太陽の願い | ✧︎*。いよいよ快い佳い✧︎*。

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主人公から見ても、悪人から見ても、脇役から見ても全方位よい回文世界を目指すお話



それははるか昔。



天高くまぶしい太陽は、長い間ひとりぼっちの時を過ごしたことがあります。

友達が欲しくて、誰かに笑いかけて欲しくて、いつも一生懸命話しかける日々。

でも、そんな太陽は言いました。



「わたしが傍にいると、みんなが苦しい、辛いと言って離れて行ってしまうのです」

太陽の身体は、いつも大きな炎に包まれていて、誰ひとりとして近寄ってきてはくれません。

大切な人をみな、焦がしてしまうほどの強さを持っていました。

どんなに孤独が寂しく、その手を取って欲しいと思っても、太陽のその願いは叶えられないのです。

広く大きなあの海でさえ、太陽が近づけば全ての水が乾いてしまうからです。




大好きな動物たちも、愛でていた花も、みんなみんな。

そんなこと望んでなどいないのに、苦しめてしまう。

だから太陽は、どうしたらこの自分の身体を纏う、忌々しいとさえ感じる熱さを消すことができるのかを、

何度も考えて、そして自分のことを責めては泣きました。

どうしてこんな姿に生まれてきてしまったのだろうと嘆きました。

ところが、太陽が涙を流すと、その涙は膨大な量の雨となって大地に洪水を作ってしまい、

太陽は、自分は泣くことさえも許されないのだと、絶望してしまったのです。





唯一、最も近くでその様子を見ていた雲は、気の毒に思い、そんな太陽を隠してくれました。

何日も何日も、太陽は誕生したことさえ悔やみ、自分を責め続けていると、星々は言いました。

「ねえ、太陽さん。もう少し、離れてみんなを見てごらん」

そして、庇うように広がっていた雲に、道を開けるように伝えました。

太陽は、言われるままに、そっと距離を離し、かたくなに瞑ったその目を開けました。




すると――。





「あなたの目に、どう映っている?」

くすりと笑って、太陽に訊ねました。

驚くことに、雲の隙間から漏れ出した光に向かい、たくさんの命が空に向かって両手を広げています。

何日も太陽の陽射しが届かず、しわしわになっていた草花はみるみる元気を取り戻し、緑が青々と光り輝き、嬉しそうに駆け回る動物たちの姿が見えるではありませんか。


「あなたという存在が、どれほど大きなものか。命が生まれ、育むためにどれだけ必要な存在かわかりますか」


信じられない光景に言葉も出ない太陽に、星は語りかけました。

それは、地球でした。

「あなたが温かな陽射しをこうして注いでくれるおかげで、みなが気づくのです。自分の中に、どれほど果てしない可能性が眠っているかということに。そして、やっと芽生えてゆくことができるのですよ」


地球は、感謝していますと言ってくれました。

そして、耳を澄ませれば、小さな声で大地からも聞こえてきます。

”ありがとう”――という声。

これまでは、あまりの悲しみとショックで、届いていなかっただけでした。

近すぎて自分の大きさもわからなくなり、その意味さえも見失っていましたが、太陽はただの一度も、孤独になったことなどなかったのです。





――そして、今の太陽は。希望に満ちて自分という存在をめいっぱい表現しています。

実は、ただそれだけです。それだけで、十分なのです。

だから、あなたがいるからみんなが助けられていると言われるたびに、首を振りました。

「わたしは、ほんの小さな手助けをしているだけです。私の光があたれば、目覚めることはできます。でも、その後彼らは自分で見つけますから。自分の心の中にある光を。その原石にたどり着けば、あとはもう大丈夫。わたしの力がなくても、ちゃんと自分の力で光り出します。わたしは、きっかけに過ぎません」



それはどんなに真っ暗な夜であっても。

お月さまは、あなたがいないと輝くことができませんと言いますが、それも違うのだと太陽は言います。

太陽の光を受けてお月さまはその姿を夜空に見せているのだと思っていました。

けれど、どんなときでも心はいつだってあなたを見ている、愛しているんだよということを伝えたい太陽の想いを知り、お月さまが快く協力してくれたことが始まりでした。

お月さまのおかげで、太陽の光はとても柔らかく、優しいものになってくれたと喜んでいるのです。




自分を消してしまいたいと嘆いたあの瞬間。

もしも、自分の姿を変えてしまっていたら、否定し続けていたなら、今の太陽はなかったでしょう。



次々に自分の中の価値に目覚めてゆく命はとめどなく、太陽に喜びを与えくれました。

栄養たっぷりの大地から芽が出て、花が咲き、木々が育ち、小鳥が舞い、人々がほほ笑む。

それぞれが選んだ生き方を受け入れ、そして許しあっています。

太陽とみんなの距離は遠くなっていますが、決して離れてなどいないとわかりました。



全てがひとつなのだと。繋がっているのだと知りました。






嘆いて起こしてしまった洪水は、その後、大いなる広い森を生み出しました。

苦しかったあのときの出来事さえ、間違ったこととして起こってなどいなかったのです。

太陽は、幸せを抱きしめて毎日輝いています。

多くの光が地上から太陽に向かって放たれると、太陽は嬉しくて涙を流します。

でもそれは、大嵐となり洪水を起こすものではありません。


美しい、七色の奇跡を描き、空いっぱいに”ありがとう”と伝えられる、虹となり、

あなたの元へ届けられます。

あなたのおかげで、今日もわたしは幸せですと、最高の笑顔を添えて。




「わたしは、陰ひなたなく全てを照らしたい。けれど、どうしても届かない場所もあります。だから、呼んで欲しいのです。わたしは、どんな声も決して聞き逃したりはしませんから」


分け隔てなくありたいという太陽の願いは、自分ひとりでは叶えられないと言います。

だからこそ、嬉しさの涙で出来上がる虹は、あなたへの感謝状なのでしょう。

地球は、そんな太陽にそっと教えてくれました。



「知っていますか? あなたが初めて自分の素晴らしさを見つけたあのとき、雲の隙間から漏れたあなたの光のことを、人々が何と言っているのか」




冷たく、真っ暗な世界に変わり果ててしまった絶望の中。

差し込んだいくつもの光――溢れ出したあの愛を、




”天使のはしご”と、呼んでいるのですよと。


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