「あのさ、広瀬と加藤さんって付き合ってるの?」
「えっ?さぁーどうかなぁ。わかんないけど」

あたしは一生懸命知らないフリをする。

「昨日の態度と全然違うと思わない?」
「うーん。どうかなぁ」
「広瀬って何でも早いからなぁ」
「そうなの?知らなかった」

何でも早いのかぁ。
いいような悪いような・・・

「まぁ、良かったよ」
「良かった?何が?」
「・・・高田さんとこんなに話しできて良かったよ」
「っ・・・」

あたしはつい、無言になる。

だって。
急にそんなこと言われたら。
びっくりしちゃって何て言い返せばいいかわからないよ。

「昨日まで話を避けられてる感じがしたから。今日、こんな普通に
 話できるなんて思ってもなかったからさ」
「・・・」
「ねぇ、ひとつ、聞いていいかな?」
「・・・うん。良いけど」

何故か胸の鼓動が高鳴る。

「どうして俺の事、避けてたの?」

やっぱり。
やっぱりこの事を聞いてきた。
言えないよぉ。

あたしの事を意識してるように見えたなんて。
言えるはずがない。

そんな困ってるあたしの姿を見て。

「言いたくないなら良いんだ。ごめん。困らせる事聞いて」
「ううん。こっちこそ、答えられなくてごめん・・・」
「でも俺、高田さんとちゃんとした友達になりたいんだ。
 なんか、変な言い方だけど」

友達になりたいからこちらを見てたんだろうか。
よくわからないけど、そういう事だったなら、ちょっと嬉しいかも。

「うん。わかった。良い友達になろうね」
「ありがとう。嬉しいよ」
「こちらこそ」

そう言って、怖さがなくなったのか。
にこっ。
お互いの笑みを見詰め合う。

怖い人と思ってたけど。
もう大丈夫かも。

それにしても。
やっぱり仲居くんって格好良いなぁ。
あの笑顔だって。
ずっと見てるだけでも。
頬が赤く染まっちゃいそう。

「ただいまー」

後ろから美恵ちゃんの声が聞こえる。

「恵利菜ちゃんも洗ってきなよ。すっごく気持ち良いよ」
「うん、ありがと。あたしは美恵ちゃんが起きる前に洗っちゃったから」
「そうだったの?それで顔がきらめいてるわけね」
「ふふ。そういうこと」

トントントン。
入り口のふすまを叩く音が聞こえる。

振り向いてみると、担任の先生が立っていた。

「朝の集いの時間だぞ。早く起きて外にでておけよー」

そういうと、先生はこの部屋を出て隣の部屋へ向かっていった。

「もぅー。うっせぇなぁ。やっと寝付けると思ったのにー」

広瀬くんが布団から出てきた。

「やれやれ。着替えるか・・・」

ブツブツ言いながら着替え始めた。

「んじゃ、俺も着替えよっと」

そういって仲居くんも着替え始める。

周りを見ると、他の男の子も着替え始めていた。

「恵利菜ちゃん、男の子たちが着替えるみたいだから、あたしたちは外に出てよ」
「うん」

美恵ちゃんが急に振り返って。

「広瀬くん」

美恵ちゃんが広瀬くんを呼ぶ。

「ん?どうしたの?」
「みんな着替え終わったら言ってよね」
「ああ、わかった」
「じゃあ」

そういって、あたしたちは部屋の外に出ると。

ポンッ。
肩を叩かれた。
振り返ってみると、朝洗面場でお話した男の子が立っていた。

「よ、まだ外に出ないのか?」
「うん。まだ着替えてないから」
「そっか。じゃあね」

そういうとあたしに背を向けて外に出ていった。

あっ!
また名前聞くの忘れた。。。
忘れがちなあたし。
またあった時に聞こっと。

・・・
ちらほらと男の子が部屋を出て行く中。
あたしたちはみんなが出て行くのを待つ。

その間美恵ちゃんと楽しくおしゃべりしていると、
ようやく広瀬くんが出てきた。

「おっす。もういいぜ。着替えなよ」
「わかった。ありがとう」
「じゃあ、先に行ってるから」
「うん。後でおいかけるね」

そう言うと、外に出て行った。

あたしたちは部屋に入り、着替え始める。
他の女の子たちも部屋に戻ってきて、着替え始めた。

「あ、ねぇねぇ。美恵ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「あたしさぁ、男の子とお話するの。少し慣れてきたみたい」
「やったじゃん。よかったね」
「うん、ありがと。これも美恵ちゃんのおかげだよ」
「あたしまだ何もやったつもりないけど」
「美恵ちゃんが一緒にいてくれるだけで心強いよ」
「そっか。それなら良かったよ」
「うん」

みんな急いで着替え終え。

「さて、いこっか」
「うん」

あたしたちは外に向かった。


・・・
朝の集い。
ラジオ体操して。
今日の予定を先生から改めて説明される。

今日の予定は、まず朝飯を取って、その後講義。
講義って言うのは、簡単に言うと学校の説明みたいなもの。
その後は昼飯。
昼食をとった後はハイキング。
それが終わったら夕食。
その次は映画鑑賞。
そして最後の締めにメインイベントのキャンプファイヤー。

以上。
今日は結構色んな事があって大変そうな一日。
でも、がんばんなきゃ。
ねっ。

・・・
朝食をとって、オリエンテーションホールで講義を受ける。
すごくつまらない。

うとうとしているうちに終わり、時計を見るともう11時。
講義が始まったのは9時ごろだから、2時間位講義していたことになる。

その後に昼食をとって、今からハイキング。
行き先は、永楽ダム。

ハイキングにダムは似合わないと思うけど。
文句を言っても仕方ないし。

ちゃんとグループ行動しなきゃね。

「じゃあ、出発するぞー」

先生の合図とともに、みんなが歩きだす。

「恵利菜ちゃん」
「ん?」

振り向くと、美恵ちゃんと広瀬くんと仲居くんがいた。

「美恵ちゃん、一緒に行こうよ」
「うん。あたしは恵利菜ちゃんを誘いに来たんだけど」
「あら。じゃあちょうど良かったね」
「よう、高田さん」

仲居くんが話しかけてきた。

「あっ、うん」
「加藤さんがこっちに来いって言うから来たんだけど、
 高田さんも一緒になる予定だったのね」
「そうだったんだ?」

美恵ちゃんの方を見ると。
あたしに向かってウィンクしてきた。

これが美恵ちゃんの言っていたチャンスってやつ?

今こうやって友達として仲居くんを見ると。
やっぱり格好良くていい人にも見えてくる。

今考えると。
あんな風に迷う事なかったのに。
もっと早くから、仲居くんとおしゃべりしてたら良かったって感じちゃうなぁ。

「高田さんってばっ」

ハッ。
妄想の世界から現実の世界へと帰って来る。

「あ、ごめん。何?」
「加藤さんと広瀬が何か忘れ物したらしくて、一旦戻るってさ。
 後でおいかけるから先言っててだってさ」
「あ、そうなんだ。全然気付かなかった」
「加藤さんが高田さんにさっき言ってたじゃん」
「えっ?そうだっけ?」
「全然聞いてなかったんだなー」
「うん。ちょっと考え事してて」
「ふぅ。なるほどねぇ。たとえば、恋の悩みとか?」
「えっ」

一瞬息がつまっちゃう。
見破られてる?
なんで?
まだ何も言ってないのに。
妄想を思い出すとあたしの頬が少し赤く染まる感じがした。

そんなあたしを見て。

「ははーん。的中したかなー?」

仲居くんがあたしをおだてる。

「そっそんなんじゃないもんー」
「へぇー。じゃあ、何考えていたの?」
「別に何だっていいじゃない?仲居くんには関係ないもーん」

あたしはムスッとした顔で横を向く。
すると、仲居くんが鼻で笑って。

「じゃあさ」
「・・・なに?」

一呼吸おいて。

「もし関係があったらどうする?」
「えっ」

まさか。
あたしの考えている事がわかったの?
どうして?

「なーんてね。冗談、冗談」
「もうー。冗談きついんだからー!」

何とかごまかせた。
・・・


いまの。
本当にごまかせた事になるのかなぁ。
さっき、言葉つまっちゃったし。

もしかして。
バレたかも。。。

あたしって、本当の事を攻められると答えがつまっちゃうから。

「ねぇねぇ、高田さん」
「ん、何?」
「みんなに何て呼ばれてるの?」
「あたしは、まちまちだけど、恵利菜ちゃんって呼ばれるのが多いかな?」
「ふうん、そうなんだ。じゃあさ。俺もその呼び方して良いかな?」
「あっ、うん。別にかわまないけど」
「じゃあ、今度からそう呼ぶね」
「うん。仲居くんは何て呼ばれる事が多いの?」
「俺?俺は下の名前が尚希だから、"尚希"でいいよ」
「そっか。じゃああたしも今度からそう呼ぶね」

そっか。
尚希って言うんだ。
良い名前。
それに。
格好良いし、声も落ち着いた感じで聞いてて何だか落ち着く。

今思ったら、もっと早く仲良くなってれば良かった。

・・・
はっ!
あたし。
もしかして・・・

好きになってる?
うそー。
そんなこと。。。

本当に・・・
本当?

もしそうなら。
この感じが。

"恋"って言う感じなの?

なんか。
話してて楽しいし、いつまでも側にいたいって感じ。

ううん。
それだけじゃない。

多すぎて上手く表現できないけど。

あたしの初恋の人は。
仲居くんだったなんて。

思ってもいなかった。



続く