中華の足跡・改

中国から帰り、北海道に暮らしつつ、台湾とつながる生活。

マジメな話からくだらないネタまで、国籍・ジャンル・多種多様。

いざ、情報発信~!


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最終公演は。

全員が舞台慣れしたこともあったし、何よりも最後に最高の作品を、という思いが結集し、集中力が最大限に発揮された渾身の演技を披露した。細かいミス等もほとんどなく、これまでの準備期間で費やしてきた努力の集大成が、舞台上で繰り広げられたのだった。

完全燃焼できたぜ――と、徹司はそう思う。

だから。

全てが終わり、舞台裏に下がって、「終わったぁ――」と両手を広げて目を閉じたのは、純粋な喜びによるものだった。

結果はどうなるかわからないが、徹司自身は、出来ることはすべてやった。やり尽くした。

――今は、胸を張ってそう言える。

「お疲れさまっ」

朋子が、笑顔で徹司に話しかけてきた。

「お疲れ、トッコ」

徹司もにこりと笑う。

「よかったよね、最後の。本当に」

「ああ。完璧だった、と思うよ」

そこへ、近くにいた麻弥が、

「私も、今のはすごくよかったと思う。これ、アカデミー賞いけるんじゃないかな」

と言う。

いつもは落ち着いた口調の麻弥だが、さすがに少し興奮したような口ぶりになっている。

「俺も、同感」

と賛同したのは、やはり近くにいた西崎。

徹司が口を開こうとした時、

『間もなく閉会式が行われます。各クラスとも、後片付け等は一旦中断し、体育館に集合してください。繰り返します……』

アナウンスが入った。

「さあ、どうなるか」

古兼が、天井を見上げてつぶやいた。


閉会式ということで、生徒が集まった体育館は、熱気に満ちていた。

否、盛り上がっているのは三年生のクラスだけ――更に言うなら、演劇に挑んだクラスだけかもしれないが。

やりきった充実感はどのクラスも同じく抱いているのだが、結果がどのようになるかはまた別に気になるところなのである。

「それでは、表彰を始めます」

文化祭実行委員の声が響いた。

ざわめいていた体育館内が静まり返った。

まずは、展示部門、飲食店部門といったあたりから、表彰が始まる。

一番の盛り上がりを見せる演劇部門は、当然のように最後となっている。

その一つ前に娯楽部門の表彰があったのだが、娯楽部門最優秀賞を獲得したのは、3-Bの人形劇だった。

人形劇は演劇ではなく娯楽、と見なされたらしい。

当のB組からは、若干ヤケっぱちな歓声が上がっていた。


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この日のA組の公演は、一回目が12:30~となっている。一昨日とは違い、いささか心理的に余裕の出てきた徹司は、開場中のトレーニングルームの入口付近に立って、客の入りを眺めていた。

何人もの知り合いや、部活の後輩等もやってきて、徹司と言葉を交わしていく。無責任な激励の声が多い。徹司も、自然体で応じることができるようになっていた。

しばらくすると、客の中に徹司の両親の姿が見えた。家族旅行をすっぽかしてまで取り組んだ演劇の成果を確認しに来たのだろうか。

さすがにこの場で両親と会話はしたくなかった徹司だったが、その辺の機微は征司も朝子も心得ていたらしい。征司が軽く徹司に片手を上げて合図を送っただけで、客席へと歩いていった。

気持ちのいい天気ということもあるし、三連休の最後の日、ということもあってか、客席は一昨日に比べるとかなりのにぎわいを見せていた。校外の一般人らしき客も多い。

今日も楽しく行こう、との遅坂の言葉に見送られて、芝居はスタートした。

この回の上演は、気が抜けていたわけでも舞い上がっていたわけでもないのだろうが、台詞等の細かなミスがやや多かった。が、役者全員がしっかりと自然にフォローができていて、リズムが非常にいい。

客席からの笑い声も、一昨日よりもはるかに大きく響いて、それが役者たちをさらに気分よく演じさせるという作用も働いたようだ。

徹司も、汗だくになりながら、雷太を演じきった。

カーテンコールで拍手の喝采を浴びながら、徹司は三度目の充足感を覚えながら客席に頭を下げていたが、この時点で既に、次でもう最後か――という感情が芽生えていた。

この日の二度目の公演は14時からなので、ほとんど間がない。そのほうが案外、気持ちが切れずにいいのかもしれないが。

徹司は舞台裏に下がると、すぐにジャンパーを脱いだ。すぐ下はTシャツしか着ていないが、この時期にジャンパーと野球帽というファッションはさすがに暑い。それほど汗かきでもない徹司だが、すでにかなりの汗が流れていた。

手早く汗をふき取って、次の公演のシーン1に備えて、衣装係お手製の黒装束に着替えた。実はこの装束、かなりのお気に入りになっていたのだった。

「おう、がんばってるな」

そういって舞台裏に顔を見せたのは、担任の小原だった。

「さっきの舞台見たけど、声も出てるしテンポもいいし、かなりいい具合だったぞ。この調子で、最後もがんばってくれよ」

「はい!」

役者たちの返事がそろった。普段よりもみんな、威勢がいい。ただでさえテンションがあがっているところに、次が最後――という別の興奮要素が加わり、一種の躁状態のようなありさまである。

観客が入ってきていなければ、大声で気合の声でも入れたいところだが、そうもいかない。

みんなの視線が何となくさまよい、結局遅坂に集中した。上演前はやはり演出の一言、というのが、一番しっくりくるのかもしれない。

「え、俺?」

視線に気づいた遅坂は、一瞬たじろぎを見せたが、すぐに立ち直った。

「えー、では一言。――もうすぐ、最後の公演が始まります。泣いても笑っても、これが最後です。ここまでもすごくよくできてるけど、最後に一つ、完璧なヤツを見せてやりましょう!」

ありきたりの言葉にこめられた強い気持ちは、全員の心に素直に響いた。

役者たちは一斉に頷くと、それぞれの持ち場に行き、スタンバイした。

照明が落ち、会場が暗闇に包まれた。

最後の幕が、静かに上がった。

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普段は基本的に祝日も出勤なのだけれど、いろいろあって、今週の月・火曜と、休みをもらえることになった。

そして、一週間ほど前にふと気が付いたのだが、西武ライオンズのファン感謝デーが、まさにこの火曜日、23日。

これぞ天が与えたチャンス。

こんな機会はそうそうあるもんじゃない。

いざ所沢へ。


月曜の午後、相方とともに東京へ飛び。

池袋で友達と会って中華を食って、栄養補給。

そして火曜日の朝、西武ドームへ向かう。

池袋から電車で約40分というところである。


開場は9時からということになっている。

朝は雨が降っていたこともあるし、それほど混雑もしないかなぁと思い、8時20分くらいに球場に着くように行動したのだが。

どうにも甘かったようで、到着時には大混雑。

驚きだ。


この、ファンフェスタ。

ライオンズの場合は、西武ドーム、及びそれと隣接する第二球場、室内練習場、球場前広場、駐車場等を含めたエリアで各イベントやアトラクションが行われる。

グラウンドも解放されて、外野エリアは自由に歩き回れる。

ベンチやヒーローインタビュー台で写真撮影もできる。

トークショーやステージショーもあるし、アトラクションは選手たちと一緒にブルペン投球、ノック、トスバッティング、盗塁などなど、盛りだくさん。

ショップでも様々なグッズが販売されるし、限定商品ももちろん登場。食べ物も、今シーズンたくさん登場した選手プロデュースグルメも一堂に会する。

ファンにはたまらない空間である。



中華の足跡・改-フィールド 外野フィールド。


中華の足跡・改-ショップ どこも長蛇の列・・・。

俺らは。

まずは数量限定の福袋を買ってしまおうと思っていたのだが。

そのように考える人は非常に多かったらしく、福袋販売の店はすでに長蛇の列。

9時に販売が開始され、ゆっくりと列は進むものの、一向に店までたどりつかない。

ようやく福袋を手にしたのは10時を10分ほどまわったころだった。


また少し並んで弁当を購入し(俺は中島プロデュースの弁当、相方は石井義人プロデュースのカレー)、メイン会場のドーム内へ。

このあとのアトラクションをできるだけ体験するために、まずはさっさとメシを食ってしまう。

11時から、オープニングイベント。

選手たちが登場し、渡辺監督の挨拶でスタート。

この後、選手たちは各アトラクションやショップへ散っていき、ファンと直接触れ合うのだ。

選手たちの移動通路用にレッドカーペットが敷かれていて、ファンはこの横に控えていれば選手とハイタッチが可能なのだ。



中華の足跡・改-オープニング 選手たちが次々登場。

まず俺らが選んだのは、スチール(盗塁)。

ボールを使わず、ただ1塁から2塁へ走るだけ、ではあるのだが。

選手が1塁に入るし、別の選手が投手のポジションから投げるふりもしてくれる。

2塁を駆け抜けてもいいし、スライディングをしてももちろんいいのだが、アンツーカーの土で汚れるから、滑り込む人はほとんどいない。

ということであるから。

・・・やるしかないでしょ。


その時に1塁に入っていたのは、盗塁王の片岡。

ラッキー、大物だッ。

まだイベントが始まって早々だから、片岡も元気いっぱい。

握手して、ちゃっかりと会話もできたぞ。

「札幌でいつも応援してます!」

「あ、札幌からわざわざ来てくれたんですか」

「はい!飛んできました」

「気を付けて帰ってくださいねー」

とまあ、実は選手と会話ができるとは思ってなかったから、若干テンパり気味。

ともかくも、せっかくの片岡の前だし、しっかり走らないと。

ちなみに投手役は、佐藤友亮。

じりじりっとリードを取り、モーション開始と同時に片岡から「ゴー!」の声が飛ぶ。その声を背中に受けて、2塁へと走る走る。

で、

スライディングゥ!

我ながらスピードに乗ったスライディングで、タイミングもバッチリ。

周囲のギャラリーから、おお、との声が聞こえたような、気のせいのような。

それでも、1塁の片岡を振り返って思わず両手でガッツポーズすると、片岡も同じように両手でガッツポーズを返してくれた。

最高だ。



中華の足跡・改-片岡 片岡。

1塁側ベンチ上のステージでは渡辺監督と工藤のトークショーが始まっていたけど、ほかにもたくさんまわりたいところがあったので、とりあえずドーム会場をいったんでることにした。


室内練習場へ行って、ノックのアトラクションに参加。

もちろん、グローブ持参である。

列に並んだ時は浅村がノック役で、参加者の後ろに控えるのが梅田だったが、途中で交代になり、ノック役が鈴木コーチ、後ろには上本が控えることになった。

なので、俺は上本の握手と、カードをゲット。

あ、カードというのは、この日用に各選手が名刺のようにもっている写真やプロフィール入りのカードで、イベント時や移動時にもらうことができるものなのだ。



中華の足跡・改-上本 上本。



中華の足跡・改-ノック しっかり捕球。


ノックを終えて、第二球場へ向かう途中で、田中をつかまえてカードをもらう。

さらに「若獅子弁当(だったかな?)」の販売テントの中に、雄星を発見。写真を撮っておいた。

第二球場内では、黒瀬とツーショットの写真も。



中華の足跡・改-雄星 雄星。

さて、相方はというと、大の石井義人ファンなものだから、とにかく石井に会いたいと。

なので、「石井義人を探すべし!」とのミッションスタート。

とにかくエリアが広いから、別行動で探索を開始することにした。


あちこちをうろうろしながらも、レッドカーペット沿いで移動中の選手を見つけてはハイタッチ。

平野、平尾、銀仁朗、高山、長田などなど。

ひときわ大きい歓声が上がったと思ったら、中島だった。

レッドカーペット沿いに参加者(主に女性)が殺到して、ものすごいことになった。

なかばつぶされながらも、俺もしっかりとハイタッチを交わす。



中華の足跡・改-平尾 平尾。



中華の足跡・改-高山 高山。


中華の足跡・改-中島 かすかに見えるユニフォームが中島。


石井義人は、キッズエリアのノック場所で発見。

藤原良平とペアを組んで、ちびっこ相手にノック。

相方はすっかり釘づけである。

一方で俺は、キッズエリアの別アトラクションで西口を発見。

ちょうど西口がアトラクション間を移動しているところにぶつかったので、しっかりとハイタッチ。

その後、フェンス越しに握手もしてもらった。

わーい。



中華の足跡・改-西口 素振りで遊ぶ西口。



中華の足跡・改-石井 石井義人。


なんだかんだでエリア内や球場、スタンド等を駆け回ったので、さすがに疲れてきて。

のんびりとスタンドでトークショーを楽しむことにした。

この時やっていたのは、涌井・帆足・高山・大崎・田中たち。

やあおもしろかった。



中華の足跡・改-トークショー トークショー。

2時すぎから、クロージングセレモニー。

中島から挨拶があって、最後に工藤の胴上げがあって、選手・ファン一体で一本締め。

いやあもう、お腹いっぱいだ。



中華の足跡・改-クロージング そしてエンディング。

ちなみに、福袋。

せっかくだからと、1万円の特福袋を購入したのだが。

TシャツやタオルやDVDやキーホルダーやストラップやクリアファイルやブランケットやぬいぐるみや・・・わんさかわんさか。

純粋に価格だけで言うなら、ゆうに2万円以上分は入っていた。

実用性とか、そういうヤボな話はナシの方向で。







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D組の演じる、『嵐になるまで待って』という劇は、レインディアエクスプレスと同様に、劇団キャラメルボックスの作品である。

徹司は、それ以上の予備知識も無く、暗転した舞台に注目していた。

ヒロインは、声優を目指す少女・ユーリ。あるオーディションに合格したユーリは、作曲家の波多野と、その姉である雪絵に出会う。

そして、とある出来事を目撃したユーリは、波多野が発した『二つ目の声』を聞いてしまう。それは、一般人には聞くことのできない声だったが、ユーリの耳にははっきりと「死んでしまえ!」という声が聞こえたのだった。

『二つ目の声』をユーリに聞かれたことに気がついた波多野は、ユーリを呼び出し、その心を読み、ユーリを追い詰めていく。ユーリが自分の声にコンプレックスを持ち、そのせいで片想いの相手・幸吉に想いを打ち明けられないでいることを悟った波多野は、『君が声を出さなければ彼は君の事を愛してくれる』と、二つの声で暗示をかける。打ちのめされたユーリは、自分の声を失ってしまうのだった。

声を失ったユーリは、幸吉や精神科の広瀬教授らの協力を受けながら、声を取り戻す手段を探した。そしてユーリたちは、波多野の姉であり、耳の聞こえない雪絵に会う。雪絵は、波多野の能力のことを知っていた。だが、その能力は全て、耳の聞こえない自分を守るために使っていることをも承知していた。

そんな最中、波多野が雪絵のもとへ尋ねてきて、ユーリたちと出会う。雪絵に接触したことを知った波多野は激怒し、幸吉にマンションから『飛び降りろ!』との暗示をかける。その幸吉を必死で引き止めるユーリは、ついに自分自身の暗示をも打ち破り、声を取り戻す。二人の暗示は解かれた。だが、嵐の中、波多野はさらに迫りくる。対峙する彼らの間に、雪絵が割ってはいる。雪絵は波多野を説得し、そして波多野は自らの命を絶つ……。

――と、そういうストーリーの、サイコサスペンスであった。

幕が下りると、徹司は無意識に肩と首を動かした。緊迫した展開に引き込まれてしまい、凝ってしまったようだ。演技も見事だったし、一切言葉を発しない雪絵の手話による演技は迫真のものだった。

「いやあおもしろかったな」

屈託無く、横石は感想をもらす。

徹司も全く同感だったが。

正直なところ、自信を砕かれた感もあった。

A組の出来ならば、アカデミー賞はきっと間違いないだろう――と、無意識のうちに思い込んでいたのかもしれないが、どうもそんなに甘いものではないらしい。

考える表情になった徹司の背中を、横石が叩いた。

「モモ、考えすぎは悪い癖だぜ」

徹司は、顔を上げて横石を見た。

さらに古兼が、

「トッコがさっき言ってたろ?変に意識するなってさ。つまりこういうことだろ、きっと」

そういえば、そうだった。

朋子は、これを見越していたのだろうか。

「なんだかな……すっかり読まれてるな、俺」

口ではぼやいた徹司だったが、驚くほどあっさりと心のもやは晴れた。結局、根は単純なのであろう。
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台風一過、23日は昨日とはうってかわって、雲ひとつ無い見事な晴天となった。風も無く、絵に書いたような秋晴れの日である。この天気なら、校外からも多くの来客が見込めるだろう。どうせなら、できるだけ多くの人に来て欲しい――徹司は、そう願った。

一昨日、A組は、全体としてミスはいくつかあったものの、朋子の機転などにも助けられ、まずは大きな問題もなく演じることができた。意図していたところでは笑いを誘うことができたし、緊迫した場面では会場を張り詰めた空気が覆った。そして、カーテンコールの際の大きな拍手。どれもこれも、徹司には未体験のものだった。そして徹司は、これほどまでに強い充足感を得られたことに、自分自身でもやや驚きを禁じえなかった。

――案外俺、性に合ってるのかもしれない。

そんなことを考える余裕すら生まれてきた。

もっとも、自信を植え付けられたのは、徹司一人だけではなかったようだ。

朝の教室の雰囲気は、一昨日のそれとは大きく変わっていた。

明るい。

天候のせい――だけでは、絶対にない。

役者たちも裏方の人間も、大きな手ごたえを感じているのは間違いなかった。

「モモ」

横石が声をかけてきた。古兼も一緒だ。

「今日、俺らの劇までの間、どこ回るかとか決めてる?」

「いや、特には」

「じゃあさ、D組の劇見にいかねぇ?なんかさ、あそこがライバルっぽいじゃん。題名、なんだっけ?」

横石が古兼を振り返った。

「『嵐になるまで待って』」

「そうそう、それ」

「えーと、構わないよ。場所と時間は?」

「どこだっけ?」

横石はまたも古兼を振り返った。

「や、ちょっとは覚えとけよ。被服室で9時半から」

「オーケー。じゃあちょっと中庭とかぶらついてから、行こうか」

そのとき、

「あ、モモちゃん?D組の、見に行くの?」

と話しかけてきたのは朋子だった。

「うん。トッコも行く?」

朋子は少し残念そうな表情で首を横に振った。

「ごめん、あたし、一昨日もう見てきたんだ」

「あ、そうなんだ。どうだった?やっぱり上手だった?」

「そうねー……うん、よくできてたと思うよ」

「そっか。じゃあ勉強させてもらおうかな」

徹司は軽い気持ちで言ったのだが、朋子は真剣な表情になった。

「えらそうなこと言うようだけど、そういうふうには見ないほうがいいよ。A組の芝居も、今はすごくいい状態で仕上がってるから、変に意識しないほうがいいと思う」

横石が感心したように頷いた。

「なるほど、そういうものか」

古兼が笑って、

「わかった。気楽に楽しんでくるさ」

と、引き取った。

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シーン8の場所は、永吉の実家である花屋だ。

永吉と話そうと、拓也がやってきて、店員をしている姉のユカリや永吉の母・歌子と会話をしている。そこへ、永吉が雷太・騎一郎の二人を連れて帰ってくる。雷太の素性を疑い、マスコミの人間だと思い込んでいる拓也は、雷太を問い詰める。しかしユカリは、確かに以前雷太に会ったことがある、懐かしい感じがする、と、雷太をかばう。と、そこへ、一人の男が怪我をした状態で倒れこんできた。陣八だった。拓也たちは混乱したまま、とりあえずは怪我人を家の中へ運び込む……。

本来はこの後、下関へ場面が飛ぶのだが。

朋子は、すぐにシーン6の場面へ繋げることを思いついたのだった。

劇中の時間軸では、シーン6がシーン8の前なのだが、シーン6・7は場面が学校で、登場人物もあまりシーン8とはかぶらないので、順序を逆にしても観客にはそれほど矛盾点が見えないのである。

――と、後から考えればその通りなのだが、劇中のアクシデントの際にすぐにここまで考えが及ぶか、といえば、また話が別である。

実際、徹司にはこのような修正案は浮かびもしなかった。

それを朋子は、シーン8終了後に「そして、翌日のこと」というナレーションを舞台裏から入れただけで、あざやかにこの劇を救ったのだった。

見事、というほかない。

アクシデントを無事に乗り越えたことで、みんなの気持ちにもかえって余裕が出たようだ。いい流れを保ったまま、エンディングを迎えることができたのだった。

ラストシーンは、東京の学校の屋上。50年ぶりの再会を果たした雷太とナオ。ナオの「ありがとう」の言葉を受けて、雷太は優しく微笑み返し、そして騎一郎・陣八と共に去ってゆく。次なる幸せを運ぶトナカイのように。

役者達によるナレーションは、最後は声が合わさる。

「私たちは出会った。確かに出会った!」

その言葉と共に、エンディングの音楽が流れ出す。音響係が選んだのは、マイケル・ジャクソンの『WILL You Be There』である。そして同時に、天井の梁にしかけたザルが横紐でゆすられ、雪をイメージした紙ふぶきが舞台上に舞う。

舞台上の役者達が、一列に並ぶ。徹司たちも、再び舞台に出て、列に加わった。徹司は、かぶっていた野球帽を右手で取った。

そして、朋子の「ありがとうございました!」の声にあわせて、一斉に頭を下げる。

それに応えるように大きく湧き上がる拍手の嵐。

――すごい。すごい。

徹司は、顔を上げることができなかった。

体が震えている。

――なんだ、これは?

顔は、自然にほころんでくる。

これが――

刹那のうちに、徹司の頭には様々な光景がよぎった。

――これが、答えだ。

徹司はようやく顔を上げた。

拍手は、まだ続いている。

徹司は、手に取っていた野球帽を、深くかぶりなおした。

涙が、出そうだった。

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順調に進んでいた芝居に、異変がおとずれたのは、シーン6でのことだった。

下関にて、こずえは、東京の友人・ユカリからの手紙を読みながら、ナオと会話をかわしている。

こずえが手紙を読み上げ、その文面に沿って舞台は東京へと切り替わるようになっている。

ところが、このとき。

こずえ役の島山が、おそらくは緊張のせいだろう、この手紙を読み間違えてしまった。シーン6の途中なのに、シーン8で読み上げるはずの文面を読み上げてしまったのだ。

舞台裏に待機していた役者たちは、無言で顔を見合わせた。

まずいぞ。どうする。どうすればいい。

沈黙の中、焦燥感だけが増していく。

役者たちの精神的支柱は何と言っても朋子だが、その朋子は今舞台上である。
落ち着かない視線が飛び交う。

珍しく真剣な表情になった古兼が、押し殺したような声を出した。

「正直、俺にもどうしたらいいかわからないけど、とにかく、舞台を止めるわけには行かないからさ。とりあえず、手紙の内容に合わせて、続けてみよう」
その言葉に従って急遽シーン8に突入することになり、西崎・紗千子・大弓らが舞台へ出た。

入れ替わりで、朋子と島山が裏にはけて来た。

島山は青い顔をして、口元を両手で覆っている。

ごめん、と、声に出さずに謝った。

どうしていいか、徹司にはわからない。舞台ではもうすぐに、雷太の出番がやってくる。何とかしなければ、とは思うものの、全く考えがまとまらない。

一方、朋子は真剣な表情で宙の一点を睨んでいたが、何やら思いついたことがあったようだ。一つ頷くと、隣りの島山の肩を優しく叩いた。

「大丈夫だよ、サツキちゃん。問題ないから」

そうささやくと、徹司のところへ小走りにやってきた。そして、小声で徹司に告げた。

「とりあえず、シーン8をやりきっちゃおう。それでその後、あたしが簡単なナレーション入れるから、そのままシーン6の東京の場面につなげよう。場面そのものは違うし、それほど無理なくリカバリーできるはずよ」

まさに、天の声。

徹司は、この瞬間ほど朋子を心強く思ったことはない。

「さすがだぜ、トッコ!」

やはり小声でささやいて、親指を立てる。

もうすぐに、雷太の出番だ。

「トッコ、後、お願いね」

「任せて。舞台の方は、モモちゃんよろしく。落ち着いて、堂々とやってね。役者たちの動揺って、不思議なくらい客席に伝わっちゃうから。サッチーやニシンくん達を安心させるように、ね」

徹司は返事の代わりにニッと笑い、舞台へ飛び出した。

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10時。

客席、そして舞台は暗転した。

静寂。

6人の役者が、舞台の柱の陰から歩み出る。

徹司、横石、内建(うちだて)の三人は舞台中央の暗幕の後ろにスタンバイした。

「明治二年、五月」

6人の声が、綺麗にそろって響いた。徹司は、大きく深呼吸をした。このオープニングのナレーションは、すぐに終わる。そうしたら、徹司たち三人は、徹司を先頭に舞台に踊り出るのだ。

徹司は呼吸を整えながら、ナレーションに耳をすませた。

「戊辰戦争のさなか、政府軍はとうとう函館を占領した」

「幕府の敗北は、誰の目にも明らかになっていた」

「五稜郭に籠城していた榎本武揚は、ついに降服を決意」

「明日は、いよいよ五稜郭を明け渡す」

「という前夜。一艘の小舟が、堀へ出た」

徹司は、横石と内建に小さく頷くと、暗幕を跳ね除けて、舞台に飛び出した。

そのまま一気に、舞台中央まで走り出て、しゃがむ。

スポットライトが、やけに眩しく感じられた。客席は暗く、イメージとは違って客の顔はほとんどわからない。

騎一郎役の内建がまず第一声。

「北条殿、みじめではないですか」

「みじめとは?」

「こうして夜中にこそこそ逃げ出すことです」

「逃げるのではない。出直すのだ。また新たに戦うために」

自分の声を確かめる。

大丈夫だ。震えてもいないし、いつも通りに声は出ている。

「たったの三人で?」

陣八役の横石の声も、普段どおり。

「俺が榎本さんについてきたのは、降服するためではない。戦うためだ。榎本さんが降服するというなら、勝手にすればいい。俺はあくまで戦う。例え最後の一人になろうとも」

長めの台詞も、問題なくすらすらと出てくる。

「俺も戦います。戦って、死にます」

騎一郎――内建と目を合わせる。雷太――徹司は頷く。内建も、問題はなさそうだ。よし、いける。

「おぬしは?」

雷太は陣八を振り返る。

「とりあえず、漕ぎましょう。早いとこ、海へ出ないと」

「おい」

「おぬしは!?」

「面舵いっぱーい!」

なるほど、腹を決めてやってしまえば、何とかなるものだ――と、シーン1を終えて舞台裏に一度下がった徹司は、思った。

ただ、少し息が切れている。やはり、緊張していたのだろう。

今は舞台では現代の下関の場面。ナオ役の朋子とこずえ役の島山が、会話を交わしている。

古兼が、徹司のそばによってきて、にやりと笑った。

「いけそうかい?」

小声で、言う。

徹司も小声で答えた。

「何か、思ったより緊張しなかったかも」

「あ、俺も」

横石が会話に加わった。

「よっしゃ。ラストまで、一気に突っ走るか!」

やはり小声で、徹司は気合を入れた。

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今年、4回目の結婚式。

今回は学部の友人で、名古屋まで。

友人は千葉の人間なのだが、勤務地が名古屋で相手も名古屋なので、挙式も名古屋ということになったようだ。


名古屋に行くのは、2回目だ。

1回目は、確か2003年くらいに、当時名古屋に住んでいた友人を訪ねてバイクの旅だった。

東名高速で雨に降られて名古屋市内でスリップして転倒して、まあ何とか無事にたどり着き。

ちょうどナゴヤドームで中日-巨人戦をやっていたので友人と見に行って、岐阜の下呂温泉までソイツとツーリングして。


今回はさすがにバイクで、というわけにもいかないので、飛行機だ。

千歳から、中部セントレア空港まで飛ぶ。


名古屋の披露宴というと、絢爛豪華というか成金趣味というか、とにかく豪勢なイメージがつきまとう。

が、今回は、会場こそ立派なところ(国の文化財指定を受けている「松楓閣」なる所)だったが、内容そのものはシンプルなものだった。

式は人前式だったし、披露宴は会社の上司を呼ばずに親類と友人だけ。

ケーキカットやキャンドルサービス、スクリーンを使った映像等も無し。

余興も、一切無し。

そんなわけで、今回は俺はのんきな参列者。


 
 
中華の足跡・改-人前式 みなさまが証人です、と。



 
 
中華の足跡・改-控室 控室にて。こうしてみるとみんなおっさんだねぇ。


無事に式は終了。

俺らのグループは俺以外みんな関東からの出席だったのだが、用事がある人数名を除いてみんな名古屋泊。


おりしも、名古屋では日本シリーズの最終局面が。

グループの中の一人が熱心なマリーンズファンということもあって、可能ならばナゴヤドームに行きたい、という話になった。

が。

日本シリーズのチケットが、そうそう転がっているはずもない。

市内の金券ショップを数件、ダメもとで回ってみたが。

「すみません、日本シリーズのチケット探してるんですが・・・」

「ないです」

即答。

ていうか、店員のねえちゃんから「何考えてるんだろ今頃チケットあるわけないじゃんバカじゃないの」的オーラを感じたのは気のせいか?


そんなわけで奮闘(?)むなしくナゴヤドーム参入はかなわなかったので、ホテルの一室で酒を飲みながらみんなで観戦することに。


その前に、メシ。

数ある名古屋名物の中で、この日のチョイスは味噌煮込みうどん。

うまそうだった。

るるぶ情報誌に導かれて、名古屋駅の隣接タワーのとある有名店へ。

しっかり行列ができていたが。


で、うどん。

独特の味わいだが、特筆すべきは面の固さ。

腰がある、というべきなんだろうけど、フツーにカタい。

どちらかというと、一見さん向きのメニューではないような気もしてしまうが。

クセになりそうな味でもある。

 

日本シリーズの試合はというと、こんな日に限ってシリーズ史上最長の試合になってしまい、結局引き分け。

その長い試合の中で、一部屋に6人で陣取って観戦していた俺らグループは、途中で一人抜け二人抜け、あるいは力尽きてベッドに倒れ、試合終了を見届けたのは俺ともう一人だけ。

一番熱心に応援するべきマリーンズファンのヤツは、なんだか延長に入る前にすでに撃沈して爆睡。

おかしいだろ。


さて日曜日。

朝食バイキングの中に、名物の味噌カツやきしめんがあったので、ここでクリアしておく、と。

よし。


レンタカーを予約してあったので、ドライブの旅。

紅葉の名所・香嵐渓というところまで足を延ばしてきた。

渓流や古民家などがあってのんびりできる観光地。

ただ残念ながら紅葉のピークまではもう少し、というところで、それでも少しずつ色づき始めた山々はきれいなものだった。

天気よかったし。


 
中華の足跡・改-香嵐渓 みんな大好きな揺れる吊り橋。


市内に戻って、熱田神宮なんかを巡って、そしてまたまた名物の「ひつまぶし」を賞味。

例によってるるぶ情報で、有名店を。

帰りの飛行機や新幹線の都合もあって、4時すぎくらいに店に行ったら、すでに行列が。

ただ、前に並んでいた人たちはすべて禁煙席希望の人たちで、喫煙席を希望した俺らはほぼ貸切状態の座敷へ。

喫煙友達に助けられた。


このひつまぶしが、いやもううまいこと。

みんな、大絶賛。

食べ方があるらしくて、まずおひつの中のごはんとうなぎをしゃもじでずばっと4等分。

はじめの4分の1をそのまま茶碗に移して食す。

次にまた4分の1を茶碗にうつし、今度は薬味(刻みのり・ネギ・わさび)を混ぜて食らう。

そして次の4分の1は、やはり茶碗に移してから薬味とだし汁のようなものをかけ、お茶漬け風にしてかきこむ。

最後は、お好きな方法でどうぞ、と。

食事中はみんな静かになり、もうガツガツと。

やーうまかった。



中華の足跡・改-ひつまぶし 一人前¥2,730也。


そんな具合で。

メインが結婚式なんだか同期会なんだか旅行なんだかわからない名古屋行、無事に終了でした。

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台風接近に伴い、2日目の日程が一日順延。

事実としてはそれだけのことなのだが、ただでさえ非日常イベントの文化祭の最中に台風という子供にとっての興奮事項が加わり、校内にはさらに異様な空気が増した。

それでも、時間になれば、予定通りに文化祭はスタートする。

飲食店や展示系のクラスは、ここからヨーイドンのスタートとなる。演劇の場合は、上映開始時間が本当の意味でのスタートだ。

3-Aの芝居は、初日は10時からのスタートの予定である。

開始まで少しだけ時間は空いているが、その間にのんびり他のクラスを回るという余裕は、徹司にはなかった。緊張感を抱えたまま、トレーニングルームに向かった。

このトレーニングルームという名の建物は、体育館に隣接していて、主に剣道や柔道の授業や部活動で使われることが多い。体育館ほど広くはないが、それでもかなりの人数を楽に収容できる上に、中庭からもすぐに入ることができるため、演劇の会場としてはなかなか便利な場所である。

各クラスの会場の調整は文化祭委員会で決められるのだが、抽選の結果、3-Aがトレーニングルームの使用権を獲得したのだった。ちなみに他の演劇をやるクラスは、体育館だったり、特別教室棟の書道室や被服室といった広めの教室を試用することになる。

ただし、トレーニングルームには、体育館にあるような舞台はない。そのため、A組の大道具係はすでに数日前からセットを組み、高さは変わらないものの、立派な舞台を作り上げていた。その中で、教壇を利用して舞台の後方を高くし、さらに幅1メートルほどの柱のようなものを幾つか作成し各所に配置し、暗幕と組み合わせることで舞台裏とつながる袖口にした。舞台中央の後方と両脇から、それぞれ役者が登場できるようになっている。

その舞台裏が臨時の楽屋代わりで、役者達の待機場所になっていた。

さすがに初日ということもあり、どの顔を見ても緊張感がみなぎっている。

自然体なのは――或いはそう見えるだけかもしれないが、朋子だった。

「いよいよだね、トッコ」

徹司は、黙ってもいられずに、話しかけた。

「そうだねー。もうあたし、ワクワクしちゃって」

「緊張とか、しないの?」

「してるよ、一応。モモちゃんは?」

「いやもう、ものすごく。大丈夫かな、俺」

「大丈夫大丈夫、始まっちゃえば何とかなるって」

朋子はぽんぽんと徹司の肩を叩いた。

不思議なもので、たったそれだけの行為で徹司の気持ちは随分と落ち着いた。

「みんな、そろってる?」

横合いの入り口から、演出の遅坂が顔を出した。

「30分前になったので、開場するよ。みんな、がんばろう」

うっし、と気合の声を出したのは横石だった。

徹司は、ぐるりと役者達を見回した。

古兼も、後藤も、西崎も、鈴本三姉妹も、その他の出演者達も、みんないい表情をしている。

音楽が、流れ出した。

開場から芝居開始までの間に流す音楽は、坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』である。落ち着いた雰囲気の曲で、今回の芝居の中の時期――クリスマスとも合っている。

やがて、観客席の方から、少しずつざわめきの声が聞こえてきた。客が、入り始めたようだ。

刻一刻と、上演時間が迫ってくる。

「みんな――

朋子が、呼びかけた。

「楽しもうね!」

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