怖い夢を見た…。
うす暗くて鼻を突く悪臭が漂う部屋の中、
たくさんの小さな檻が積み重なっている。
その中になんだかよくわからない塊がいた。
何だろうと恐る恐る近づくと、その塊が
ビクッと動いた。
よく見ると、その塊には目があった。
耳や鼻らしきもの、そして尻尾まで…。
塊はわたしと同じ姿をしていた。
でもその目には生気がない。
わたしをじっと見つめているけど、
その目は見えているのか？
全身毛玉だらけ、糞もこびりついたまま
固まっていた。
檻の中には水も食べ物も何もなかった。

「ねぇ、あなたは生きているの？」

思い切って話しかけてみた。
一瞬首を持ち上げ、それから塊はかすれた
声で、吐き棄てるように言った。

「誰だい？
せっかくいい気分でまどろんでいた
ってのに。
生きてるかだっで？
ここは地獄、生きてるのか死んでるのかも、
もう忘れちまったね。」

塊の放った言葉に一瞬怯んだけど、
わたしは続けた。

「どうしてこんな所にいるの？」

塊はしばらく目を閉じたまま動かなかった。
それから、ゆっくりとわたしの方を向き、
意を決したように話し始めた。

「私はペットショップで売れ残ったのさ。
　売れ残りは邪魔なだけ…。
　結局、繁殖屋に安く叩き売られた。
　それからは地獄の日々。
　何度も子供を生まされたよ。
　そして子供は、すぐに取り上げられた。
　その繰り返しで、外に出してもらった
　こともない。
　病気になったって、怪我をしたって、
　そのまま…。
　食べるものもろくなもんじゃなかった。
　たくさんの仲間たちが死んでいった。
　死ななきゃ外に出られないんだよ。
　酷い話だろう？
　でもそれが当たり前なんだ…。

　それがある日、私は外に出られることに
　なったんだよ。
　なぜなら私は、ばあさんになって子供を
　産めなくなったから。
　繁殖屋にとっては私はもう用済み、
　そこで引き取り屋というやつに私を渡す
　ことになったのさ。
　それでここに来たんだよ。

　ここは繁殖屋と同じ、場所が変わっただ
　けで、地獄は続いた。
　だから私はね、
　ただひたすら天国へ行ける日を夢見てる
　んだよ。
　ただただ、じっとその日を待ってる。
　だって天国に行かなきゃ自由にはなれな
　いからね。

　でもね、今は夢の中で自由に野原を走り
　回ったり、お腹いっぱい美味しいものを
　食べてるよ。
　それから夢の中では子供たちとも一緒に
　いられるんだ。
　私の回りにまとわりついて、それがまた
　可愛くてね。
　だから眠ることが唯一今の私の楽しみな
　んだよ。

　ところであんたは今、幸せなのかい？
　ふーん、そうか、幸せなんだね。
　目はほとんど見えなくなったけど、
　あんたはいい匂いがする。
　鼻はまだ多少効くのさ…。
　私の子供たちも、あんたみたいに幸せに
　なれているかしら。
　私のようにだけはならないで欲しい。
　夢に出てくる子供たちも、あんたと同じ
　いい匂いがしてるから、きっと幸せに違
　いない…。
　そう信じているよ。」

おばあちゃんはそこまで一気に話すと、
ふーっと深いため息をついた。

「ちょっとおしゃべりし過ぎて、
　なんだか疲れたよ。
　さぁ、あんたもそろそろ帰りな。
　長居すると引き取り屋に見つかるよ。
　あいつは恐ろしいんだ。
　捕まったら、あんたもここに閉じ込めら
　れちまう。」

ギィーッ‼︎

扉が開く音と共に急に明るい光がわたしを
照らし出した。
と、同時に部屋に入ってきた大きな黒い影が、
振り返ったわたしの方に無造作に手を伸ばし
てきた。

捕まる‼︎

そう思った瞬間、目が覚めた。

夢の中であのおばあちゃんが言っていたこと
は本当だろうか。
どうしてあんな夢を見たんだろう。
ふと、わたしを生んでくれたお母さんのこと
を考えた。
あれはもしかしたら、わたしのお母さん？
お母さん、夢でわたしに会いに来てくれたの？
お母さんのように苦しめられている仲間たち
のことを知らせたかったんだね。
そう思ったら切なくなって泣けてきた。

お母さん、今頃は天国で自由になれたのかな。
幸せになれたのかな…。

今朝の青空はいつもと変わらず、どこまでも
青く澄み渡っている。
そんな青空を眺めていたら、空の向こうから、
やっと安らぎと自由を取り戻すことができた
お母さんの、穏やかで優しい声が聞こえたよ
うな気がした。

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悪徳繁殖屋、ペットショップでの生体販売、
そしてこの引き取り屋という、ペット業界の
闇を失くしたい。
そのためには、この現実を多くの人に知って
もらうこと。
そしてペットを飼う側の人間に考えて欲しい。
命の大切さ、尊さを…。

夢の中だけの自由