病院で毎夜夢見たのは何故か日本食ばかりだった。食欲はあるのに胃腸が大分弱っていたせいか、思うように病院食を食べられなかったのだ。。蕎麦とかうどんとか、豆腐とか納豆とか、そういう日本の日常食が無性に恋しくなった。イタリアに来て以来初めての経験だ。
 イタリア人によく「日本の何がいいの?」と聞かれることがある。ちょっと傲慢な質問だなあと思うんだけど〔例えばスロヴェニア人にこういう質問をされたことは一度もない〕、ある程度意識的にニュースに接している人であれば、日本の住環境のまずさ、無秩序な都市計画、夏場のひどい湿気、極端な労働時間、通勤通学電車の異常な混雑、先進国としては例外的な自殺率の高さ、国民の生活に対する満足度の低さ、死刑制度などについてよ~く知っているからだろう。
 私の答えはいつも決まって「まず食べ物。特に大豆加工品と魚介類。外食も安くて選択肢が豊富。 便利とか合理性を追求するメンタリティも好き。農産物は値が張るけど、本とか雑貨、電化製品、薬は安くて…。」なんだけど、たまに「イタリアにはこんなに色んな食べ物があるのに、それで満足できないの?」と聞き返される。そういう人に世界には多様な食文化が存在して、それぞれが豊かな地理的・歴史的背景を持っているんだよ、と説明するのはとても骨が折れる。外国人のために「日本食」と題され、典型的な朝、昼、晩ご飯の説明が書かれ、オーソドックスな日本食の写真(+簡単な歴史的背景の説明)付きの本でもあれば話は早いのに、と思いながらごちゃごちゃ説明を始める。毎度のことで、本当に面倒くさい。
 日本の食文化で素晴らしいと思うのは、上述したように大豆加工品と魚介類が美味しいこと。朝ご飯の重たさと多様さも個人的には嬉しい。世界中の料理を積極的に取り入れ、楽しもうとする態度にも同調できる。特に中国、韓国、タイ等、アジアの料理を相当なレベルで味わえるのは素晴らしいことだと思う。こういう多国籍料理と日本の伝統料理を料理人の創意で組み合わせる店も気に入っている。
 駅の直ぐそばには保存料を使わない総菜店が、各ブロックごとにはコンビニがあったり、深夜まであるいは24時間開いている店も珍しくない。忙しい生活を支える環境が「イタリアに比べれば」断然整っている。スーパーで手に入るものでは、おつまみ、珍味がとっても美味しい。魚介類の加工菓子なんかはイタリア人の老若男女に軒並み好評だった。あとはせんべいとかの米加工品も日本ならではの多様性。パンや焼き菓子に関してもイタリアよりは日本の繊細さに軍配を上げたい。
 ともあれ、イタリア人に「イタリアでは味わえない喜びも存在するんだよ」ということを納得させるのは非常に難しい。