第159話 潮時 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第159話 潮時

ヒカルが出ていった後

私は声を出してワーンと泣いた。


ひとしきり泣いた後

浴衣を脱ぎ捨て化粧も落とさずに

そのままベットにつっぷした。


感情のあらぶりは収まらず

心臓が大きく収縮している。


私は一度ベットから起き上がり

玄関の鍵を閉めチェーンをかける。


携帯電話の電源を切る。


ベットに大の字になって

ヤケクソな気持ちのまま

とにかく寝てしまおうと思う。


途中何度か目が覚めたが

二度寝、三度寝をする。


今まで寝られなかったぶんを

一気に取り戻すつもりで長く深く眠る。


私は半日の間眠り続け

目が覚めた時には幾分気持ちがすっきりしていた。


喧嘩のせいか

寝すぎたからか

あるいはただの二日酔いのせいなのか

体がだるくて倦怠感がある。


ヒカルとこの先どうするのか

考えることが面倒だったけれど

私は思考をそちらに持っていこうと心がける。


落ち着いて考えてみれば

昨日の出来事は別れの決定打という程のことではないように感じる。


ヒカルは確かに無神経だったけれど

きっと私があそこまで怒ったのは

『図星』をつかれて腹を立てるという心理に近かったのだと思う。


ヒカルの悪気なく人の触れて欲しくない部分に侵入してくる性格と

私がAV女優という仕事に持っているコンプレックスのようなものが

衝突することは今後もきっとあるのではないかと予測できる。


ヒカルとの愛を

この先育てていくというモチベーションが

私にはもうあまり残っていないことに気がつく。


ヒカルはいい男だけど

私はあまりヒカルのことが好きではないのかもしれない。


このままズルズルと関係を続けていくよりは

今ここが潮時なのかもしれない。


でも

ヒカルがすんなり別れてくれるとも思えない。


きっとヒカルの魔法の話術で

うまいこと言いくるめられてしまいそうな気がする。


私は大きなため息をつく。


明日の朝まではまだ時間がある。


ゆっくりと今後のことを考えようと思い

コーヒーのためのお湯を沸かし

タバコに火をつけると

インターホンが鳴った。


ヒカルが帰ってきたのだと思い

憂鬱な気分で玄関に向かう。


「・・・はい。」


私は感情を抑えた声を出す。


「まりもさん? ユウです。」


私はドアを開ける。


「どうしたの?」


ユウは

ヒカルのあげたアルマーニのスーツに

カフェオレ色のエルメスのネクタイをしている。


「ヒカルさん電話でないんです。

今日遊びに来いって言われてたんですけど

まりもさんの携帯に電話しても出ないから来ちゃいました。」


ユウはそう言って屈託のない笑顔を見せる。


「あー、そぉなんだ。 ん~・・・ヒカル今いないんだけど・・・」


ユウはキョトンとした顔で私を見る。


「とりあえず、あがって。」


「はい。」


私はユウを部屋にいれた。


「実はちょっと喧嘩しちゃってさ。 今どこにいるかわからなぃんだ。」


「え! めずらしいですね。出勤前には帰ってきますよね?」


「うーん・・・なんか明日の朝には帰ってくるみたいなこと言ってたんだけどねぇ。」


「一体どうしたんですか?」


ヤカンがお湯の沸いた音を立てる。


私はユウにコーヒーを勧める。

ユウは頂きますと礼儀正しく答える。


「そっちに座って待ってて。 ご飯は食べたの?」


「いえ、まだです。」


「んじゃピザでも取ろうか。ちょっとお姉ちゃんの相談にのってよ。」


私はなんとなく

いたづらな微笑みをユウに向ける。


「僕で良ければもちろん。」


ユウはホストになってもう1週間がたつ。


格好だけはすっかり一人前なのに

あいかわらず子供みたいな話し方だなぁと

私はそれを好ましく思った。



暑いですねぇ!毎日グニャグニャに溶けてます。みなさん夏休みですか?楽しんでくださぃね☆

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