女神が蒔いた夢の種 | ✧︎*。いよいよ快い佳い✧︎*。

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主人公から見ても、悪人から見ても、脇役から見ても全方位よい回文世界を目指すお話

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 ある時代、広大な宇宙のあるところで、碧く輝く美しい星が、砂漠になろうとしていました。

 このままでは、わずかに残るオアシスも、緑も生き絶えてしまう。
 その様子を見ていた女神は胸を痛め、様々な光と共に懸命に尽くしましたが、どうしても間に合いません。


(――なんとかしなければ)


 仲間たちはそれぞれに思案し、形を変えて大地に下り立ちました。
 そして女神もまた、ひとつの決意をしたのです。

 かつては誰の目にも映った姿は、今や捉えるのが大変難しくなっていました。

 目に見えないものは存在しないと思われる時を重ねれば重ねるほど、女神の力もまた、届きにくくなっていったのです。

 そして、もはや手立てはこれしかないと下した決断でした。

 自ら愛の種となり、砂漠が広がる大地を、再びキラキラと瞬く碧の星に戻すことを。



 ひとしずくの水が、蒸発してなるものかと堪えているその場所へ、女神は安心させるようにそっと我が身を任せました。

 一筋縄ではいかないと覚悟をしていたはずでしたが、想像以上に、過酷な状況になっていました。

 女神は、今はとても小さな種。
 枯れてしまわないよう、必死で生き抜くだけで精一杯です。

 この世界を、もう一度大いなる愛で満たすのだと、その胸に抱き締めて来た願いだけが、女神を奮い立たせてくれました。

 小さな風にすら吹き飛ばされそうになりながら、それでも何とか芽を出し、少ない恵みの雨に感謝しながら背を伸ばし――ようやくの想いで、気が遠くなるほどの時間をかけて、女神は一本の木になりました。

 ですがその頃には、女神の強靭な意思も弱り、体力も、心の余裕もなくなりかけてしまっていたのです。

 形を持たずに、女神として働いていたときには無縁であった苦しみ。
 身動きが取れず自由もなく、辺りは渇いた砂ばかり。

 仲間であった自然や、天の家族に話しかけることも忘れ、何故自分がここにいて立ち続けているのか、その意味も見失いかけていました。

 涙を流そうにも、水分が枯渇したその身体は、それすらもできません。

 小さな小鳥が枝に止まり羽根を休め、そして旅立っていったとき、女神はついに、もう駄目かもしれないと思いました。


(どうして、私を置いて行ってしまうの)


 疲れたときに自分の元にやって来る者しかいない、と。

 そして同時に、そのために自分はここに来ることを決めたはずなのに、それをこんな風に思ってしまうなんてと、自分を信じられなくなったからです。


 いっそ倒れてしまったら楽になれるだろうか――。


 限界を迎え、目眩を覚え出す脳裏に過るのはそんな気持ち。


 これまで、3度に渡る落雷にも耐えました。

 身体の中は黒く焦げ、ヒビが入り、そのたびに命が消えそうになりました。

 それでも、生き抜いて来ました。
 何故なら、ここで負けるわけにはいかなかったからです。

 そんな辛い状況ですら根をあげたりはしなかったはずなのに、今は自分に挫けてしまいそうになっている。


 けれどこの想いに呑まれても、決して楽にはなれないこと、一番悔やむのは自分なのだとわかっています。


 どうすることもできない、どちらを選ぶこともできない矛盾と葛藤の狭間で、女神は自問自答を繰り返しました。




 ――何のためにここへ芽吹いたの。

 それは、砂漠と化した大地に、諦めずに生きようとする命のために。

 ――あなたは何になりたいの。

 それは、大きな、大きな木に。
 希望の象徴として、母なる懐として、愛を広げる原点としてそこにいたいから……


 そう、この碧く美しい星を、本来の愛の光で満たし、幸せの花を咲かせるまでは――


(私はまだ、役目を果たしていない!)


 女神が自分を取り戻すと、大地が震えました。


――もっと、もっと、根を下に降ろしてください――


 声が聞こえます。
 女神にはわかっていました。

 砂に覆われた表面は乾ききっていますが、地中深くにはまだ水があるのです。

 最初から知っていたことでした。
 だからこそ、この世界はまだ大丈夫なのだと希望を持っていたのです。

 そしてこれもだからこそと、その貴重な水を吸い取るわけにはいかないと、申し出を拒み続けてきたのでした。


 ――あなたは、この世界に使命を持って来られたのではありませんか。


 そのためには、大きな大木には、それだけの、たくさんの水が必要なのです。

 ですからどうか、協力させてください。

 そして叶えて。

 あなたの夢を――。


 女神は、この水を……愛を受け取ろう、そう思いました。

 ありがとう。

 何度も感謝して根を降ろし、元気とパワーを取り戻していきます。


 

(どんな嵐にも、想像を絶する寒さにも、焼けてしまいそうになる暑さにさえも、私は負けなかった!)


 全ては、大切な命を護りぬき、笑顔に変えたいという一念があったからなのです。


 愛は、減ることのない無限の泉。

女神は、身体の隅々に行き渡る恵みを感じながら、思い出しました。


 女神の体内に入りこんだ愛はやがて、女神の持つ本来の力を目覚めさせ、青々とした葉となり、いくつもの枝に分かれ実をつけて、多くの生き物の糧になっていったのです。


 自らが幸せに満たされることで、成長は留まることがありません。

 まだまだ、女神は大きく、強く、偉大な大木になることでしょう。

 この場所から、女神の夢は世界へ広がるのです。




 何せ、これは女神が変身した魔法の木。

 願えばどんな奇跡も起こるのですから――。