県内では偏差値の高い私立の高校に通っていたという。


陸上部でマラソンと勉強ばかりしていた高校時代だったそうだ。


彼女は一応いたらしいが

高校時代に付き合ったのはその子一人だという。


友達はみんな大学に進学したのだが

自分は早く社会に出たいという気持ちが強くて

一級建築士の資格を取るために

渋谷にある専門学校に進学したのだそうだ。


下北沢から井の頭線で一駅の

家賃6万5千円のワンルームのアパートに

親から仕送りをしてもらいながら学校に通っている。


渋谷の真ん中にあるその専門学校では

オシャレで遊びなれた今時の東京っ子達に

なかなか馴染めずに

まだあまり友達が出来ていないらしい。


夏休みに入り

いろんな人と知り合ってみたいという好奇心と

人見知りする性格を改善したいという気持ちから

思い立ってホストクラブでアルバイトをすることにしたそうだ。


「へぇ~。 なるほどねぇ。」


私は二杯目のコーヒーを飲みながら

自分の内に沸き起こる感情の整理をしている。


ユウの話を聞きながら

ユウの言葉とユウの今の状態を結びつけて

私なりに像を結んでいく。


ユウは東京に出てきて

その年齢に相応しい好奇心と行動力でホストになった。


ユウは

そこで偶然ヒカルに出会い

刺激的で新しい世界を知る事になる。


ユウにとっては18歳の夏だ。


私が3年前家出をして歌舞伎町に足を踏み入れた時と

今のユウは少なからず似ている状態だろう。


あの時の私は
すぐに夜の歌舞伎町に魅入られ

いずみさんとシャネルとディスコの黒服に憧れて

そしてまだ永遠の愛を信じていた。


ユウもすぐに私みたいに汚れてしまうのだろうか。


あるいは

東京の荒波に呑まれて

いろいろなものを損なっていくのだろうか。


東京の夜の街で生きていく事は

絶えず何かを損い続けていくことを意味する。


ユウはまだそのことを知らない。


屈託のない輝く笑顔と

黒くて曇りのない瞳は

だんだんと色濃い影で満ちていくのだろう。


私はとても切ない気持ちになる。


あの頃の自分とユウが重なって

守ってあげたいという気持ちが生まれる。


とても複雑だ。


私は
ユウの純粋で無垢な部分に嫉妬している。

そしてそれを激しく希求している。

しかし同時にそれを破壊してしまいたいという欲求を持ち

保護してあげたいという切なさを感じている。


「今日はこのまま仕事に行くんでしょ?」


「はい、そのつもりです。」


「12時になったらタクシー呼んであげるね。」


時計の針は10時を指している。

私とユウに残された時間はあと2時間だ。


「ユウは夏休みが終わったらホストは辞めるつもりだったの?」


「最初は夏休みだけのつもりでした。」


「そう・・・。でも今は続けようと思っているのね。」


「はい。学校とバイトちゃんと両立させていこうと思ってます。」


「そうか。」


ユウはわかっていない。

きっとユウは夏休みが終わって3ヶ月以内に学校を辞めてしまうだろう。


そしてこの子は

ホストとして成功する。


たくさんの女達に共有されながら

自信を持ち堂々と歌舞伎町を胸を張って歩けるようになるのは

そう遠くない日だろうと私は想像する。


歌舞伎町は

あいかわらず大口を開けて

若者を飲み込んでいるのだ。


次から次と

飲み込んでは吐き捨てる。


吐き出された時には多くのものが損なわれていて

もう昔の自分には決して戻れない。


言葉にならない熱いものがこみ上げてくる。


「ユウ・・・ホストなんて辞めなよ。」


私はほとんど無意識のうちに

そう口にしていた。



章間の挨拶は飛ばしてキレのいいとこまでストーリーを進行させてしまいますね^^

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