エマニュエル・パユの 無伴奏リサイタルを聴いて | 岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

フルート奏者 岩下智子が綴る気ままな日記です。

 こんにちは、フルーティストの岩下智子です。
一昨日、われらのスーパースターであるエマニュエル・パユのリサイタルを聴いてきました。(2022.7.11. 東京オペラシティ コンサートホール)


 パユが無伴奏でリサイタルをやるのは、今回で3回目で、プログラムはテレマンと現代曲を交互に紡ぎながら全11曲、それぞれの空気感を変えての渾身の演奏でした。パユは年齢を重ね、何かもう俗世界から超越した高いところに位置してるようでした。


 パユは、6つのテレマンをバロックスタイルの範囲内ではあるものの、意図的かわかりませんが、他の激しい現代曲との対比として聴く人が安心するように大らかに自由に歌い込み、現代曲は、ブーレーズ(1985)を筆頭に、パユと同世代の作曲家たち、モンタルベッティ(2019)、マヌリ(2020)、デスプラ(2018)、ジャレル(2020)がここ4年ほどの間に書いた委嘱作品の数々で、現代奏法がふんだんに取り入れられ、パユのパワーやテクニックによって、華麗に光を発していました。

 去る5月28日にパユがベルリンフィルで演奏したトゥール作曲の《フルート協奏曲》も狂気の沙汰のようにハイテクニックな現代奏法の連続で、さすがのパユでも相当苦労したとインタビューで言っていましたが、今回の無伴奏の現代曲でもパユの力量には超人的なものを感じずにはいられませんでした。まさに "キング of フルート"のパユは健在でした。新型コロナ感染というパンデミックの最中に、パユは新しいことに挑戦し、アフターコロナのために充分に準備していたということです。


 果たして、これら新曲の何曲が未来のフルートのレパートリーとして残っていき、世界中のフルーティストが演奏するようになるか、楽しみでもあります。その点においても、パユのやっていることは偉業だと言えるでしょう。個人的には、激しさと優しさが音のパレットのように混ざり合うマヌリとデスプラが気に入りました。私もいつか演奏してみたいと思います。



 さいごに、曲間の拍手については、本人曰く、「雰囲気によって、あったりなかったりしていて、それはそれでよかった。」とのことです。(終演後の本人談)