何かに行き詰ると、過去に読んだ本を片っ端から
読み直して立ち上がりのきっかけをつかもうとする、
そういう心理的な傾向がぼくにはあります。

今日は気が付くと『日本永代蔵』(井原西鶴)などという
古めかしい本を手にとっていました。
何か心に引っ掛かる言葉がここに書かれていたような
気がしたのですが、よく考えると、これって、
江戸時代に書かれた「ビジネスで成功する秘訣」みたいな
本だったんですよね?

西鶴によると、金持ちになるための秘薬「長者丸」は
次のような成分からなっているそうです。

△早起き五両△家業二十両△夜なべ八両△倹約十両
△健康七両、あわせて五十両を粉に砕いて秤にかけ、
念入りに調合して朝夕飲めばよい。

しかし、それだけではまだダメで、ほかに「毒断ち」を
しなければならない。断たなければならない毒とは、

●美食と好色と絹物のふだん着●鞠、香会、俳諧、連歌
●座敷の普請、茶の湯道楽●花見、船遊び、昼風呂
●夜歩き、博打、囲碁、双六・・・

等々だそうで、何だか今読み返しても、自分のことを言われて
いるようで、思わずドキリとしてしまいます。

ただ、ぼくが学生時代のぼくがこの本から受け取った
メッセージは、こうした個々の言葉ではなく、
必ずしもどこかに明言されているわけではないのですが、
相反する二つの価値に出会ったときにどう対処するか
についての西鶴のアドバイスでした。

ぼくなりに解釈すれば、彼はこう言っています。
「相反する価値を巧みに処理するにはどうすればよいか。
まず、どっちかにすっぱりと割り切ってしまうことだ。
次に、割り切った以上は、切り捨てたものに未練は残さない。
つねに現在に生きることが大切だ」

とても簡単な方針のように聞こえます。
しかし、どちらかにすっぱり割り切ることが、
実はどれだけ難しいことか、また切り捨てたものに
未練を残さないことがどれほど実行困難であることか、
ぼくはその後の人生でイヤというほど学びました。

おそらく、それだからこそ、今回も『日本永代蔵』が
ぼくにとって何かの意味をもって立ち上がって来たに
違いありません。まさか、株式投資の指南書として
西鶴を読み直すことになるとは思っていませんでしたが、
古典とはそういう読まれ方にも耐えるものなのでしょう。

「生あれば食あり、世に住むからは、
何事も案じたるが損なり」 (井原西鶴『日本永代蔵』)


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